まるまる1週間、雨が降らないどころか、決勝に向けて、日に日に暑くなって行ったベルギー・スパ・フランコルシャン。5月7日(土)には、気温27度、路面温度37度というコンディションの下で、午後2時30分にWEC第2戦の決勝がスタートした。
この決勝は、序盤から波乱に次ぐ波乱の展開となり、3メーカーが走らせるワークスマシン6台のうち、5台までがトラブルやアクシデントに見舞われた。中でも落胆が大きかったのは、レース中盤に独走態勢を築いていたトヨタ陣営だった。
今回、気温・路面温度が高くなることを予想して、ソフト・ホット・プラスと呼ばれるタイヤを唯一選択していたトヨタは、スタートではライバル勢の先行を許したが、5号車のスターターを務めたセバスチャン・ブエミがそこから猛烈に追い上げ、アウディ7号車にスタックしていた僚友の6号車、さらに7号車をアッという間にオーバーテイク。19周目にアウディ8号車をかわすと、最初のピットインではタイヤ交換を行わず、いきなりWスティントを敢行した。
他の陣営はシングルスティントでタイヤ交換を行ったため、スタートから首位をキープしていたポルシェ1号車の前に出て、トップを奪うことに成功。ただし、ラップタイムペースは1号車の方が早く、2番手で乗り込んだティモ・ベルンハルトがみるみる接近。ところが、2台がテール・トゥ・ノーズのバトルとなった37周目の1コーナーで、ポルシェ1号車のタイヤがバースト。これをきっかけに1号車にはトラブルが頻発することとなり、トヨタ5号車は、2番手に浮上したアウディ8号車に対しても大きなリードを築いた。
一方、序盤から若干苦しい展開となったのは、6号車。マイク・コンウェイは、アウディ8号車を追う接近戦の中、21周目のバスストップシケインでブレーキをロックをさせて、LMP2クラスの37号車に追突。ボディワークにダメージを負って、そのままピットへと入った。その修復作業に時間が掛かっただけでなく、ドライブスルーペナルティーも科せられ、この時点でトップからは周回遅れの3番手となった。だが、2番バッターとして乗り込んだ小林可夢偉が、そこから激しい追い上げを見せることになる。
「ボディワークのダメージの影響で、クルマはものすごくオーバーステアでした。ダウンフォースが無くなっていましたからね。それでも、何とか立て直そうとしていましたし、あのまま行けばアウディに追いつけたと思います」
しかし、6号車は可夢偉が2スティント目に入って15周というところで、イレギュラーのピットイン。
「エンジンから変な音がしたので、僕の方からチェックしてくれと言ったんです」ということで、マシンはガレージに入れられた。ここでドライバーは、ステファン・サラザンに交代。チェックを終えると、再びコースに戻ったが、わずか1周でピットに戻る。そこからエンジンのプラグやコイルを交換し、再びエンジンの始動を試みたが、復調せず。エンジン担当者がシリンダー内部を確認した結果、これ以上の走行は不可能と判断し、リタイヤを決めた。
「クルマは速かったですし、パフォーマンスはありました。ただ、ル・マンではこのパフォーマンスを保った状態で、信頼性を向上させなければなりません。シルバーストンのようにペースもなくてエンジンが壊れたならガッカリでしたけど、速かった分、ポジティブに捉えたいですね」と可夢偉は、次に向けて早くも気持ちを切り替えていた。
その頃、5号車はクルージングと言ってもいいほどの独走状態。あとはリスクを背負わずに走り切るだけという状況になった。そして、99周を終えたところで、満を持して中嶋一貴が乗り込んだ。
「基本的にあとは安全運転するだけっていう感じでした」と言いながら、一貴はコースに出ると好ペースでラップを重ねる。
ところが、わずか15周を走っただけで、不運に見舞われた。右側のエギゾーストから白煙を吐き上げ、ピットインを余儀なくされたのだ。
「走っている感触は、それまでとは変わらなかったんです。全く馬力は落ちていなかったし、ピットから“白煙が出ている”って言われなければ気付かなかったぐらいでした」
そこから、ガレージに入れられた5号車はウマに上げられたが、オイルがフロアから滴り落ちていた。幸いなことに、5号車はシリンダー内部まではダメージが及んでおらず、最後はチェッカーを受けるために、1周だけコースに出た。それでも“楽勝”モードから、奈落の底に落とされたような結果に、チームは意気消沈。コクピットを下りた一貴はメカニックと抱き合った。
「残念ですよ、もちろん。ポルシェがコケてくれたので、思った以上にラクな展開にはなりましたけど。待っている間は“勝てる”と思わないようにしていたんですけど、(2014年の)ル・マンと同じでしたね(苦笑)。でも、ダウンフォースレベルがしっかりしていれば、ライバルとも戦えると分かりましたし、ル・マンに向けての方向性は見えているのかなと思います。(開幕2戦がツイていなかったので)“3度目の正直”になればいいなと思っていますよ」