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「ゴールデンウィークの2強」に続く3位に初登場、『64-ロクヨン-』が傑作となった理由とは

2016年05月12日 23:31  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 先週の当コラムで予想したように(えっへん!)、公開3週目にして『ズートピア』が1位を奪取。それも、先週末2日間の動員は28万8041人、興収は3億8677万5600円と、2位の『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』の動員20万9805人、興収2億7889万8600円という数字に大差をつけての1位。東宝のアニメ作品(いずれも『妖怪ウォッチ』シリーズ)に1週目、2週目は動員1位を阻まれて、3週目以降にようやく1位を奪取というのは、一昨年末の『ベイマックス』、昨年末の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』と同じ流れ。公開時期も違うし、『コナン』は公開が1週早かったし、作品の観客層も違うので単純な比較はできないが、ディズニーにとっては縁起のいい話だろう。もっとも、その『コナン』の累計興収も4週目にして早くもシリーズ初の50億円を突破。シリーズ映画20周年を目前にして、今作で完全にモンスター・シリーズとして化けたことになる。


参考:マーベルはいかに日本で浸透したか? 『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の興行を読み解く


 さて、今週注目したいのは、そんな2強にこそ及ばなかったものの、先週末の土日2日間で動員20万3703人、興収2億5727万1900円をあげて3位初登場と健闘した『64-ロクヨン-前編』だ。今年の東宝作品としては『ちはやふる』に続いて2作目の「前編+後編」形式での公開作となるが、『ちはやふる』同様に、映画化の際にどうしても長尺となってしまう(なにしろ原作も分厚い上下巻からなる大長篇だ)ために2本に分割したということが理由として飲み込みやすい見事な完成度を誇っている。観客からの批判に晒されることもある「前編+後編」形式だが、ここにきて東宝は製作側としてもそのノウハウを会得したのかもしれない。ちなみに、現在のところ今後の東宝のラインナップに「前編+後編」形式の作品は予定されていない。なにも闇雲に「前編+後編」作品を量産しているわけではないのだ。


 『64』の瀬々敬久監督は、自らのライフワークとして取り組んだ犯罪映画の力作『ヘヴンズ ストーリー』を2010年に発表している。同作はベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど、国内外で高く評価されたものの、興行的には4時間38分という上映時間がネックとなって上映館数は非常に限られたものだった。前編+後編合わせるとちょうど4時間となる今回の『64』。自分は試写室で『64』前編、後編を2作続けて観ながら、瀬々監督にとって今回の作品は『ヘヴンズ ストーリー』のリベンジの意味合いもあるのではないかと感じずにはいられなかった。


 そういえば、『ヘヴンズ ストーリー』には、短い出番ではあったが『64』主演の佐藤浩市も出演していた。商業ベースから逸脱することも厭わず、自らのやりたいことをひたすら追求していった『ヘヴンズ ストーリー』における百戦錬磨の経験があったからこそ、『64』は大長編商業映画としてここまで素晴らしい仕上がりになったのではないか。原作の問答無用のおもしろさ、主演の佐藤浩市の熱に引っ張られた若手役者陣の他の作品では見たことがないような好演など、『64』が傑作となった要素はいくつもあるが、何よりも前編、後編の4時間にわたってまったく緊張感が途切れないという点で、『64』は60~70年代に数多くの傑作を生み出してきた日本の犯罪映画史においても出色の出来となっている。(宇野維正)