トップへ

「死ねばいい」「縁を切りたい」SNSでグチる夫と離婚したい【小町の法律相談】

2016年05月13日 11:01  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像


ツイッターの不適切な使い方で「炎上」するのは、仕事にかぎった話ではありません。夫がTwitter上で自分への暴言をつぶやいていたことを知り、離婚したいという女性(トピ主)が、YomiuriOnlineの「発言小町」に「これは正当な離婚理由ですか?」と書き込みました。


トピ主によると、今から1年前、夫と共同のパソコンを使っていたところ、ツイッターが夫のアカウントでログインされたままだったため、つい中身を見てしまったそうです。するとそこには、約3年にわたってトピ主を罵倒する投稿が・・・。「死んだほうがいい、死ねばいいのに、縁を切りたい、など様々な愚痴を通り越した暴言が書き込まれていました」。


トピ主が夫を問い詰めると、「喧嘩をした際の腹いせだった」と、トピ主に対しての暴言だったことを認め、謝罪されたそうです。


それから約1年、トピ主は夫とやり直そうと我慢してきましたが、Twitterの暴言がフラッシュバックしてしまい、情緒不安定な状態が続き今の生活に耐えられなくなってしまいました。「もう旦那を信頼してやっていくのが困難な状態」と、離婚を考えているようです。


レスには、「そんな愚痴を書きたくなるほど年中喧嘩ばっかりしていたのなら離婚した方が良い」などの意見がありました。また、勝手にパソコンを覗き込んだことは違法行為だ、とトピ主を非難するコメントも。


夫がTwitterに書き込んだ暴言を見たことで、情緒不安定な状態が続き夫との生活に耐えられなくなったということは、正当な離婚理由になるのでしょうか? 甲本晃啓弁護士に聞きました。


(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「これは正当な離婚理由ですか?」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0408/757979.htm?g=15)


A. Twitterの暴言だけでは離婚理由として認められない


夫婦間の話し合いで離婚について合意できない場合は、裁判所に判断してもらうことになります。結論からいうと、今回のケースのような「夫にTwitter上で暴言を書き込まれて情緒不安定になった」という事情だけでは、裁判で離婚が認められるための理由にはあたりません。


もちろん、家庭裁判所の調停を含む離婚に向けた「話合い」において、配偶者に対する侮辱や暴言は、離婚を求める複数ある理由の一つとして主張されることはよくあります。今回のケースのような事情を、妻が話合いの場で主張しても全くおかしくありません。


しかし、裁判で離婚が認められるには、法律で決められた離婚事由「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当する必要があります。


この「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、夫婦関係が決定的に破綻して関係修復が難しい場合のことです。そのような場合にはたとえ相手方が離婚を拒否をしていても、法律によって強制的に離婚を認めるとされています。


今回のケースのように、「夫にTwitter上で暴言を書き込まれて情緒不安定になった」ということだけでは夫婦関係が修復不可能だとは言い切れず、離婚事由にはあたらないと判断されるでしょう。


しかし、妻がどうしても夫との生活に耐えられず離婚したいなら、夫と別居をするという方法があります。別居をしてある程度の年月が経てば、長年別居をしているという事実をもって「その他婚姻を継続し難い重大な事由」が認められ、離婚できる可能性があるからです。


 「のぞき見」は問題ない?


では次に、妻が夫のTwitterを勝手にのぞき見たことは法的に問題ないのかを考えてみましょう。妻が、夫のTwitterのパスワードを不正に盗み出してログインした場合には、不正アクセス(犯罪)になる可能性があります。


また、夫が個人で使用しているパソコンについては、鍵付きの引き出しに入った日記帳と同じで、「知らない間に勝手に中身を見られない」とのプライバシーに関する利益が、法的に保護されると考えられます。妻が勝手にパソコンの中身を見た場合には、夫のプライバシーに関する権利を侵害したとして、民事上の不法行為責任が発生する可能性があります。


しかし、今回のように夫婦が共同で使用しているパソコンは、もともと妻にも使用が許されています。夫はTwitterのアカウントをログインしたままだったということですが、これは、例えるなら、日記帳を不用意に食卓の上に開いて置きっぱなしにしたのと同じ状態で、一般的には妻に対し夫のプライバシーの利益は放棄されているといえます。従って、今回の妻の行為について、法的責任を追求することは難しいでしょう。





【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
知的財産(特許・商標・著作権)やインターネット上の問題に詳しい理系弁護士(東京大学大学院出身)。企業からの依頼も多く、法律顧問も手がける。近年は、夫婦や家族の法律問題(離婚・相続)にも注力している。
事務所名:四谷国際法律事務所
事務所URL:http://www.428law.com/