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電波少女が語る、“被害妄想”のラップ表現「絶望に向かって走っていくような描写が好き」

2016年05月07日 20:31  リアルサウンド

リアルサウンド

電波少女、左からハシシ、nicecream

 電波少女(でんぱがーる)が、EP『パラノイア』を5月11日(水)にリリースする。 「拝啓」で始まり「追伸」で終える全7曲を収録する同作には、2015年2月にiTunes Store限定シングルとしてリリースされ、iTunesヒップホップ/ラップシングルチャート1位を獲得した「COMPLEX REMIX feat. Jinmenusagi,NIHA-C」のオリジナルバージョン「COMPLEX」や、NIHA-Cとコラボした「オーバードーズ feat. NIHA-C」、先日の2月27日Shibuya WWW公演で初披露した「RY feat.Jinmenusagi」(Jinmenusagiとのコラボ曲)、センチメンタルなリード曲「笑えるように」などを収録。ネットラップシーンで注目を集め、リリース毎に着実にプロップスを集めてきた彼らにとって、さらに大きなステージを目指した作品に仕上がっている。“被害妄想”をテーマとした本作の狙いと、昨今のラップシーンについて話を聞いた。


■ハシシ「被害者意識を募らせて何かを訴えたり、わめき散らしたりする作品ですね(笑)」


ーー昨年リリースしたアルバム『WHO』は多様なゲストと幅広い楽曲にチャレンジしていましたが、今回のEP『パラノイア』は電波少女のカラーをより突き詰めている印象でした。まずはコンセプトを教えてください。


ハシシ:『パラノイア』とのタイトル通り、“被害妄想”を全曲の背景にしています。被害者意識を募らせて何かを訴えたり、わめき散らしたりする作品ですね(笑)。1曲目が「拝啓」で、最後の曲が「追伸」となっているのは、聴いてくれたひとへの手紙という意味もあるけれど、単純に一枚の作品としてのまとまりを考えて、こうしたタイトルを付けました。


ーーリリックがすごく個性的で、いい意味ですごく“ひねくれて”いますよね。こういう表現ができるのは、以前のインタビューでも指摘されていましたけれど、ネット出身ラッパーの強みだと思います。(参考:電波少女が語る、ネットラップの強み「表に出るのが苦手でも、ヒップホップで表現できる」


ハシシ:陰険ですよね(笑)。ヒップホップに限らず、たとえば最近のアイドルなどはいろんな方法でカウンター的な表現をしていて、自分もそっち側のタイプだとは思っていたんですけれど、今作ではもう少しストレートな表現も意識しています。目に見えて変わったことをするというより、一聴すると耳馴染みが良いんだけど、よく聴くとなにか引っかかる感じ。“変なストレート”を打ってやろう、みたいな。


ーーたしかにサウンドの方向性が定まっている感じで、王道感もあります。一曲目「拝啓」から、バシッとエレクトロ寄りのトラックを打ち出して、それがラップのスタイルとマッチしていました。


ハシシ:今回はトラックをすべてmel houseにお願いしたので、統一感は出たと思います。前はいろんなトラックに乗せていたけれど、やるべきことがよりはっきりしてきたのかもしれません。メロディを絡めたフロウに、mel houseのトラックはうまくハマるというか。


ーー曲中に「なぜかフリスタ強要されたりして」とありますが、これは昨今のフリースタイル流行に物申している?


ハシシ:そうですね(笑)。ULTIMATE MC BATTLEが始まったくらいから、「ラッパーならフリースタイルができて当たり前」みたいな風潮があるんですが、フリースタイルだけがラップじゃないですから。たとえば、お笑い芸人で漫才がすごい面白い人たちがいたとして、その人たちが自己紹介をするときに、一発芸を強要するのはおかしいですよね。もちろん、フリースタイルを観たりするのは好きなんですけど、俺はそこで勝負しているわけじゃないので。どちらかというと、漫才やコントを作っている感覚なんですよ。実は昔、フリースタイルをやっていた時期もあったんですが、フリースタイルに強い人は音源が単調になりやすい傾向があることに気づいて。たぶん直感で作る癖がついてしまうんですよね。それでハマるときは良いけれど、自分の中の合格ラインが低くなってしまう気もしていて。それなら俺は、もっと楽曲をちゃんと練りたいんですよ。


ーー2曲目「COMPLEX」もフロウが凝っていますね。メロディが割とはっきりあって、今っぽいと感じました。


ハシシ:メロディを先に作って、フロウを乗せて、パズルみたいに歌詞をハメていくという書き方なんです。あと、昔と比べてあまり韻を踏まなくなりました。そうしたら、当たり前ですけれど縛りがなくなった分、言いたいことが言いやすくなったんですよね。紡ぎたいメロディと、メッセージの距離が近くなりました。ただ、『WHO』のときはもっと踏んでいなかったので、いまくらいがちょうど良いかなと感じています。踏みすぎると逆にダサくなったりもするので。


ーー3曲目「RY feat.Jinmenusagi」は、以前にもフィーチャリングしたJinmenusagiと組んでいますね。彼も最近、多方面から注目されています。


ハシシ:この曲は『WHO』のリード曲だった「MO feat.NIHA-C」の続編というイメージで、前回は失恋ソングでしたが、今回も恋がうまくいかない歌です(笑)。NIHA-Cとは4曲目の「オーバードーズ feat.NIHA-C」でも組んでいますね。今回、フィーチャリング曲はこの2曲です。


ーー2月のワンマンライブを見ていても感じたのですが、電波少女は横のつながりがたくさんありますね。ヒップホップはバンドとかに比べると、特にフィーチャリングが効果的な音楽なので、頼もしく思います。


ハシシ:自分たちの場合は、特に新しいつながりが増えているというより、周りにいるのはずっと昔からの友だちなんですよね。おたがいにリスペクトして切磋琢磨してきた仲間たちと、こうして節目ごとに一緒に曲を作れたりするのは嬉しいです。実際、以前よりプロップスも得られていると思いますし。ただ、彼らとやっていくのはある意味ではすごく大変で、JinmenusagiもNIHA-Cもめちゃくちゃスキルがあるし、しかもまだ進化し続けているんですよ。友だちにかっこ悪いと思われたくないから、俺も頑張るんですけど、「クソ、負けた!」って感じて凹むことも多いです(笑)。ただ、彼らがいるからこそもっと良い曲を作ろうと思うし、ここまでやってこれたのは間違いないです。


ーーそういえばハシシさん、ワンマンのときにみんなに胴上げされてましたね。


ハシシ:はい。不本意でしたけど(笑)。


nice:あれは面白かったですね。「うわー、ハシシ胴上げされてる!」って思いながら見てました。愛されてますよね(笑)。


ーー(笑)でも、楽曲はやっぱりひねくれていて、次の「Mis(ter)understand」も一筋縄ではいかない作品でした。


ハシシ:自分が思っていることを正直に言うのは、ヒップホップらしい表現だと思うんですけれど、セルフボーストを客観視すると「こいつ勘違いしているな」っていうイタさも感じるじゃないですか。いざ一人のMCとして、自分の中の自信みたいなものを歌にしようと思ったら、かなりイタくて(笑)。でも、だったらとことん勘違いしたリリックを書いてみようと思ったんですね。もう、イタいのは自分で十分わかっているけど、そのうえで敢えて言ってみるという。


ーーそういう発想が、新しいヒップホップの感覚になっている気がしますね。ハシシさんとも親交の深いぼくのりりっくのぼうよみなども、これまでのヒップホップカルチャーとは少し異なる出自で、そこに一定の距離があるからこそ表現が新鮮なのかもしれません。“君のガバガバなSNSからイカつい彼氏がいるのも知った”というフレーズとか、すごく良いです。


ハシシ:ああ、これは自分たちの日常ですね(笑)。先日のワンマンに参加してくれた友だちもそうなんですけど、俺らはこういうことばっかりして遊んでいたんですよね。インターネットで女の子のSNSのアカウント探して、みんなでウォッチしたりとか。こいつ彼氏いるじゃん、みたいな。もちろん、いまはそんなプチ・ストーキングみたいな真似はしていないですけれど。


nice:俺はまだやってます。可愛い子を見つけたら、過去の投稿とかもチェックして(笑)。


ハシシ:まあ、みんな口に出さないだけで、男も女もやってますよね。


■ハシシ「ようやくネット発の俺らも国民として認められたのかな」


ーー「笑えるように」もすごくハシシさんらしい曲ですよね。


ハシシ:基本的に絶望とかに向かって走っていくような描写が好きなので、それがいちばん出せた曲だと思っています。ちょっと前のバンドサウンドみたいな飾らないトラックに仕上げてもらいました。


ーー“オレたちの曲は、聴きやすい猛毒”ってリリックは、アルバム全体を指し示しているとも感じました。


ハシシ:基本的にこの曲は、2ちゃんねるに書かれていることとか、耳に入ってくる陰口に言い返したものなんです。不毛な争いで、やらない方がいいことをやったという感じですね(笑)。それと、流通やプロモーションとかについても言及しているけれど、それに対しては文句を言っているわけではなくて、自分も無知なところがあるので改めて学んでいきたいという意思表示なんですよね。俺が流通とかに怒っている曲ではないです。


ーー今作で電波少女のアーティスト性がより明確になったと感じたのですが、nicecreamさんは制作面でどんなことを?


nice:俺は全部できあがってからポンってもらいました(笑)。一応ライブでは一緒に歌ったりもするので、その歌詞を覚えたりはしましたけれど。DJもボタン押してるだけ。


ーーでも、nicecreamさんのダンスパフォーマンスは、電波少女のライブをほかにないものにしています。


ハシシ:ヒップホップのライブをするうえで、お客さんの想定の範囲内で収まっていたら嫌だなというのはあって、そういう意味でniceのダンスは重要ですよ。文化祭じゃないですけれど、いろいろなことがあった方が楽しいと思いますし。


ーーこの前はちょっとした小芝居も披露していましたね。


ハシシ:あれはなんだったんですかね? 解散からの復活という“茶番”を芝居にして、5月22日のライブに繋げてみたんですけれど、いまいちわかりにくかったみたいで、お客さんには全然伝わっていなかったです。もう忘れてください(笑)。でも、たとえクオリティが低くても、曲を披露するだけじゃないライブの面白さは伝えたいと考えていて。


nice:ラップとダンスって同じヒップホップカルチャーの中にあるのに、なかなか一緒にやる機会ってないんですよ。ダンスイベントは別に行われていて、交わってないんです。ダンスはダンスでひとつのジャンルみたいになってしまっているんですよね。でも、実際に見たら楽しいし、ダンスに興味がないひとでもショーとして普通に楽しめると思うんですよ。


ーーそういう面でも、ヒップホップに新しい風を吹かせてほしいです。


ハシシ:僕らはネット発ということで、新世代みたいに思われているところもありますが、結局のところ面白い人がちゃんと浮かび上がってきているんだと思うんです。ぼくりりもJinmenusagiも、これまで気付かれていなかっただけで、アンダーグラウンドにはほかにも凄い才能の持ち主はたくさんいるはず。ただ、最近はようやくネット発の俺らも国民として認められたのかな、という感じはしています。今後は日本語ラップのシーンだけではなくて、広く音楽シーンの中で存在感を出していきたいですね。(取材・文=松田広宣)