トップへ

佐藤浩市「撮影の度に“身を削るような思い”をしていた」

2016年05月07日 13:20  週刊女性PRIME

週刊女性PRIME

写真
日本を代表する俳優としてのオーラを放ちながらも威圧感はほとんどなく、どこか親しみやすさを残している佐藤浩市。 「今週の『週刊女性』さんの“大ネタ”はなんですか?」 インタビューの冒頭、こんな言葉を投げかけ、場の空気をなごませた。この日はなんと、自ら朝食を作って食べてきたという。 「最近、肉をあんまり食べていないなと思ったから、昨日スーパーで牛肉を買ってきて。今朝はその牛肉を玉ねぎと炒めたものを、しっかりと食べてきました。しょっちゅうではないけど、こんなふうに自分で料理することもありますね」 多彩な役を演じられる秘密は、そんな“無欲で普通の生活”に隠れているのかもしれない。‘80年のデビュー以来、止まることなくキャリアを重ねてきた。それだけに、今や撮影前に役の重さがわかるという。 最新主演映画『64-ロクヨン-前編/後編』は、横山秀夫の同名小説が原作。出版されるやいなや、いまだかつてないミステリーとして各方面で絶賛され、’15年にはNHKでドラマ化も。出演のオファーを受けたときは、どんな気持ちだったのだろう。 「台本はまだなかったけど、“絶対に大変になる”という予感がありましたね。大変イコール傑作になるとは思わないけど、35年もこの仕事をやっているから、身体がわかるんですよ」 その予感は的中する。県警広報官の三上役を演じる佐藤に待ち受けていたのは、名優たちを相手に行う対決シーンの数々。当時の心境を振り返ると……。 「撮影のたびに、“身を削るような思い”で相手の前に立っていましたね。そうでないと成立しないという覚悟がありました。それだけに、暑苦しい芝居になっちゃったんですが(笑)」 今作は奥田瑛二や三浦友和といった大物俳優のほか、綾野剛や瑛太、窪田正孝など、若手実力派俳優も多数出演している。“昭和デビューの名優の1人”として、“平成を担う後輩たち”へ向ける眼差しは温かい。 「不思議なものでね。まじめに取り組んでいる人間ほど、そいつが今、役者として何丁目何番地にいるかがわかる。役者という仕事のどういうところで悩んでいるかがわかるんですよ。それは、自分も通ってきた道だからでしょうね。 彼らを見ていると、役者という人種の根っこは同じだなと思うし、そこを抜けたときに見せる芝居が楽しみでもあります」 ここ10数年の間に、役者のあり方もずいぶん変わった。 「三國連太郎たちの時代は“役者は芝居をやってなんぼ”だったけど、今は役者が確実に、出演作品の広報マンになりますからね。僕も若いころは“俺は役者だから”と逃げていた部分もあったけど(笑)、今は現実的に“作品を見てもらってなんぼ”という考えなので、何も無駄なことだとは思ってないですよ」 割が増える一方、私生活でも品行方正さが問われるなど、いわゆる“役者バカ”で許されることがグンと減ってしまった。その中で、つねに『佐藤浩市』の看板を背負うことについては? 「ゴルフに行ったときに、どんな球を打つのかと、人が集まってくるのはちょっとね(笑)。でも、損か得かでいえば、生きていくうえで得なことも多いわけですよ、たぶん。実際、飲食店で名前を聞かれて言うと、扱いが違うことも確かにありますしね。長くそういった中で生きているから、それで悩むことはもうないな」 どんな質問をふっても、真っ向からキッパリと返す。その姿はさまざまな難題を抱えながらも、誠実に生きようとする主人公・三上の姿勢に重なるところがある。 映画『64』は改めて佐藤浩市の凄みを感じさせる作品なだけに、すでにあちこちから賞をとるという声が。しかし、当の本人は、どこ吹く風だ。 「よい芝居、悪い芝居というのがあるけど、結局、見る人がその人の芝居を好きか嫌いかなんですよ。今回でいえば、そこに三上という男はちゃんといたよなと思える芝居はしたけど、その結果はみなさんが決めること。普段から、どういうお土産がついてくるかは考えていません」 ではいったい、何に突き動かされてこの道を進むのか。 「自分がいかに大変なことができるかですね。達成感を求めているわけではないけど、大変なことをやる自分がなんか愛おしくもある。これからもその貪欲さは持ち続けていたいですね」 撮影/佐藤靖彦