トップへ

大阪市が宿直職員の「仮眠」に賃金支払い、なぜ労基署は労働時間と判断したのか?

2016年05月11日 11:12  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

大阪市は4月25日、市内全24区で働く非常勤の宿直職員ら約100人に対し、未払い賃金があったとして、請求権が残っている過去2年分の賃金を支払うと発表した。仮眠時間が実質的な労働時間になっていたといい、労働基準監督署の指摘で分かった。


【関連記事:「性生活なしの結婚」誓約書に同意した夫が「君と交わりたい」・・・妻は離婚できる?】



市によると、業務は2人1組で、夜間や休日に戸籍の届け出などを受ける内容。宿直の場合、勤務時間は午後5時半から翌午前9時までで、このうち午前0時から6時までは交代で仮眠が取れることになっていた。しかし、実際は来客があると2人で対応することもあったことから、労基署はこの時間帯を労働時間と判断。賃金を計算し直すと、大阪府の最低賃金を下回るため是正勧告していた。



職員が不眠不休で働いていたわけではないのに、なぜ労基署は仮眠時間をすべて労働時間と判断したのだろうか。労働問題にくわしい加藤英男弁護士に聞いた。



●「使用者の指揮監督下」にあったかどうか


「労働時間とは、端的に言えば、『使用者の指揮監督下にある時間』を言います。例えば、『リフレッシュタイム』など、あたかも休憩時間であるかのような名称で呼ばれていても、実質的に使用者の指揮監督下にあれば、それは労働時間とされます」



具体的には、どのような場合が指揮監督下にあるとみなされるのだろうか。



「事実上、使用者の言うことを聞かなければならない状態にある場合です。例えば、使用者が『ちょっとこっち来て、これやって』と言ったら、労働者は事実上従わないわけにはいきません。この場合、作業している時間だけでなく、その時間帯全体が労働時間とされます。なぜなら、その時間帯全体にわたって、労働者はおちおち休んではいられない、気が休まらない状態にあるからです」



今回の大阪市の場合はどうだろうか。



「本件の宿直職員は、仮眠時間中(午前0時~6時)に来庁者があれば、仮眠を中止して業務に当らざるを得ないという実態があったといいます。



このような実態から、使用者側は宿直職員に対して、仮眠時間中であっても多数の来庁者があれば業務をするように期待し、あるいは黙示的に命じていた。そして、宿直職員は、それに従わざるを得ない状態で、おちおち休んでいられない状態にあった、と考えられます。



そのため、労基署は仮眠時間中も実質的に『使用者の指揮監督下』にあったと判断し、実際の作業時間だけでなく、この時間帯全体を労働時間と認めて、給与を再計算すべきだと指導したのです。



似たような問題は宿直警備員、介護職、タクシードライバーにも起こり得ます。ただし、実質的に『使用者の指揮監督下』にあったと言えるかどうかは、それぞれの労働者の置かれた状態や実態によります。



また、今回は宿直の事例でしたが、実質的に使用者の指揮監督下にあったかどうか、という考え方は、仮眠時間だけでなく、日中の休憩時間にも当てはまります」



加藤弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
加藤 英男(かとう・ひでお)弁護士
愛知県弁護士会所属、弁護士登録21年。最近の主な取扱分野は、企業では、労働関係訴訟と人事労務・法律一般顧問業務、債務不履行事件、破産・民事再生。個人では、相続、離婚他、民事全般。刑事事件は扱いません。

事務所名:加藤英男法律事務所
事務所URL:http://www.kato-hideo.com