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かりゆし58が、日比谷野音で見せたデビュー10年の軌跡「もう1回ゼロに戻るチャンス」

2016年05月14日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

かりゆし58

 かりゆし58の全国ツアー『ハイサイロード 2006-2016 ~オワリ×はじまり~』の最終公演が2016年5月8日、日比谷野外大音楽堂で開催された。デビュー10周年を記念した今回のツアーのファイナル公演で彼らは、自らの10年間の軌跡ーー人生のラストチャンスを賭けたデビュー、故郷・沖縄から上京してきたときの葛藤、そして、真摯に生きる人々を根本から励ますような歌ーーを力強く表現してみせた。


 開演時間の18時になると、まずはネーネーズが登場し、代表曲「黄金の花」と「NO WOMAN,NO CRY」(ボブ・マーリー)のカバーを披露。現在“5代目”のネーネーズは沖縄民謡の伝統を反映した歌唱により、満員のオーディエンスの心をしっかりと捉える。ちなみに開演前のSEもネーネーズの音源。これはかりゆし58のメンバーの強い希望によるものだ。


 そして、ついにかりゆし58のライブがスタート。「“ハイサイロード 2006-2016”。このバンドの10年間の集大成、ツアーファイナル会場、日比谷野外大音楽堂にようこそ! あなたと今日ここで、この1本のライブをするために10年間準備してきましたよ! 始めましょうか!」(前川真悟/V、Ba、G)という言葉とともに「心に太陽」「手と手」「アイアムを」などのライブアンセムを次々と披露する。ロックンロール、レゲエ、カントリーなどをごちゃ混ぜにしたバンドサウンド、開放感に満ちたメロディ、何気ない日々を肯定するような歌詞が響き、会場全体に心地よい一体感が生まれる。宮平直樹(G、Ba)に「緊張してんのか? まさか1曲目から泣く?」とイジったり、新屋行裕(G)と「もっとすごい行裕が見たい!」と煽ってギターソロを弾かせたりしながらライブを盛り上げる前川も、この記念すべきライブを全身で楽しんでいるようだ。


 この後、かりゆし58が持っている切実なメッセージ性を体感できる楽曲が続く。“人生は一度きりだからこそ輝く”というメッセージがまっすぐ伝わる「嗚呼、人生が二度あれば」。〈ぼくが生きる今日は もっと生きたかった誰かの明日かも知れないから〉という歌詞が高い空に向かって放たれた「さよなら」。親友の父親との交流を描いた歌詞、〈もう一歩も引けない時には 何もかも全部を自分の真っ直ぐに懸けろ〉というサビのフレーズが突き刺さる「まっとーばー」。市井の人々の人生、日々を必死で生きる姿の尊さを堂々と歌い上げる。かりゆし58が幅広い層のリスナーに支持されているのは、この真摯な姿勢をしっかりと持ち続けているからだと思う。


 この日が誕生日だったシンガーソングライターの日食なつこがキーボーディストとして参加した「雨上がりのオリオン」からライブは祝祭のムードを強めていく。軽快なロックンロールによって開放的なムードが広がった「カイ・ホー」、スカのビートと“一生に一度の夏”の光景を描いた歌がひとつになった「サマーソング」、“AI AI AI AI 愛と呼ぶ”という合唱とともにオーディエンスがタオルを回し、宮平がステージ前方で煽りまくった「愛と呼ぶ」。小さい子供から年配の方まで(かりゆし58のライブには親子連れのお客さんが本当に多い)が楽しそうに体を揺らし、大きな声を上げている。ひとりひとりが好きなように音楽を楽しみ、感情のすべてをナチュラルに解き放つーー前川は「俺んちのガーデンパーティに来たと思って、楽しんでいって!」と叫んでいたが、こういうフレンドリーな空気を自然に生み出せることも、このバンドの大きな魅力だ。


 故郷の懐かしい風景を歌った「電照菊」、かりゆし58の存在を幅広いリスナーに浸透させたエモーショナルなラブソング「ナナ」からライブは後半へ。「ウクイウタ」では右手の不調のためにライブ活動を休止している中村洋貴(Dr)がステージに登場、ファンと一緒に歌い、大きな歓声が巻き起こる。「洋貴がドラムを叩けなくなって、ツアーを中止しようと思ったこともあったんだけど、洋貴に“俺らだけの10周年じゃないから、ツアーはやってほしい”と言われたんです」(前川)というMCを挟み、「愛の歌」「アンマー」を披露(中村はパーカッションを演奏)、大きな感動のなかライブ本編は終了した。


 アンコールでは『フリーター、家を買う』『図書館戦争』などの作品で知られる小説家・有川浩が「アンマー」をモチーフにした小説(7月19日に発売される『アンマーとぼくら』)を発売することを発表。さらに中村、日食を交え「オワリはじまり」を披露し、10周年ツアーのエンディングを飾った。


 ライブ中、前川は「10年という数字はもう1回ゼロに戻るチャンスだと思っています」と語った。リスナーの心を解放し、心地よい一体感を作りだすパワーを持ったかりゆし58の歌は、ここからさらに大きなスケールを獲得することになるだろう。(文=森朋之)