何カ月にも及んだ交渉の末に、F1の首脳陣は先月ようやく、2017年から2020年までのパワーユニットのコスト、供給、性能均衡化、ノイズ(音)について合意に達した。
FIAのヘッド・オブ・パワートレイン、ファブリス・ロムとレースディレクターのチャーリー・ホワイティングは、スペインGPが開催されるバルセロナで会見を行い、新レギュレーションに含まれる変更点について、くわしい説明を行った。以下、内容を解説しよう。
<コスト:使用基数を制限して、価格を引き下げ>
来季エンジンの供給価格は、今年の価格より100万ユーロ低く設定され、2018年から2020年にかけて、さらに300万ユーロ引き下げられる。
「まず実際にかかるコストを下げることに取り組んだ。コストを下げずに価格だけを下げろとマニュファクチャラーに要求することはできないからだ」とロムは述べた。
「第一段階として、2017年にはひとりのドライバーが使えるパワーユニットの数を4基に減らす。これは年間のグランプリ開催数が何戦になっても変わらない。2018年からは、ICE、ターボ、MGU-Hを年間3基、エナジーストア(ES=バッテリー)、コントロールエレクトロニクス(CE)、MGU-Kを年間2基までに削減する。実際これだけでもマニュファクチャラーにとっては大きなタスクになるだろう」
「これで必要な部品の数は50%近く減らせる。結果として、かなりのコストダウンが可能になるはずだ」
目標とされたカスタマーエンジンの供給価格は1200万ユーロだった。ロムは、この合意により2018年以降の価格は目標から「それほど遠くはなく」「かなり近い」水準に落ち着くと考えている。
レギュレーションに示された1200万ユーロという価格は、オファーがなく契約もない場合に限って強制されるもので、基本的には最悪の場合に備えたプランであり、実際に適用される可能性は低いと見られている。
<供給:困っているチームがいたら、最終手段はクジびき>
来季からマニュファクチャラーは、エンジンを必要とするチームに対して供給の義務を負うことになる。
「基本的な考え方として、あるチームにマニュファクチャラーからのオファーがない場合、そのチームはFIAに仲介を要請することができる。また、その供給者を決めるにあたってはクジ引きを用いる」と、ロムは語った。
「まず最初に指定されるのは、カスタマーの数が最も少ないパワーユニットだ。カスタマー数が最小のユニットがひとつの場合、そのマニュファクチャラーが(仲介を求めたチームに)パワーユニットを供給しなければならない。そのようなユニットが、ふたつ以上ある場合はクジびきによって、どのマニュファクチャラーが供給するかを決める」
ただしロムは「クジびき」を、どのように実施するかは決まっていないとを認めている。
マクラーレンは、ホンダとの間に独占的供給契約があると主張しているが、ロムによるとマニュファクチャラー4社は、この方法を採ることで合意したという。
「F1全体の利益のために、供給の義務づけを実施する必要があるということは誰もが理解している。来年にはすべてのマニュファクチャラーが、これを実施できるものと考えている」
その手続きの第一段階として、マニュファクチャラーは5月15日までに、来季に関して現時点で交わされている供給契約をFIAに告知しなければならない。
「来季のエンジン供給契約を持っていないチームがある場合には、まずFIAがマニュファクチャラーへの説得を試みる。そして次の締切期日である6月1日の時点でも契約が結ばれていない場合は、クジ引きでの選択を行うことになる」
供給されるパワーユニットの仕様に関して、ロムは、どのマニュファクチャラーも「適切な時期に」アップデートをカスタマーに提供しなければならないと述べた。
「たとえばワークスチームが新しいエンジンを使うのに合わせてアップデートを導入した場合、次に新しいエンジンを使うときには、カスタマーチームが該当アップデートを手に入れていなければならない、ということだ」
またロムは、FIAの同意を得れば、マニュファクチャラーは「以前にホモロゲーションを取った仕様」をチームに提供できると明言した。
<性能均衡化:「0.3秒以内」を強制する規定はない>
マニュファクチャラー間の性能ギャップを小さくしたいという希望はあるものの、レギュレーションには性能の均衡化そのものを保証するような規定はない、とロムは述べた。
「性能の均衡化を命じようとは思っていない。ただ、均衡化の一助となるべき手段を設けるだけだ。レギュレーションが安定していれば、性能差は自然に縮小していく。私たちは、いくつかの手段によって均衡化の促進を試みるが、均衡化そのものをルールで規定することはしない」
その「手段」は、たとえば開発トークンの廃止、性能に影響するディメンジョンの制限(クランクシャフトの寸法や一部のパーツの重量など)、あるいは冷却に関する開発を抑止するための過給気温度の制限といった形で、レギュレーションに組み込まれている。
性能の均衡とは、マニュファクチャラー4社のバルセロナでのラップタイムの差が0.3秒以内になることと言われていたが、ロムは否定している。
「メディアでは0.3秒という数字が取り上げられているが、そのような規定は存在しない。私たちは毎年シーズン初めの3戦の間に、性能差の測定を行うつもりでいる。つまり、翌年からのルール変更の締切期日に間に合うタイミングで、ということだ」
「性能差が私たちの期待したレベルではないと思われた場合には、ストラテジーグループに報告する。どう対処するかは、現在のF1統治システムに従うならば、ストラテジーグループが判断することになる」
FIAが、どのように性能差をモニタリングするかについて、ロムは次のように述べた。「ラップタイムだけを見ることはしない。トルクセンサーやシミュレーションのためのツールを使って、各車のパワーユニットそのものの性能を計算できるからだ。そして、そのデータを出力インデックスに変換する」
「だが、これは出力だけの話ではないし、このインデックスだけの話でもないので、シーズン最初の3レースで、すべてのクルマのすべてのラップをチェックする。そしてレースごとに各パワーユニットのうち最も高い性能を示したものを選び出し、その3戦での平均値を採れば、各マニュファクチャラーのパワーユニットの適切な性能インデックスが得られるはずだ」
「このインデックスの差が、結果としてバルセロナでのラップタイムの差になるということだ」
<ノイズ:音響エネルギーを利用して、サウンド改善へ>
2014年に現在のレギュレーションが導入されて以来、パワーユニットの発する音が「エキサイティングな印象」に欠けるという点が懸念されてきた。だが、FIAとチームは、あるデバイスを採用することで、来季からパワーユニットのサウンドを大きく改善しようと考えている。
「サウンドが十分ではないという認識はある。そのため私たちはサウンドジェネレーターと呼ぶものに取り組んでおり、かなり良い結果を得ている」と、ロムは語った。
「フェイクではないが、純粋に自然な音でもない、と言っておこう。とにかく、エンジンのサウンドの音量と音質を、かなり向上させることができるものだ」
だがロムは、その作動原理については現時点では完全に説明することはできないとして、こう付け加えた。「まだ開発中の段階にあり、詳細を話すのは時期尚早だ。ただ私たちはエキゾーストの音響エネルギーを利用して、音を大きくしようと考えている。エネルギーの多くは回生されるので、利用できる部分は、それほど大きくないとしてもだ。それ以上の話をするには、まだ時期が早すぎると思う」