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小田和正などベテラン勢「オールタイムベスト」ヒット続く “一度整理”されたJPOPが向かう先は?

2016年05月06日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

小田和正『あの日 あの時』

参考:2016年4月25日~2016年5月01日のCDシングル週間ランキング(2016年5月9日付・ORICON STYLE)http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2016-05-09/


 サブカル?何それ?おいしいの?


 一言で説明するならばこんな感じの今週のチャート。2PM・SEVENTEENのK-POP勢、 EXILE SHOKICHI ・3 代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEのLDH軍団、GACKT・遊助の「体育会系」感のある男性シンガー、さらには小田和正・氷室京介の大ベテラン組。でんぱ組 .incの最新作と「キンプリ」関連作が「サブカルチャー」の香りをほんのり添えてはいるものの、全体としては「音楽好き」が積極的には話題にしないような(あくまでも感覚的な話なので例外はあると思います)作品がトップ10の大半を占めた。「音楽好き」のファンベースを持ちながらもより広く聴かれるポップスを志向するタイプのミュージシャンは「音楽好きではない人にも届く作品を作りたい」という旨の発言をすることがよくあるが、そのためには今回のチャートに登場しているような「お茶の間レベルで知られている人気者」と同じ土俵で戦わないといけないわけで、なかなか「敵」は手強いということを改めて実感。


(関連:Perfumeの新アルバムはなぜ“稀有な音楽体験”を生むのか レジーの『COSMIC EXPLORER』徹底考察


 さて、今回触れたいのは2位にランクインした小田和正の『あの日 あの時』。前週の初登場1位から今週も2位と好位をキープしたこの作品は、彼にとって「初のALL TIME BEST ALBUM」(公式サイトより)。オフコース時代も含めた43年間のキャリアを完全網羅した3枚組アルバムである。


 「3枚組のオールタイムベスト」という構成で思い出すのが、昨年のチャートで圧倒的な強さを誇った『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』。こちらも「26年に及ぶ活動を総括するベストアルバム」「彼らが在籍した全てのレーベルの枠を越え、代表曲50曲がぎっしり詰まったコンプリートベストとでも言うべき内容」という触れ込みだった。また、少し遡ると、小田と同じ時期にキャリアを積み重ねている山下達郎も、「キャリア初となるレーベルを越えたオールタイム・ベストアルバム」「ソロデビュー前のシュガー・ベイブ時代から今日まで、山下達郎本人セレクトによるオールタイム・ベスト」というコンセプトで2012年に『OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~』をリリースしている(通常盤は3枚組、初回盤のみボーナスディスク付きの4枚組)。さらに、DREAMS COME TRUEと同じ2015年には松田聖子が、山下達郎と同じ2012年には松任谷由実がやはり「3枚組のオールタイムベスト」をリリースしている。


 小田和正、DREAMS COME TRUE、山下達郎、松田聖子、松任谷由実。日本の大衆音楽の一端を長年担ってきた大物たちが、2010年代に入って同じようなフォーマットの作品をリリースしているのはなかなか興味深い。パッケージメディア自体が終わりに近づいていく中での徒花的なもの・・・という意地悪な見方もできるかもしれないが(例えば山下達郎は『OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~』のリリースに関して「パッケージがいよいよなくなるっていう危惧があって、その前にちゃんとしたベストを出しておこうっていうこと」と発言している http://natalie.mu/music/pp/tatsuro02/page/4)、ここから自分が感じるのは「日本のポップミュージックが一つの区切りを迎えつつある」ということである。「全てのアーカイブが時系列関係なくフラットに」「誰もが発信者になり得る」というインターネットがもたらした考え方がいよいよ本格的に浸透してきたのがここ数年の出来事。そんな時代のうねりの中で、ベテランたちは一旦「従来通り」のやり方で自身のキャリア=いわば「日本のポップミュージックの歴史そのもの」をまとめた。このあたりの動きは、今年の1月に放送された『亀田音楽専門学校 シーズン3』(NHK Eテレ)におけるこれまでのJPOPの振り返りや同じく1月に出版された宇野維正『1998年の宇多田ヒカル』など、各方面における「日本の音楽の流れを一度整理してみよう」というムーブメントと通じるものがあるように思える。


 では、「一度整理」したらその後はどうなるか? ここからは「期待を込めて」の話にはなるが、音楽に関わる人の多くが「時代の節目」を感じている今、いよいよ新しいJPOPの形が生まれようとしているのかもしれない。それを提示するのはいまだ誰も知らない若手ミュージシャンなのか、それともこれまでの活動をリセットして自由になった大ベテランか。2016年もあっという間に3分の1が終わってしまったが、「未来につながる兆し」を残りの3分の2で見つけられるといいなと思う。(レジー)