サラリーマンにもリストラや定年がありますが、プロスポーツ選手ほど「リタイア後の身の振り方」が大きな問題になることは稀でしょう。引退後の年数が長く、現役時との落差の大きさもあって、社会復帰に支障をきたす人も少なくありません。
5月7日の「目撃!日本列島」(NHK総合)はサッカーのプロ選手、Jリーガーの再就職支援を取り上げていました。選手生命が平均6年と短く、毎年100人を超える選手が現役生活を離れるJリーグ。国際プロサッカー選手会の調べでは、リタイア後はうつ病やアルコール依存症など心を病んでしまう元選手が約4割もいるそうです。(文:篠原みつき)
「恨みつらみ」を吐き出し始める元選手たち
番組が追ったのは、元選手のキャリアサポートを行う「一般社団法人グリーフケアパートナー」(東京・文京区)。Jリーグのスポンサーから資金を募って運営されており、就職口が見つかるまで専門のスタッフが何度も無料で面談し、サポートしています。
現場責任者の神田義輝さんが一番重視しているのは、元選手たちが「納得して引退したかどうか」。最初は「サッカーに未練はない」と言い切っていた選手も、よくよく話を聞くと「恨みつらみ」を吐き出し始めることが多いといいます。
「大事なのは、失ってしまったものと向き合うということ。自分自身と、自分の人生と向き合うということ…。こちらも救ってやろうとか、助けてやろうみたいなことではなく、本人がどうして行きたいのか。隣に寄り添って伴走する」
去年秋に引退した白井脩平さん(30歳)も、就職先がなかなか決まらなかった1人。原因は気持ちの整理がついておらず、面接でやる気を表現できないことでした。「このまま社会に行っちゃうと『俺、なんで仕事しているんだろう?』みたいなことに陥りそうな感じもする…」と不安な胸の内を明かしました。
元選手の平均年齢は30歳近く、一般的には中途採用にあたる年齢。その年齢で社会経験の少ない人を一から教育する理解ある企業を探すのは、容易ではありません。それでも神田さんは各企業に対し、元選手たちの長所をていねいに説明していました。
視聴者も激励「涙が出てきた。がんばれ第2の人生」
神田さんとの面談を繰り返しながら、白井さんは今までのサッカー人生を振り返り、自分を分析するようになります。そこで人の期待に応えることや、人のためなら持てる能力以上を発揮できる自分に気が付きます。
自信を取り戻した白井さんは、面接の練習でも納得いく返答ができるようになっていました。医薬品の販売会社に就職が決まり、現在研修中。夏からは営業マンとして働き始めます。少年サッカーのコーチも辞め、小学生から24年間続けたサッカーに区切りをつけました。
自分の人生に向き合うことは、就職先を探すときには誰もが考えなくてはならない問題。ただ元選手は一度叶えた夢の重みを1人で振り払うことが難しく、こうしたていねいなカウンセリングが重要となるようです。華やかなスポットライトを浴びた選手ほど、その呪縛から逃れるのが難しいのかもしれません。
サッカー少年たちとの別れのシーンは感動的で、ネット上には視聴者から「見ていて涙が出てきた。がんばれ第2の人生」などいった励ましもあがっていました。Jリーガー以外にも通じる教訓を見出す人もいて、とても考えさせられる内容でした。
「一生同じ仕事で終われるという人が現在いるだろうか。いたとしてもそのような恵まれた環境の人はごく少数だと思います。倒産やリストラ、大勢の人達がいろいろな壁にぶつかり毎日を生きている。この番組を見て少し勇気をもらった気がします」
※2016.5.13追記:当初、見出しを「Jリーガーの4割が引退後「メンタルヘルス不全」に」としましたが、4割という数字は国際プロサッカー選手会の調査データであり、Jリーグのみの調査はありませんでした。見出しと本文を訂正します。
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