トップへ

「入院しないと死ぬ病気」なのに救急外来が「風邪とヘルニア」と誤診…法的責任は?

2016年05月13日 10:31  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

救急外来で「風邪とヘルニア」と診断されたが、実は「入院しないと死ぬ病気」だった...。Twitterに驚きのエピソードが投稿され、話題を集めた。


【関連記事:「AV出演」が知人にバレた!「恥ずかしくて死にたい」・・・回収や削除は可能か?】



投稿者はある日、「頭がガンガン痛み高熱を出し腰から下も全て激痛で寝ていられずずっとウロウロし続けるという症状」を発症し、深夜の救急外来に行った。すると、「風邪とヘルニアです」と診察されたという。



しかし、「さすがにおかしい」と思い、親族の医師に症状を伝えたところ、「髄膜炎」の可能性を指摘されたという。投稿者はその後、別の病院の救急外来に行き、緊急入院となった。「本当に死ぬところだったみたい」と当時の状況を振り返っている。



今回のケースでは、投稿者が、最初に行った救急外来の誤診を疑い、親族の医師の助言を得たため大きな事態にはならなかった。しかし、仮に誤診を信じていれば、病状が悪化した可能性もありえただろう。このような場合に、投稿者は誤診をした病院や医師に対して損害賠償などを請求できるのだろうか。岡崎秀也弁護士に聞いた。



●誤診をした医師に損害賠償を請求できる?


「最初の救急外来の誤診に対しては、3つの場合がありえたところです。第1は、今回のように、別の医師にかかり、大きな事態にならなかった場合。第2は、手遅れにはならなかったものの、すぐに治療がなされなかったので、一時、重篤な症状になり、回復まで時間がかかった場合。第3は、手遅れになって、後遺障害が残った、もしくは死亡した場合です」



岡崎弁護士はこのように述べる。誤診について医師に責任がある場合、損害賠償を請求できるのか。



「誤診について医師に過失責任が認められれば、第1の場合は、適切な医療を受けることがなかったとして慰謝料が認められますが、その額はあまり多くありません。



第2の場合は、すぐに治療がなされなかったので、一時、重篤な症状になり、回復まで時間がかかったのですから、治療費も高額になり治療期間も長くなるでしょう。よって、治療費の増額分の賠償、長くなった治療期間分の慰謝料が認められます。



第3の場合は、治療にかかる賠償はもちろん、後遺障害、死亡を前提とした賠償が認められることになります」



医師に過失責任が認められれば、いずれの場合も損害賠償を請求する余地はあるようだ。では、医師に過失責任があると証明するために、何がポイントになるのだろうか。



「ポイントとなるのは、今回のケースで言うと、最初の救急外来の医師が、症状から髄膜炎を予見できたかということです。法律は不可能を強いるものではないので、予見ができなければ、最初の救急外来の医師に(過失)責任を問うことはできません。



一般的に、重度の頭痛に加え、項部硬直(頸部筋が緊張、硬直し、首を自動はもちろん他動でも前屈できなくなる)、急な高熱、意識障害がみられるといった場合は、医師は髄膜炎を疑うべきとされています。



よって、患者がそのような訴えをしていたにもかかわらず、医師が風邪とヘルニアと診断したのであれば、当該医師は、髄膜炎が予見できたにもかかわらず、髄膜炎の検査をしないで帰宅させたということになり、これは、医師に予見義務違反があったとして、医師に過失責任を問うことができると思われます」



●患者が髄膜炎の症状を訴えていなかった場合は?


患者が項部硬直などの症状を訴えていなかった場合はどうなるのだろう。



「患者が、頭痛と高熱を訴えただけで、項部硬直や意識障害を訴えなかった(その自覚症状がなかった)場合も、医師としては、問診や打診などをして、患者が訴えていない症状を発見すべきです。



医師が、そのようにしても、髄膜炎の発症までを予見することは難しいときは、髄膜炎を予見して、その検査に回すべきとは言えず、とりあえず風邪と判断して帰宅させてもやむをえないかもしれません。検査も身体に影響を与えることになるため、むやみに行うべきとは言えないからです。



ただ、医師としては、帰宅させるにあたっては、もし、頭痛や高熱以外に症状が表れたときや頭痛などがいっこうにおさまらないときは、再度来院するよう促して帰宅させるべきでしょう。



とはいえ、医師が、上記のような『患者の訴え以上に問診などをする義務』、『帰宅にあたって注意を促す義務』を果たしていなかったとしても、後日、その義務違反を直接的には立証しづらく、責任を問うことは難しいのが実情です。裁判になったとき、医師側は『それらの義務は尽くした』と言ってくるからです。



よって、患者としては、身体のすべての症状、発症の経緯などを細かく具体的に医師に伝えることが肝心です。さらに、裁判になったとき、医師側から『そのような症状の訴えはなかった』と言われないためにも、単に伝えるだけではなく、症状や発症の経緯などを全てカルテに記載してもらう必要があります。



患者が訴えた症状が全てカルテに記載されていて髄膜炎の予見ができるのに、医師が検査をせず帰宅させた場合は、医師に過失責任があると考えられるでしょう」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
岡崎 秀也(おかざき・ひでや)弁護士
1985年中央大学法学部卒。1993年弁護士登録。都内大手法律事務所に勤務後、2011年2月弁護士法人ウィズ設立。交通事故、医療事故、労災が専門。日弁連交通事故相談センター東京支部算定基準部会長(「赤い本」編集責任者)・同支部委員長、同センター本部高次脳機能障害相談員、日本賠償科学会、日本交通法学会会員、第一東京弁護士会医療相談員等歴任。
事務所名:弁護士法人ウィズ
事務所URL:http://law-with-okazaki.com/