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『重版出来!』は出版業界をどこまでリアルに描いている? コミック誌カリスマ編集者が分析

2016年05月10日 17:51  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 黒木華主演ドラマ『重版出来!』(TBS系/毎週火曜22時~)は、週刊コミック誌「週刊バイブス」の新米編集者・黒沢心が、一癖も二癖もある漫画家や編集部員、営業担当、書店員たちを巻き込みながら、初版と同じ版を使い、同じ判型、装丁にて刷りなおす“重版出来”を目指す模様を描く、いわゆる“内幕モノ”だ。これまで出版界の内側を描いた物語は数多く作られてきたが、本作は特にリアリティがあると、出版業界人の間でも評判だという。実際のところ、どこまでリアルに描かれているのか。数々の人気作品を手がけてきた、講談社「週刊少年マガジン」編集部・伊香淳一氏に話を聞いた。


参考:『とと姉ちゃん』『重版出来!』『バクマン。』……出版業界の内幕描く物語はなぜ増えた?


「まず、机の配置やポスターの貼り方、雑然としているデスクの感じなど、セットがかなりリアルですね。我々も書店用のポスターを制作したら編集部に貼るんですが、そういう細かいところもわざわざドラマ用に特別に作っていて、しかもその数がやたら多い。衣装もよくできていて、黒木華さん演じる主人公・黒沢心だけは華やかな服装ですが、それ以外の登場人物はいかにも出版社らしいラフな格好です。私が所属している編集部を見渡してみても、ボタン付きのシャツを着ている人もいれば、ポロシャツの人もTシャツの人もパーカーを着ている人もいる。そういう意味でも漫画編集部の再現度は相当高いと思います」


 もっとも、第2話で描かれた営業部と編集部の対立については、誇張している部分もあると同氏は続ける。


「坂口健太郎さん演じる営業部員の小泉純と、生瀬勝久さん演じる岡英二という営業部員の人たちが出てきますが、彼らがキチッとしたスーツを着ているのも“出版社あるある”ですね。ただ、編集部と営業部の対立は、まったくないとは言えないものの、ドラマとして誇張しているように感じました。対立軸を作ると、物語になりやすいですからね」


 漫画家と編集者の関係性の描き方については、次のように指摘している。


「漫画家さんから連絡がなく、アポなしで家に行ったりするのは、かなり稀なケースだと思います。実際は皆さん電話なりメールなりLINEなり、きちんと返してくれますから。漫画家さんは一般的にイメージするほど変人が多いわけではないんです(笑)。ただ、彼らも十人十色ではあるので、担当編集も漫画家さんにあわせてケースバイケースでやるしかないのは事実。第3話では、締め切り直前になっても滝藤賢一さん演じる高畑一寸からネームがこないという話が描かれましたが、あの場面は緊張感があって面白かったです。予定されていた時間にネームがこない時って、やっぱり原稿が落ちてしまうんじゃないかって、最悪の事態を考えるわけです。だから、ちゃんとネームがきたら担当編集はホッとするんですけど、黒沢はそこで『面白くない』とボツを出す。自分がボツを出したことによって、原稿が落ちてしまう可能性があるという不安と戦いながらも、ああいう決断に至るという切実な流れはリアルでおもしろかったです。あと、オダギリジョーさん演じる副編集長の五百旗頭が、『アオリは、編集者から漫画家へのメッセージでもある』と言いますが、じつは、私も若い頃に先輩からまったく同じ言葉を言われたことがありました。まぁ個人的には、アオリは読者向けに書くべきだと思っていますが」


 また、『重版出来』が業界人にも愛されている理由について、同氏は次のように分析する。


「現役の編集者がこのドラマを観て面白いと思う理由は、個人的に2つあると思います。ひとつは先ほど述べたように、セットや編集部の雰囲気にリアリティをもたせているところです。劇中に出てくる漫画も、ゆうきまさみさんやのりつけ雅春さんたちが実際に描いてくれている。現役バリバリの人気漫画家さんが実際に作中作の漫画原稿を執筆している。これに勝るリアリティはありません! それとふたつめは、単純に各話がドラマとしてサクセスストーリーになっているところです。いわゆる“持たざる者”が成功するスポ根ストーリーに仕上がっている。そこそこ実績のある中堅編集者がまた成功するという話では、カタルシスが生まれないですが、何もない若者が失敗を繰り返しながらちょっとずつ成功していく、勝ち上がっていくというのは、観ていて非常に面白い。逆転劇であり成長物語です。とにかく第2話の坂口健太郎さんの営業部の回が個人的にはツボでした! 神回だと思います! 他社作品ながらあっぱれの一言です」


 今夜放送の第5話では、高田純次演じる社長・久慈勝の過去や、中川大志演じる・大塚シュートの単行本発売、永山絢斗演じる中田伯の新人賞応募などが描かれる。黒沢がさらに成長していく姿が楽しみだ。(リアルサウンド編集部)