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livetune+が見出した、ポップスとライブの新たな可能性「完璧である必要性はない」

2016年05月15日 19:21  リアルサウンド

リアルサウンド

livetune+(撮影=三橋優美子)

 「Google Chrome -初音ミク編-」のCM曲「Tell Your World」を筆頭に多くの楽曲を手掛けてきたkzによるソロプロジェクトlivetuneと、青文字系モデル&シンガーとして活動するやのあんなによる新ユニット、livetune+のデビューEP『Sweet Clapper』が完成した。


 kzがプロデュースを担当し、やのがボーカルを務めた2013年の『ステラ女学院高等科C3部』主題歌「Shape My Story」の制作を通して出会った2人は、豪華ゲストをフィーチャーしたlivetuneの2014年作『と』の収録曲「オール・オーヴァー」(『魔法少女大戦』のOP曲)でふたたび共演。livetune+として初の作品となるこの『Sweet Clapper』では、タイトル曲を筆頭にきらめくシンセや全編にちりばめられたクラップ、そしてやのの伸びやかなボーカルを生かした、ライブ感のある歌ものポップスを追求している。と同時に、『おもちエイリアン』のDVD作品に提供した「そふとたっち」や、今回初めてタイアップなしでの作業となった「スローペース」や「Darling Darling」のような楽曲には、固定ユニットとして結成されたこのグループならではの成熟した魅力も感じられる。


 互いが影響を与え合うことで、それぞれの新たな表情が引き出されていくlivetune+というユニットは、果たしてどんな風に生まれたのか。2人に訊いた。(杉山仁)


・「バンドでのライブにある一回性に惹かれた」(kz)


ーーkzさんとやのさんは「Shape My Story」で初めて出会ったと思いますが、いわゆる「プロデューサーとシンガー」というよりも、よりフレンドリーで何でも言い合えるような関係を築いているイメージがありますね。


kz(livetune:以下kz):でも、「オール・オーヴァー」の頃までは、まだちょっと「プロデューサーとシンガー」という雰囲気だったんですよ。


やのあんな(以下やの):特に最初の「Shape My Story」の時は私もガチガチで。まあ、「オール・オーヴァー」の頃にはそんなに「プロデューサー」って感じではなかったかもしれないですけど。


ーーそもそも、お互いの第一印象はどんなものだったんですか?


kz:“変な人”ですかね(笑)。「Shape My Story」がアニメの曲だったので、「アニメは観ますか?」と訊いたら、まず「今期は……」というワードから始まって、挙げた作品も「そこ行くか」というものばかりで(笑)。


やの:kzさんもアニメが好きだと思ったんでぶつけてみたんですけど、ちょっと引かれちゃって。


kz:別に引いてたわけじゃないよ。「『化物語』と『魔法少女まどか☆マギカ』が好きです!」って言われるよりは全然いいなって思っていましたね。


ーーやのさんは、会う前からkzさんのことを知っていたんですか?


やの:最初は知らなかったです。でも、「ボーカリストを探している」という話を聞いて調べてみたら、初音ミク系の知っている曲を沢山作っている人で「この人だ! すごい」って。


ーーそれから徐々に仲良くなっていったと思うのですが、その中でお互いについて感じるすごさのようなものがあれば教えてください。


kz:(即答で)傍若無人なところですね。やのは失礼なことをしても憎めない人というか。僕はそれって才能だなって思っていて。


やの:でも、そのおかげで(kzさんと)仲良くなれたので(笑)。逆にkzさんのすごいところは、色んなことができるのに、それを「すごいでしょ」という感じにしないこと。


ーーそんな2人が、今回livetune+を結成したきっかけとは。


kz:最初は、僕が一緒に組めるボーカリストを探すところから始まったんです。『と』の曲の中で一番最初に作った「Transfer adding 中島愛」をレコーディングする以前からずっと探してはいたんですが、そうそういるわけでもなく。『と』を作り終わった時に、「そういえば近くにいたじゃん」と、やのの存在に気付いたんです。ユニットを組むとなると、地方を回ったり、クルマで何時間も一緒にいなければいけないので、友達のような関係性の人と始めたいと思っていたので、そういう意味で適任かなと。シンガーとしても、テクニックだけならもっと上手い人はいますが、やっていくうちに成長が見られるのも楽しいと思ったし、すでに完成された人とやっても、想像の範疇にしかならないかなと。そこで1年半くらい前に「一緒にやる?」と声を掛けたのが最初でした。


ーーやのさんは話をもらった時、どう感じましたか。


やの:実は私、昔からずっと音楽をやりたいと思っていて。


ーー高校の頃は軽音部でギター&ボーカルだったんですよね?


やの:そうなんです。「いつかは音楽業界の人になる」って、誰にも言わずに企んでいて。 「Shape My Story」を出してもその実感はなく、「どうやったら音楽の世界に入れるんだろう?」と思っていたので、私としては声を掛けてもらって「よっしゃ!」という感じでした。


ーーそしてこのlivetune+では、kzさんが作る楽曲も変わってきている印象があります。


kz:そうですね。今回はライブをやりたいという気持ちがあって、ゆくゆくはバンド編成でもやることを見据えているんです。今までは打ち込み100%の純然たるダンス・ミュージックが多かったけど、最近はバンドの友達が増えたこともあるし、その友達のライブを観に行く機会も増えて、一周回って「やっぱり楽器っていいよな」というところにいる状態で。だから、後々ドラムの方に参加してもらうこともできるように、柔軟性のある作り方をしています。たぶん、ライブをやっていくうちに、アレンジも全部変わっていくと思いますね。ちょっとしたら全部ライブ用にアレンジを変えると思うし、バンド・バージョンもできるでしょうね。もちろん、DJでも色々なプレイが可能ですが、バンドでのライブには、一回性があるというか。ギター・ソロをミスしたり、入りのタイミングを間違えたとしても、それはそれでひとつの思い出になる。そういうトラブルを起こしたいから生(演奏)にしたいんですよ。


ーー実際、楽曲はライブを意識したものが多いと思いますが、特にタイトル曲の「Sweet Clapper」は、曲調も歌詞もMVの振り付けも、それを象徴する楽曲になっていますね。


やの:そうですね。この曲の振付は、クラップ以外の部分の振りも誰でも出来るものになっているんです。


kz:僕が自分でDJをしたり、友人であるUNISON SQUARE GARDENのライブを観に行ったりすると、みんなAメロなどの平歌でクラップをやるんですよね。それってサビに対するビルドアップとしてのクラップではなくて、平歌でクラップしちゃう「ジャパニーズロックバイブス」のようなもので、それが良いと思えるようになったので、livetune+の曲を作り始めたんです。そこで最初に作ったのが「Milky Rally」の手拍子部分で、そういうクラップの打ち方や、みんなで歌ったりするというベタなライブ感を全部入れて作ったのが「Sweet Clapper」ですね。


ーー具体的に参照元になったアーティストはいたんですか?


kz:いや、単純に自分が行ったライブでの思い出を詰めた感じでした。もしくはZeddのようなシンガロング感とか。きゃりーの曲にもクラップがあるし、バンドだとサイサイ(Silent Siren)さんのライブを観た時にもみんなでクラップをしていて、「楽しそうだなぁ」と思ったりして。でも、ここでやっているのは基本的にクラブ・ミュージックなんですよね。「クラップして歌ってジャンプする」ってただのEDMですから。マインド的には、形を変えたEDMという感じなんですよ。


・「何かを練習して上手くなれたのって、歌が初めてだったかも」(やのあんな)


ーー今回はこれまでの作業とは違い、2人で何曲も作ることになりました。固定ユニットとしてのlivetune+として、これまでの制作とは違う部分も出てきたと思うのですが。


やの:そうですね。今までとは違ってタイアップがついていない曲もあるし、私も要望を出せるという特典付きだったので。


kz:今回はアルバム曲も作りたかったんですよ。(中島愛やFUKASEを筆頭に豪華ゲストが参加した)『と』の時は、せっかく来ていただいた客人だからもてなしたいという気持ちもあり、全曲A面みたいな作品になったので、逆に言うと「この曲はアルバムに入ってるからいいよね」というタイプの曲を作れなかった。でも、今回のlivetune+は長期的なプロジェクトだと考えたとき、「シングルじゃないけどアルバムにあったらいいよね」という曲も書けると思ったんです。「スローペース」や「Darling Darling」はその流れで生まれた曲で、その結果、ボーカルも幅広いものが出せるようになって。


やの:曲の幅があるおかげで、私もやっていて楽しかったです。


kz:「そふとたっち」もまさにそういう曲ですね。あれは割と苦労したんですよ。


やの:いつもは元気に歌うのに、「力を抜いて」って言われて、「何で? 元気でいいじゃん!」って。でも、それも新しい課題だと思ってやりました。


ーー「Jump Up」はどうですか? この曲もライブを意識したものになっています。


kz:これはやのが「人を応援する曲が作りたい」と言っていて、「じゃあそうしようか」と思って作った曲です。


やの:実は私、その時ちょうどマラソンを始めたての頃で……自分が走る時に応援してもらいたくなる曲がほしいなぁと思って。


kz:君のための曲だったの? 俺、まんまと利用されてるじゃん!(笑)。


やの:いやいや、自分がそういう風に思うということは、「きっと応援されたい人は沢山いるだろうな」ということで。あと、「Darling Darling」は録り直した時、「前の方がエモかった」という説が出たよね。初めて録った時の方が歌は下手だったのに、なぜかよく録れていて。ボーカルとしては成長したはずなのにその雰囲気を出せない、みたいな。


kz:それでさらに録り直したんで、この曲は全部で3回録音しました。僕はピッチがどうこうというよりもニュアンスを大事にするんです。初期衝動感というか、「完璧である必要性はない」というのは、最近僕の中では大きなものでもあるんですよ。


ーーあと、livetune+では歌詞の面でもkzさんのこれまでの曲との違いが感じられますね。


kz:やっぱりそれは、ここに強い女性がいたからだと思います。これまでは、たとえばClariSだと中学生のか弱い女子という感じで。そっちに合わせた歌詞を持っていくと、「そんなファンタジーはない」とばっさり切り捨てられたりして(笑)。


やの:もちろん、そのよさもあると思うんです。でも私も24歳になって、これまで色んな女子を見てきたし、自分自身も色んなものを見てきて、「こんな幻想は流石にないな」と(笑)。


kz:その反省を生かして作っているのが今回のEPの収録曲だったりするので、歌詞はやののキャラクターに違和感のないところまで寄せていきましたね。


ーー収録された楽曲にも、やのさんの意見によって曲が変化したものはあるんですか?


kz:「Restart」の代わりに1曲目として考えていた曲は、やのが「嫌だ」と言ってなくなりました。やのが嫌だと言ったものは、形を変えるとかではなく、完全になくなるんですよ(笑)。


やの:もちろん、kzさんはきっと色んなことを想定して曲を作ってくれていると思うんですが、「何となく嫌だ」ということは言うことにしていて。


kz:それってすごく大事なことだと思うよ。


ーー「ひとつの声に向き合う」という意味で言うと、kzさんにとっては初音ミクを使った作業に通じる部分もあったと思いますが、やのさんとの作業では相手からのレスポンスもあるというか。そうやって偶然性が生まれるのが、このユニットの面白いところですね。


kz:そうですね。それに、やのはいい意味で「王道」って感じなので。そう言い切ってくれる人間でよかったなと思います。僕と同じような人間が揃ったらニッチな方向に行ってしまうけど、「そんなのどうでもいいじゃん」「そういうことじゃなくて、『私が気にくわないんだ』」って、そこを打破してくれるというか。


ーー2人の関係性が、ほどよいバランス感覚になっている、と。でもやのさんって、実はボーカリストしてかなり歌が上手い人ですよね。


kz:そうなんですよ。あまり褒めたくはないんですが、上手くて。


やの:褒めてくださいよ(笑)。私は歌うのが本当に好きで、沢山練習してきたんです。妹が歌が上手いので、私の母に「あんたは何でそんなに歌が下手なの?」と言われたのが悔しくて、めちゃくちゃ練習して。何かを練習して上手くなれたのって、歌が初めてだったかもしれないですね。


ーー今回のレコーディングの中で、2人が印象に残っている瞬間はありますか?


kz:色々なボーカルの方に歌っていただく時にディレクションをすると、それに合わせてくれようとしても、その人のクセだったり覚えていることだったりがあって、上手くいかない場合がありますが、今回は「こういう風になったらいいな」ということをやのが最初からやってくれていたり、リクエストを投げても2~3回で合うものが返ってきたりしたんです。全部うちでレコーディングして、1日で3曲録ったりもしましたね。


ーー逆に、やのさんが印象に残っている瞬間は?


やの:「そふとたっち」のレコーティングですね。この曲の場合は「音痴でもいい」というディレクションで。


kz:ボーカルをダブルで録っているんです。わざと声をずらして重ねているんですが、やのは結構ピッチが合うので、あえてずらさないとユニゾンになってひとつの声にしか聞こえない。だから「ちょっと下手に歌ってくれ」という風に言いました。


・「<unBORDE>にはブランドとしての魅力がある」(kz)


ーー今回、デビューEPが<unBORDE>から出ることについてはどのように感じていますか。kzさんとしては中田さんやtofubeatsさんと、やのさんにとってはきゃりーさんと同じレーベルに所属することになりました。


やの:私は「unBORDEがいいな」と思っていたので、嬉しかったです。きゃりーちゃんやCAPSULEさんのように事務所が同じ人たち(ASOBISYSTEM)がいて、一番イケてるレーベルというイメージだったんで。


kz:<unBORDE>には武道館のようなところでライブをしている方も沢山いらっしゃいますけど、いい意味で気持ちがど真ん中のポップスを向いていないというか。「ちょっと外れているけど、よく考えてみるとポップスだった」というねじれがすごく好きなんです。tofubeatsや中田さん、神聖かまってちゃんのように知り合いも多い。あと、個人的には昔からパスピエが好きなんで、「彼らのライブをすぐに観に行ける。やった!」みたいな喜びもあったり(笑)。レーベルだけに限らず、曲を提供したアニメ作品もそうですが、「自分が関わっているもののファンである」ことって、僕は大事なことだと思うので。その中のひとつとして、<unBORDE>にはブランドとしての魅力がありますよね。ワーナーミュージック内の特殊部隊感があるというか(笑)


ーーまた、中田さんやtofubeatsさん、banvoxさんとkzさんが立ち上げたイベント「YYY(ワイワイワイ)」も第一回が開催されて、やのさんも出演しました。このイベントはクラブ・ミュージックとポップ・ミュージックを融合させるアーティストの中でも間違いのないメンバーが揃ったものになっていますね。


kz:最近中田さんは「下の世代と一緒に何かやりたい」というバイブスがあるみたいなんです。この間もtofubeatsのリミックスをやっていましたし、今回は僕も誘っていただいて。あと、バンボ(banvox)は少し特殊ですけど、中田さんも俺もtofubeatsも、ダンス・ミュージックを作りながらまったく関係のないポップスも作っている人間なので、「クラブを知らなくてもOK」みたいな雰囲気があるんです。昼だし、高校生とかも来ていて、(客層が)若かったよね?


やの:始まる前に並んでいる人たちもほとんど大学生とか。


kz:昼に高校生が来れるようなイベントで、「YYY」みたいな規模のものって意外とないので、そういうものを育てていける場所に出来たらいいなと思います。僕らがやってきたことって「クラブ・ミュージックっぽいけどクラブ・ミュージックじゃない」という部分があるんで、それを広げていきたいし、そこにbanvoxというフロア向きの素晴らしい曲を作るアーティストもいて。だから、別にDJにこだわらなくてもいいと思うんです。


ーーlivetune+としては15年の11月からライブをスタートさせていますが、今回の『Sweet Clapper』リリース以降のライブでは、どんなことをしてみたいですか?


やの:それはkzさんの人脈を使って……。


kz:人頼みかよ!(笑)。


やの:バンド編成でライブをしてみたりとか。あと、私はフェスをやってみたいですね。イベントって「人と人を結びつける」「その人の記憶に残る」ものだと思うんです。インスタのパネルを作ったりしても面白いし、色んな人を巻き込んで行きたい。


kz:正直まだ何も分からないところもあるんですよ。今回のEP『Sweet Clapper』を出してから、俺たちに何が出来るのか考えよう、という感じです。


ーー逆に言えば、「これから何でも出来る」ということですね。


kz:そうですね。だから、色々と探っていけたらと思っています。(取材・文=杉山仁)