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40代人妻「セックスしなければ不倫にならない」キスだけの逢瀬をかさねて

2016年05月14日 11:21  弁護士ドットコム

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既婚女性たちに「婚外恋愛」の話を聞くことが多い。大多数は、肉体関係も含めての恋愛なのだが、中には「セックスはしていないから、万が一、夫に問い詰められたとしても、浮気にはならない」と言い張る女性たちもいる。(ライター・亀山 早苗)


その中のひとり、淳子さん(仮名・49歳)は、結婚して20年。高校生と中学生の一男一女がいる。同い年の夫とは「最初から友だち夫婦だったけど、もはや空気のような関係」だそう。すでに10数年、セックスの関係もない。


「私の40歳の誕生日、夜中に夫に迫ったんです。誕生日だったし、誰かに女として認めてもらいたい気持ちが高まっていた。誰かといっても、夫しかいませんからね。それでうっかり(笑)、夫に『ねえねえ』と。でも夫はツインベッドの向こうですでに寝入っていました。いや、寝たふりしていただけかもしれないけど……。


 


そのとき、私自身も実は少しほっとしていたことに気づきました。夫とアヤシイ雰囲気にならないですんだことに。ああ、私も夫のことを男として見ていないのだから、夫に女として見てほしいと思うのは無理だなあと痛感したんです」


夫とは、お互いに親として、親友として生きていこうと淳子さんが決意した瞬間だった。1年ほど前、高校のクラス会があった。卒業して30年、初めてのクラス会だった。


「うれしいけど恥ずかしい、年取った自分を見られたくない。そんな気持ちで出席したけど、考えてみたらみんな同い年。会えば、高校時代が戻ってくるような感じでした。中でも、ちょっと渋いいい男がいて、女友だちに『あれ、誰だっけ』と言ったら、Kクンよ、と。私、彼と仲がよかったんですよ。当時のKクンは、もうちょっと間抜けな感じで、みんなからいじられるキャラだったんだけど、渋みのある大人になっていて。当然ですけど」


彼のほうも淳子さんに気づき、すっかり打ち解けてしゃべるのにまったく時間はかからなかった。


 ●連絡先を交換、二人きりで会うように


Kクンとは、自宅が同じ沿線にあったため、帰りはふたりきりになった。電車の中でも笑い、しゃべり、連絡先を交換しあった。


そこから、ふたりは毎日、SNSで連絡をとりあう。


「私のパート先の話、家族の話、親の話から世間話まで尽きなかった。SNSで書き疲れると、『会いたいね』ということになって……」


クラス会の一ヶ月後には、ふたりきりで食事。二週間とたたずにまた会った。距離がどんどん近づいていくことに、淳子さんは不安を感じ始める。



「これって不倫ということになるんだろうか、と。でも、会って食事したりお酒を飲んだりするなら、友だちの範疇。これ以上の関係にならなければいいんだと自分に言い聞かせて。結局、彼のことが好きだから離れられなかったんですけどね」


 ●「セックスだけはしない」と決めて


男と女が好意をもちあって会っていたら、行き着く先は決まっている。会いたい、もっと知りたい、触れあいたいとなるものなのだ。それが自然のなりゆき。


「ふたりで会うようになって三ヶ月たったころ、彼が『ホテルに行こう』と言ったことがあるんです。でも私、『それだけはダメ』と。キスはしました。最初は触れるだけだったけど、回数を重ねるうちに、どちらの舌かわからなくなるくらいに絡めて。


いつも人けのないビルの裏などで抱き合ってます。彼の下半身が固くなっているのがわかる。私も濡れてる。それでもそこで振り切って駅へ向かうんです」


せつなくて泣けてくる、と淳子さんは目を潤ませた。


彼も淳子さんの気持ちをわかってくれるようになった。


「家に戻ってひとりでした、とメッセージが来ます。私もバスルームで自分を慰めたりして。いっそセックスしてしまったほうがすっきりするかもしれない。だけど、したら男女として終わりが見えてしまう。それも怖いんですよね。今のままなら、いつまでも続けていける。だって不倫ではないから」


「不倫ではない」という言葉は、つまり「結婚という契約に背いていない」という意味なのだろう。一方で、彼女は「心から彼を愛している。彼のいない人生はもう考えられない」とも言っている。


不倫ではない関係が彼女を支え、彼女の生活に張りをもたらしている。個人的には、性行為がないだけで、これは「恋愛」にほかならないと思うし、それが恋愛であってなぜいけないのかとも思う。人の心までは縛れないのだから。


 ●法律的に考えるとどうでしょう?(回答:澤藤 亮介弁護士)


まず、裁判上の離婚原因となる「不貞行為」と不倫慰謝料の原因になる「不貞行為」では、判例上、意味合いが異なることを押さえることが重要です。


離婚原因になる「不貞行為」(民法770条1項1号)は判例上、狭く捉えられ、認められるには肉体関係(セックス)が存在することが必要となります。


他方、不倫慰謝料の場合は、判例上、肉体関係(セックス)にとどまらず、キスや一緒に入浴するなどの行為でも不法行為が成立し、慰謝料が認められることがあります。なお、言葉の問題ではありますが、このような場合には判決では「不貞行為」とは表現しないことが多いかと思われます(「不貞行為と同視すべき加害行為」など)。


今回のケースにおける、夫からの妻又は相手方への不倫慰謝料請求の場面では、不法行為として慰謝料が認められる可能性があるものと思われます。もっとも、一般的には、肉体関係があった場合に比べると裁判で認められる慰謝料の額は低額になるでしょう。



他方、夫から妻に対する離婚請求の場面では,前述したように、民法770条1項1号の「不貞行為」に該当するとは言い難いかと思われます。


ただし、他の離婚原因である「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)の一要素として考慮され、他の諸事情と併せ、離婚原因ありと判断され,夫から妻に対する離婚請求が裁判上認められる可能性はあります。



 ●後日談


澤藤弁護士の回答を淳子さんに伝えると、「私たちの関係は不倫ではないと思っていたのに。これまで我慢してきたのは何のためだったの……」と衝撃を受けていた。


「バレたときの結果が同じなら、セックスしてしまおう」となるのか、あるいはこれまで通り、ケジメとしてセックスしない関係を続けるのか、個人的にはとても気になるところではある。




【取材協力弁護士】
澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。離婚・不倫問題を中心に取り扱う。事務所内の事件資料や書籍の全面データ化等、ITをフル活用して業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』、プレジデント社『不倫したい男、離婚したい女が読む本』などにも寄稿。

事務所名:新宿キーウェスト法律事務所
事務所URL:http://www.keywest-law.com