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ALは早くも普遍的なロックンロールを手にしたーー1stツアーファイナル公演レポート

2016年05月10日 17:51  リアルサウンド

リアルサウンド

AL(写真=杉田 真)

 2016年3月に1stアルバム『心の中の色紙』を発表し、バンド活動を本格化させたAL。小山田壮平(V/G)、長澤知之(V/G)、藤原寛(B/Cho)、後藤大樹(Dr/Cho)、によるこのバンドのワンマンツアー『AL 1stTour 2016』のファイナル、赤坂BLITZ公演で彼らは、流行や時代、シーンの在り方などを完全に超越した、まさに普遍的としか言いようがないロックンロールをいきなり体現してしまった。


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 ライブは1stアルバムのタイトルチューン「心の中の色紙」からスタート。小山田はアコースティックギター、長澤はエレクトリックギターを弾きながら、<暗い部屋の隅でかいていた歌を 心の中の色紙にかくよ>というフレーズを声を合わせて歌う。ブルースとロックンロールがせめぎ合うようなバンドサウンドは、時々リズムを揺らしながら、濃密でエモーショナルなグルーヴを生み出す。さらに長澤の高音、小山田の中低域のメロディが有機的に絡み合うフォークロックナンバー「風のない明日」、独特のサイケデリアをたたえた長澤のギター、美しく抒情的なハーモニーを軸にした「シャッター」、抜群の推進力と破壊力を備えたリズムセクションのなかで、音楽的な原風景を叫びまくる「Mt. ABURA BLUES」。アルバム『心の中の色紙』をリリース後、名古屋、福岡、大阪でワンマンライブを行ってきた4人。小山田、長澤のふたりだけで2011年頃から始まり、2015年の夏、現在のメンバーが揃ったALは、すでにロックバンドとしての独創性とアイデンティティを確かに掴み取っていた。


小山田「こんばんはALです。マッド・シティ,トーキョー!」
長澤「なんて言ったの? 狂った都市?」
小山田「(小声で)え、知之が“言え”って言ったのに」
長澤「…すいません」


 という何だか微笑ましいMCの後、ALの音楽はさらに濃度と精度を増していく。特に印象的だったのは、アルバムに収録されていない新曲。カントリーミュージックの素朴な手触りとスピード感溢れるロックンロールがひとつになった「懐かしい雨の匂い」、甘い香りを放つようなコーラスワークと有機的なギターのアンサンブルを軸にした「会いにいくよ」、カラフルで柔らかいポップワールドが広がった「たぶん、きっと」。これらの楽曲はALの音楽的な可能性の高さをはっきりと示していた。メンバー4人の演奏センスと感情が混然一体となったアンサンブルも驚くほどに魅力的。鋭利なオルタナティ感覚と深みのあるサイケデリアを共存させた長澤のギター(ギタリストとしての長澤の才能が存分に発揮されていることも、このバンドの大きな意義だと思う)、骨太なグルーヴと歌心に溢れたフレーズを同時に体現する藤原のベース、そして、強いアタック感とともに奔放ビートを描き出す後藤のドラム。すべての音が遠慮も躊躇もすることなく放たれ、緊張感と開放感が交互に訪れるような独自のサウンドへと結びついていくのだ。何かのハズみでバラバラになってしまいそうな不安定さも魅力的に感じてしまうALのバンドアンサンブルは、“強い個性を持ったメンバーのぶつかり合いこそが、ロックバンドである”という当たり前のことを改めて示唆していた。


 そして、個人的にもっとも心に残ったのは長澤が弾き語りで披露した「15の夏」だった(小山田はブルースハープを吹き、藤原、後藤は静かに長澤を聴いていた)。タイトル通り、「15の夏」の思い出ーー胸が切り裂かれるような鬱屈のなかで音楽だけに希望を見出している少年の心象風景ーーを歌ったこの曲にはおそらく、長澤自身のリアルな思いが投影されている。特筆すべきは、長澤のソロの楽曲よりも生々しく、露骨なまでに“個”のエモーショナルが感じられることだろう。絶対的な信頼感で結ばれた仲間を得ることで、独りで活動しているときよりもさらに深く、さらに強い“個”の音楽表現が生まれる。使い古された言葉で申し訳ないが、これこそがバンドマジックなのだ。


 小山田のイノセンスがゆったりと感じられる3拍子の牧歌的なナンバー「リンリンリン」からライブは後半へ。といっても彼らは“最後に盛り上がりやすい曲を連発”みたいなことはしない。繊細なアルペジオと4人の厚みのあるハーモニー(音程を正確に合わせるというより、全員が自分の歌を歌っているイメージ)が印象的だったミディアムチューン「あのウミネコ」、後藤がキーボードを弾き、まるで讃美歌のような雰囲気のなかで<綺麗になりたくて もがけばもがくほど この手も足も 獣臭くて嫌になるんだ>というフレーズが広がった「ハートの破り方」、諦念と希望がごちゃ混ぜになったカントリーソング「北極大陸」を演奏し、本編は終了。アンコールではアルバム収録曲「HAPPY BIRTHDAY」「花束」を含む3曲を披露、「また会いましょう」(小山田)という言葉とともに4人はステージを去った。


 バンドの成り立ちや楽曲の説明もなく、観客を煽ることもせず、ただただ自分たちの音楽を刻み付けた4人。小山田壮平、長澤知之という破格の才能を持ったふたりのシンガーソングライター、そして、藤原寛、後藤大樹による魅力に溢れたリズムセクションがひとつになったALはこの日、音楽の尊さ、鋭さ、豊かさをどこまでも純粋に描き出してみせた。音楽でこんなにも心を揺さぶられたのは、本当に久しぶりだった。(森朋之)