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松本潤主演『99.9』、演出家の違いでドラマはどう変化した? 「0.1%の真実」の描き方

2016年05月15日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 『99.9 刑事専門弁護士』の第4話は、深山(松本潤)と佐田(香川照之)の二人が依頼人と接見している場面から始まる。その依頼人が将来有望な研究者であるからか、企業法務のスペシャリストでもある佐田はやる気満々な様子が伺える。依頼人は酩酊状態で記憶をなくし、一緒に飲んでいた元同僚の女性から強制わいせつ罪で告訴されたのである。裁判か示談のどちらがいいか提案をする佐田は、早めに拘置所から出るためには示談にする方がいいと勧めるが、それを横で見ていた深山は、先週の回で二人が「弁護士とは何か」を議論しあった際にも出てきた、「示談は自分がやったと罪を認めることになる」ことを告げるのである。


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 記憶をなくしていたとはいえ、絶対に自分が罪を犯していないと確信している依頼人は、無実を証明して欲しいと佐田に頼んだ。そうなれば、佐田のポリシーである「依頼人の利益を追求する」ことに則り、無実を証明することが彼の仕事となるわけだ。そのための策として、供述調書にサインをしないようにと、基本的なアドバイスをする。しかし、依頼人の勤める研究所の社長から示談を促され、顧問契約を組むことも考えると言われて、佐田は一転して示談の方向で話をまとめることにする。示談が成立した結果、依頼人を待ち受けていたのは、研究所の社員達から白い目で見られ、家に帰れば誹謗中傷の落書き。極め付けは娘からの「どうしてやってないことをやったって言ったの?」という言葉だった。


 第2話までの木村ひさしに変わって、第3話と今回の第4話は金子文紀が演出を勤めている。連続ドラマでは短期間に撮影から編集までの一連の工程を進めなくてはならないため、回ごとに演出家が変わることは常であるが、それによって全体的なテイストが大きく変わってきているようにも見える。1、2話は主人公達弁護士の働きを見せるドラマとして、彼らの特徴を強く描き出していた。ところが、前回の第3話では窃盗事件で起訴された娘を救おうとする、末期ガン患者の母親とのドラマを軸に据えて、依頼人の物語にも重きを置こうとしている印象を受ける。これはテレビドラマらしいオーソドックスな描き方で、少なからず一般の視聴者の共感を得ようとする狙いがあるのではないだろうか。例によって今回も、家族を顧みずに研究に没頭してきた男が、家族からの信頼を取り戻そうと、「逆告訴」に踏み切るという物語が描かれる。


 第1話で意外と時間を取っていた深山が料理をする場面も、第3話以降簡略化されているし、立花(榮倉奈々)のプロレス好きという設定もあまりフィーチャーされなくなってきた。それでも、深山の親父ギャグは少々斜め上の見せ方をしてくる。依頼人の行動を辿って現場までの時間を計測している時に「時間がオーバー久美子」と、早くもネタ切れなのではないかと思わせておいて、劇中の終盤で大場久美子本人がカメオ出演するという荒技に出た。このようにユーモラスさを最低限度で抑えるようになったのは、ドラマ全体が軽くなりすぎない良い傾向である。


 その結果、弁護士たち個人の性格や特徴よりも、考え方や法律家としてのスタンスが明確に描かれるようになり、それが各話で描かれる事件や依頼人との関係にきちんと反映され、ドラマとしての形がしっかりしてきたようにも思える。あくまでも、一般の人が法的な助けが必要になった時に手助けをするという弁護士の重要な役割を、弁護士側の視点から描き出すドラマになってきたというわけだ。もっとも、民事を題材にすれば数多く作られているタイプになってしまうが、それをあえて刑事事件に特化して描くという点で、他の弁護士ドラマとの差異化を図っているということだろう。


 どうやら、「0.1%の真実」というのは、必ずしもどこかに真犯人が隠れているというわけではなかったようだ。これまでのエピソードでは、いずれも特殊なトリックによって濡れ衣を着せられた依頼人を助けるためにそのトリックを暴き出すものとなっていたが、これでは第1話の記事で言及したように探偵ドラマの様相を呈し、あまり弁護士ドラマという感触は掴めない。しかし今回のように、犯罪そのものをでっち上げられた依頼人を守るために「0.1%の真実」(=何故でっち上げられたのか)を探し出し、その手段としても法的なアプローチを取るというやり方は、非常に興味深い。


 劇中では「美人局」として表現しているが、このように親告罪(被害者からの告訴がなければ訴訟とならない犯罪)である性犯罪の加害者に、事実無根であっても成り得てしまうということを恐ろしく思う男性は少なくないだろう。周防正行監督の『それでもボクはやってない』で描かれた痴漢冤罪のように、事実を証明しづらいケースも少なからずあるが、中には今回のように故意にでっち上げられるケースも少なからず実在しているのだから、尚更恐ろしいのである。性犯罪が、金銭目的で作り上げられるということは、実際の被害者が提起しづらい環境を作ってしまいかねないだけに、このようにドラマで描かれることが抑止に繋がればとの狙いもあったのかもしれない。


 ラストで岸部一徳演じる斑目と、深山との接点を予感させる描写が登場したが、これまでも第1話での奥田瑛二演じる検事正との確執を予感させたり、第3話では深山が過去を回想する場面が登場した。とくに第1話以降で奥田瑛二は登場してこないし、前半に並べた伏線を、後半で一気に回収していくということになるのだろうか。そろそろ何かしらの方法でひとつひとつのピースを繋げるエピソードが登場してもいいのではないだろうか。(久保田和馬)