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『毒島ゆり子』『不機嫌な果実』『コントレール』……春ドラマ、大胆な“不倫ラブシーン”を考察

2016年05月07日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 今期の春ドラマは世情を反映してか、“不倫”をテーマとした色気のある作品が多く、女優たちは競い合うように大胆なラブシーンを披露している。女優魂を感じられる演技の数々には、彼女たちの新境地を垣間見ることも多く、今後の映画・ドラマ界を考えるうえでも注目に値するポイントであることは間違いない。そこで、『毒島ゆり子のせきらら日記』、『僕のヤバイ妻』、『不機嫌な果実』、『コントレール~罪と恋~』の四作品を、特にラブシーンに集中してじっくりと鑑賞してみた。


参考:石田ゆり子、刹那の“キスシーン”に心奪われるワケ 『コントレール』は恋愛ドラマの傑作となるか


 まず最初は、前田敦子主演『毒島ゆり子のせきらら日記』。ご存知、元AKBの不動のセンター前田敦子が、常に二股恋愛をしていないと不安な政治記者、毒島ゆり子を赤裸々に演じている。アイドルがラブシーンに挑戦するという文言だけでも十分に刺激的だが、彼女の演技は筆者の想像をはるかに超えていた。みんなのアイドルだったあっちゃんが毎回躊躇なくキスをしまくり、ガラス越しとはいえ肌を露出し抱き合う姿を見せるのだから、どうして平常心でいられようか。女優志向の強い前田は映画で様々な役を演じているが、ここまで大胆なシーンはなかったと記憶している。しかも、地上波という衝撃。女優として確実にステップアップしていると言って間違いないだろう。毎回、相手役の男性が変わるという点も見逃せない。あっちゃんがまさか!という展開のフルコースに、眠れぬ夜を過ごす人も多いはずだ。「不倫はしない」というルールを掲げているゆり子が、そのルールを自ら破ってしまうほどの男に出逢い、主導権が握られていく様を今後、前田はどう演じきるのか。浮気と本気に揺れる表情と、そのラブシーンの演じ分けにも着目したい。


 『僕のヤバイ妻』では、相武紗季が伊藤英明との不倫関係で濃厚なラブシーンを演じている。2003年のドラマ『WATER BOYS』で女優デビューをして以来、清潔感のあるイメージで多くのドラマやCMに出演してきた相武は、年齢を重ねるごとにドラマ『ブザー・ビート』や『マッサン』などでヒロインをいびる悪女役を演じる事が増えていったが、それでもセクシーなイメージとはほど遠い存在だった。しかし30歳になる2015年に出演したWOWOWのドラマ『硝子の葦~garasu no ashi~』では、ラブホテルのオーナーで夫は母の元愛人という役を熱演。笑顔を封印し、夫役の奥田瑛二や不倫関係にある小沢征悦らとラブシーンにも挑戦して、女優としての幅を拡げた。満を持しての地上波放送となった『僕のヤバイ妻』では、不倫に燃える女の生々しい情念を、その表情だけではなく官能的な仕草でも表現している。今後の展開でラブシーンがどれくらい鑑賞できるかはわからないが、木村佳乃が怪演と呼ぶべき演技を披露しているので、彼女との演技合戦を見ているだけでも、女の恐ろしさを十分に味わうことができるだろう。プライベートでも結婚し、新たな地平に立った相武は、どんな風にその女優人生を突き詰めようとしているのか。本作を観るだけでも、その覚悟が伝わるはずだ。


 今期のドラマでは、『不機嫌な果実』の栗山千明もすごいことになっている。初回からあまりの飛ばしっぷりに、間違って別の映像作品を観ているかと思ったほどだ。同作は林真理子原作の人気不倫小説をドラマ化したもので、1997年にはドラマ版を石田ゆり子、映画版を南果歩が演じて話題となった。当時は渡辺淳一原作『失楽園』もドラマと映画で大ヒットし、「失楽園(する)」という言葉が流行語になるなど、不倫がブームといえる状況になっていた。『不機嫌な果実』は『失楽園』を後追いするかたちで放送されたこともあってか、そのラブシーンは勢い激しさを増し、石田ゆり子が毎週地上波ギリギリの演技を披露していた。


 フワッとしていて清純な雰囲気の石田なだけに、夫とのセックスレスで悶々とする平凡な主婦が不倫に走る姿には生々しさがあり、当時の筆者にとってはかなり衝撃的な内容だった。ラブシーンの妖艶さは、いまでも不倫ドラマで5本の指に入ると言っても過言ではない名作である。あれから19年、再び社会的に不倫が世間を騒がせている中で、主人公の人妻・麻也子を演じるのが栗山千明だったとは、いったい誰が予想しただろうか。清楚なイメージではあるが、石田に比べどこか真の強さを感じさせる栗山が、市原隼人や成宮寛貴といった旬のイケメンたちと交わる様は、石田のラブシーンとはまた異なる背徳感がある。これまでベッドシーンなど想像もしていなかっただけに、余計に“いけないもの”を見ている感覚に陥るのだ。今作には、橋本マナミや高梨臨も参加しており、彼女たちがどうアクションを起こすのかも楽しみだ。


 『不機嫌な果実』を観て石田ゆり子版を懐かしんでいる方には、NHKドラマ10『コントレール~罪と恋~』をぜひ観ていただきたい。『セカンドバージン』の大石静がオリジナル脚本を手がけた本作は、まさかのベストタイミングで石田ゆり子の禁断の恋を描いたドラマだ。栗山千明版の『不機嫌な果実』には馴染めない方も、本作のエロス展開には納得するだろう。映画『悼む人』では暴力的ともいえる性描写に挑戦したふたりだけに、自然と期待も高まる。6年前に無差別殺傷事件で夫を亡くし、忘れ形見の息子を育てながら、カレー食堂を経営している石田ゆり子演じる青木文と、同じ事件で犯人と格闘した際に文の夫を過失で殺してしまい、その衝撃で声を失ってしまった井浦新演じる長部瞭司が、6年の歳月を経て偶然に出逢い、禁断の恋愛に溺れていくという重厚なストーリーが本作のキモだ。


 世間から“かわいそうな未亡人”と見られることから新たな恋もできず、義母には常に心配されて心が休まらない日々を送る文にとって、長部はまさに救世主といえる存在。6年間、人知れず溜めていた情念を一気に解き放つからこそ、そのラブシーンはいよいよ熱を帯びるのだ。NHKだからといって案ずるなかれ、回を追うごとにその激しさは増していき、『不機嫌な果実』に負けずとも劣らない濃密なシーンを繰り広げている。井浦新の声が、行為によって取り戻されていくという設定は不思議だが、それだけ文が魅力的だということだろう。豊潤な大人のエロスを求める方は、本作を見逃す手はない。


 不倫ドラマには、登場人物たちが常識的な判断を捨ててその行為に至るまでの不条理かつ争いがたいエピソードが必要不可欠だ。単純に相手のルックスに恋に落ちたり、性欲に振り回されたりしているだけではないからこそ、物語に深みが増し、倫理を超えた何かを教えてくれるのである。俳優たちのぶつかりあう色気と技術に、ドラマの醍醐味を感じたい。(本 手)