2016年05月08日 10:11 弁護士ドットコム
「就職前に障害を診断されている人間が、クローズで入った後にカミングアウトしたら会社になんか言われるんやろか」。障害者の就業をめぐる投稿が、ツイッター上で議論となった。
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投稿者は「(障害を)オープンで行きたいけど、そうすると就職が難しい」と考え、障害の事実をクローズ(伏せた)したまま就業したいと希望しているが、会社にバレた場合、不利益な取り扱いされるのではないかと不安に感じているようだ。実際、内定後、入社研修中に障害をカミングアウトしたところ、入社辞退に追い込まれたという体験談をツイートする人もいた。
障害があることを隠して就職することは、法的に問題があるのか。労働問題に詳しい波多野進弁護士に聞いた。
「この問題は、法的にみて、採用を希望する応募者(労働者)が、採用面接の際に、自分に不利に作用する事実(典型例は病歴や前科前歴ですが、障害もこの事実に該当すると思われます)について、自発的に告知する義務まであるのかという問題だと思います。
応募者に自発的に障害などについて告知する義務があるとなれば、障害などの事実を告知しなかったことを理由に解雇できる可能性が出てくることになります」
波多野弁護士はこのように指摘する。応募者にそうした告知義務はあるのだろうか。
「裁判例では、採用面接に当たり、信義則上の義務として、告知すれば採用されないことが予測される事項について、自発的に告知する法的義務まではないとされています。こうした裁判例に照らすと、障害などの事実を自発的に告知する義務まではないということになると思います」
応募者に告知義務がないとしても、会社が事前にそうした事実を調査するようなことは許されるのか。
「採用する側は調査の自由がありますが、応募者の人格的尊厳やプライバシーなどの観点から、この自由は制約を受けます。
学術的には、調査の事項について質問や調査ができるのは、応募者の職業上の能力や技能、従業員の適格性に関連した事項に限定されるべきという指摘があります。
また、障害者雇用促進法の趣旨・目的は、事業主は、労働者の募集および採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な期間を与えなければならないなどといった点にあります。
こうした観点からすると、職業上の能力や技能などに影響がないような障害であるなら、そもそも、その調査や質問自体が許されないということもありうるでしょう」
波多野弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com