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実りある音楽体験を届ける“目利き”としてのレーベルーー『CONNECTONE NIGHT』が示した充実

2016年05月13日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ぼくのりりっくのぼうよみ(写真=神藤剛)

・“ビクター変な子祭り”が示した多様な音楽の形


「今日は“ビクターロック祭り”じゃなくて“ビクター 変な子祭り”だね」


 5月6日に渋谷CLUB QUATTROにて行なわれた『CONNECTONE NIGHT Vol.1』。大トリで登場したRHYMESTERのMummy-Dは、この日のイベントを同じくビクターが主催しているロックフェスに絡めてこう表現した。


(参考:CONNECTONEレーベルヘッド 高木亮氏インタビュー「“音楽の匂いが濃い”人に集まってほしい」


 2015年春にビクター内のレーベルとして「音楽をつなげていくこと」「音楽でつながっていくこと」をコンセプトに発足した<CONNECTONE>。『CONNECTONE NIGHT Vol.1』はこのレーベルが初めて開催したライブイベントであり、<CONNECTONE>からすでに作品をリリースしているRHYMESTER、Awesome City Club、sympathy、SANABAGUN.、ぼくのりりっくのぼうよみの5組、さらにSANABAGUN.の高岩遼が所属するTHE THROTTLE、オーディションで選ばれたArt Buildingを加えた計7組が出演した。そして、全ての出演アーティストが存分な個性を発揮した素晴らしいイベントとして無事に終幕した。


 開演が17時45分、終演が22時頃というオールスタンディングのライブとしてはなかなかの長丁場となった『CONNECTONE NIGHT Vol.1』。にもかかわらず、この手の長時間イベントにありがちな空気がだれる瞬間はほぼなかった。2ステージ制によってテンポよく進むタイムテーブル(クアトロのフロアに2つのステージを設置しているのを見たのは初めてだった)や、タキシード姿で司会を務めた高岩遼の奮闘など運営面での工夫がイベントの質を向上させていたのは間違いないが、それ以上に大きかったのは出演アーティストの多様さ、そして随所に垣間見える彼らの音楽的なつながりの面白さだろう。


 「カラーが一定じゃなさすぎる(笑)」とは再びMummy-Dの発言だが、オープニングアクトのArt Buildingが鳴らすギターロックから大トリのRHYMESTERによる正統派ヒップホップまで、今回出演した7組の音楽性について、表層的な部分での共通項を見出すのは難しい。ただ、一枚皮を剥くと、似たような志や方向性のリンクが感じられる組み合わせが多数存在している。たとえばRHYMESTERの王道ヒップホップを基点として、「インターネット」「バーチャル」というフィルターでそれを再解釈したのがぼくのりりっくのぼうよみ、今の時代のストリート感・土着感をそこに加えたのがSANABAGUN.という捉え方もできる。また、ヒップホップとR&Bを行き来するようなぼくのりりっくのぼうよみが持つ「隣接ジャンルのミックス感」は、叙情的なギターロックにポストロック風の味付けを加えるArt Buildingの発想とも近いものを感じる。そのArt Buildingの特徴でもある「バンドサウンドの中におけるボーカルの引きの強さ」はsympathyと通じるものがあるし、一見すると全く違うsympathyとTHE THROTTLEも「女の子4人の華やかさ」「革ジャンで決めるキャラとしてのキャッチーさ」という「存在としてのポップさ」を志向しているという意味では、同じベクトルだと言うこともできるだろう。さらに、THE THROTTLEとSANABAGUN.はメンバーの重複だけでなく、ステージ上での見得を切るような歌舞伎的なかっこよさが共通している。


 一見するとまとまりがないレーベルメイト同士の音楽的な発想のつながりが、このイベントにおける「バラバラの中にある絶妙な統一感」を生んでいたように思える。そういう意味では、ここまで挙げたそれぞれの要素を咀嚼した音楽を鳴らしているAwesome City Clubがこのレーベルの第1弾アーティストであるとともに今回のイベントのちょうどど真ん中に配されているというのは辻褄が合う話である。この日のセットリストはバンドとしてのアッパーさを前面に押し出したものだったが、近年のトレンドでもあるオーセンティックなソウル風味のナンバーから間口の広いJ-POP的な楽曲までを同列に聴かせる懐の深さは、<CONNECTONE>のレーベルカラーをまさに体現しているとも言える。


・ライブアクトとしての強さと「360度ビジネス」


 この日の出演グループは、各々が音楽性の幅を見せただけでなく、ステージングにおいてもたくさんの見どころを作った。出演順にそれぞれのアクトを簡単に振り返ってみたい。


 オープニングアクトのArt Buildingは初の東京でのライブということで少し緊張した面持ちを見せていたが、轟音に乗る前田晃希(Vo./Gt.)の歌声からは、BUMP OF CHICKENの藤原基央を彷彿とさせるような世界を見透かす感じの芯の強さが伝わってきた。


 実質的にはこの日が初ライブとなったぼくのりりっくのぼうよみは、ピアノ一本で披露した「Black Bird」のシリアスなパフォーマンスで、浮ついた会場の空気(登場時には「かわいい!」という歓声もあがっていた)を一変させた。ネトウヨをモチーフにした楽曲「CITI」で見せたアグレッシブな表情は、「新世代の代表」というポジションにふさわしいカリスマ性を感じさせた。


 続くTHE THROTTLEのステージから感じたのは「過剰さ」である。雄たけびをあげながら登場し、ラストの「Let’s GO TO THE END」では高岩が客席に降り、さらにMCでは「ドーム」「世界」という言葉が飛び出す。そんなトゥーマッチなステージングには、ロックンロールというものが生まれた瞬間を再現しているかのような強烈なエネルギーがあった。


 前述のとおりイベント中盤に登場したAwesome City Clubは、従前からのチャームであった楽曲の良さや5人のクールな佇まいに加えて、この日はいつも以上に熱量がほとばしるライブを展開した。キーになっていたのはフロントの2人で、「4月のマーチ」ではPORINのアクションに引っ張られて演奏が徐々に熱を帯びていくのが感じられたし、「Don't Think, Feel」ではハンドマイクで歌うatagiによってバンドにパワフルな魅力が付与されていた。


 続くsympathyはギターロックバンドが少ない中での演奏、かつギターの田口かやながライブ当日にぎっくり腰を発症という不利な状況でのステージとなったが、演奏前後でメンバーの雰囲気がガラッと変わるところにバンドとしてのポテンシャルを感じることができた。また、ボーカルの柴田ゆうが醸し出す大きな虚無感(個人的には前田敦子を思わせるものだった)にはかなり引き込まれた。


 トリ前に登場したSANABAGUN.は、ジャズ、ロック、歌謡曲などあらゆるジャンルを消化したサウンドを生演奏で聴かせ、そこに個性の強い2人のフロントマンのパフォーマンスが絡むことでユニークな空間を生み出していた。すでに彼らの提示するライブは誰も真似できないオリジナルなものになっているのではないだろうか。また、メジャーレーベルのイベントで新曲「メジャーはあぶない」を繰り出す反骨精神(とお茶目さ)も印象に残った。


 そしてトリを務めたのが、実に18年ぶりのクアトロ出演となったRHYMESTER。短時間のステージではあったが、パフォーマンスだけでなく曲間のMCも含めてフロアをガッツリ盛り上げた。カラーのはっきりしたアーティストが選んだレーベル、そしてそのレーベルが主催するイベントへの参加を選んだオーディエンスへのメッセージにも聴こえる本編ラストの「The Choice Is Yours」はなかなか感動的だった。


 今回出演した7アーティストのステージを思い返してみて改めて感じるのは、どのアーティストにもライブアクトとしての「華」があるということである。見た目のキャッチーさ、まとっている雰囲気、所作の一つ一つからにじみ出てくる人間性など、単なる演奏のうまさや勢いだけでないところで何だか気になってしまう魅力。こういった要素は、「パッケージからライブへ」「音楽を聴くときはYouTubeで動画とセットで」という大きな潮流の中にある今の音楽シーンにおいてますます重要になってくるものである。折しも<CONNECTONE>は「音源を売ったら終わり」ではなくライブ活動やグッズ販売まで含めて収益の獲得を目指す「360度ビジネス」を掲げているが、生でライブを見る価値を感じられる華のあるアーティストを揃えているのはレーベルのビジネスモデルとも合致している。


・「目利き」としてのレーベルの存在意義


「とにかく新しくて面白いものをやっているレーベルだ、というワクワク感にこだわっています」


 これはレーベルヘッドである高木亮氏のコメントだが、華のあるアーティストが次から次に登場する<CONNECTONE NIGHT Vol.1>はまさにそんな空気に満ち溢れたイベントで、レーベルとしての今後の飛躍を感じさせるものだった。


 高木氏は同じインタビューで「メディアでも、CDショップの店頭でも、最近になって“CONNECTONEくくり”みたいなものが成立するようになってきた」と発言しているが、今回のイベントは各所で徐々に浸透しつつある「CONNECTONEは面白い、間違いない」というイメージをさらに強固にするものであったように思える。そしてそんなイメージの確立は、レーベル運営側だけでなくリスナーとしてもありがたいものである。いつでもかっこいい音楽を紹介する「目利き」との出会いは、自身の音楽体験をより実りのあるものにしてくれる。


 「情報過多」もしくは「細分化」が進む音楽シーンにおいて、バラバラになった情報をつなぎ合わせるものの価値が再び高まっているように感じられる。その機能を担うものとして、レーベルという単位は大きな可能性を秘めているのではないだろうか。アンダーグラウンドシーンではネットレーベルのような形での音源のお墨付きはこれまでも行なわれていたが、メジャーのレコード会社が「単なる流通上のしるし」ではなく「尖った信念と納得感のあるクオリティの担保」のためのレーベルを立ち上げるというのは、うまくいけば日本の音楽文化を再構築するような動きにつながるかもしれない(同じタイミングでワーナー傘下の<unBORDE>がライブイベントの実施やコラボ曲の制作を行なっているのも興味深いシンクロである)。


 <CONNECTONE>の取り組みがどこまで理解されるかは、日本のメジャーな音楽シーンの元気度を測る一つの試金石となるかもしれない。そんなことを思った『CONNECTONE NIGHT Vol.1』だった。すでに今回の出演アーティストの何人かは「次回はもっと大きい場所でやりたい」という決意表明を行なっているが、さらに規模拡大した「Vol.2」を楽しみに待ちたい。(文=レジー)