2017年以降に向けたパワーユニットに関する基本合意が締結されたのを受けて、スペインGPのFIA金曜会見はパワーユニットメーカー4社の代表者と、その利益を享受するはずの独立系チームのレッドブルとフォース・インディアの代表者が集い、F1の近未来を語る場となりました。しかし、そこでメーカー系チームと独立系チームの立場と見解の隔たりが白日の下にさらされることに……。
メーカー代表者たちが「今回の合意には満足している」「ルールが安定するのは好ましいこと」と口をそろえたのに対して、フォース・インディアのロバート・ファーンリー副代表は「立場を保留する」と実質的に満足していないことを明かし、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表に至っては「やんわりとした合意でしかない。明るい面ばかりに目を向けすぎだ」と明確に批判。とくにパワーユニットがないチームへの供給義務が名目的なものに過ぎないという点に不満を持っているようです。というのも、FIAが義務づけるのは「供給に向けた交渉をしなさい」ということだけで、実際の供給に関しては金額や条件などに余地があり、強制的に供給させることのできる内容ではないからです。
会見を通して、メーカー代表者たちは今回の合意を歓迎し、独立系チーム代表者たちは満足していないという立場を貫きました。「ひとつだけ自由にルールを変えられるとしたら?」と聞かれたホーナーは「全チームにメルセデス製パワーユニットの無料供給!」と即答して笑いを取りましたが、偽らざる本心だったと思われます。しかし、それを聞いたルノーの人たちは、どう感じたのでしょうか……? それを考えずに公式の場で口にしてしまうあたりが、昨年レッドブルにパワーユニット危機をもたらした原因なのですが。
会見後、ホンダの代表として登壇した長谷川F1総責任者に、あらためて聞くと「我々としても供給義務に関しては100%満足ではないですが、F1界に貢献していくという意味で歩み寄った結果です」と語り「ホーナー氏は自分たちに良いパワーユニットがないから文句を言っているだけで、ルールがどうこうというのとは次元が違う文句に聞こえましたけどね。もしメルセデス製パワーユニットを持っていたら文句なんか言ってないと思いますよ」と苦笑いしていました。
なお「ルールを自由に変更できるなら?」という質問に対して、メルセデスのトト・ウォルフは「いまのままで満足」、フェラーリのマウリツィオ・アリバベーネは「シミュレーターを禁止してテストを自由にできるようにすれば、ショーアップできる」と提案。ルノーのシリル・アビテブールは「F1はWECじゃないんだから、レースでずっとアタックできるように燃料量制限は撤廃すべき」と指摘。ホンダの長谷川総責任者は「あくまで個人的な意見だが、パワーユニット基数制限違反に対するペナルティが複雑で重すぎるのは、ファンにとって良いことではないと思う」と話しました。
こちらも、それぞれの利害が透けて見えるような“希望”でした。そして、それぞれの希望を捨てて歩み寄った結果が、今回のパワーユニット合意です。ひとまずは決まったことに対して理解を示さず、自分たちの希望を主張しつづけているだけでは、F1界の未来は見えてこないのではないでしょうか──。