2016年05月06日 10:51 弁護士ドットコム
高価な美容液を勝手に「お取り置き」され、早く買えと催促されているが、どうすればいいのか。Yomiuri Onlineの「発言小町」に、ある女性(トピ主)が相談を寄せました。
某化粧品店で、2万円近い美容液をすすめられたというトピ主。効果もありそうで魅力的ではあったものの、とにかく高くて手が出ません。「ちょっと考えておくわ」と言ったところ、店員に「売れてしまうと困るから」と、「(トピ主のために)お取り置きしておくわね」と言われたそうです。
それからしばらく、店からは何の音沙汰もありませんでしたが、4か月も経ってから突然、「ずっとお取り置きとして、在庫になっています。お買い上げいただかないと困ります」 と、連絡があったそうです。トピ主は、「(お取り置きをすると言われた時)きっぱり断らなかった私も悪かった」と反省しつつも、「季節も変わってしまい、もう、この美容液はほしくありません」といいます。
レスには、「キッパリ断らなかったトピ主が悪い」「買うべき」というコメントが多数見られました。トピ主は、この「勝手に取り置き」された美容液を買わなければならないのでしょうか。中村弘毅弁護士に聞きました。
(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「勝手に『取り置き』にされた化粧品」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0311/754582.htm?g=15)
Q. トピ主が買い取る必要はない
結論から言うと、トピ主さんは美容液を買い取る必要はないと思われます。
今回の相談は、トピ主さんと化粧品店との間で売買契約が成立していたかどうかがポイントです。売買契約は、「(ある物をいくらで)売ります」「(それをその金額で)買います」という双方の意思表示が合致してはじめて成立します。
今回の場合、店員が美容液を勧める過程で「売ります」という意思を表示していたとしても、トピ主さんは「ちょっと考えておく」と返答したのみで、「買います」という意思表示をしたわけではありません。したがって、意思表示の合致はなく、売買契約が成立していないと考えられるため、トピ主さんが買い取る必要はないと言えるのです。
ただ、たしかに、「ちょっと考えておく」という言葉には、「その商品を私のために取って置いてください」というニュアンスが含まれるとも考えられます。仮に、化粧品店の店員がトピ主さんの言葉にそのようなニュアンスが含まれると信じて美容液を取っておいた場合、トピ主さんが美容液を買い取らなかった結果、化粧品店に損害が発生したとして、トピ主さんが商品代金相当の賠償をしなければならないのかも考える必要があります。
今回のケースのようないわゆる「お取り置き」は、場合によっては民法556条1項に定められた「売買の一方の予約」にあたる可能性があります。「売買の一方の予約」とは、売り主もしくは買い主のどちらか一方が、「予約を完結する権利」を持っているということです。
今回の相談に当てはめてみましょう。仮に、トピ主さんが化粧品店に対して「今はお金が足りないけれど、将来的には美容液を買う」という意思を表示した(予約)とすると、その後トピ主さんがお金を用意して「美容液を買います」と言えば、化粧品店が「売る」という意思表示をしなくても売買契約が自動的に成立するということです。
ただし、いつまでに予約を完結する権利を使うか決めていない場合、化粧品店はいつまでも商品を取り置いておかなくてはなりません。
そこで、民法556条2項では、「相当の期間」を定めて、予約を完結するかどうか(今回のケースでは、トピ主が美容液を買い取るかどうか)返事をしろと求めることができるとなっています。そして、その期間内に返答がない場合には予約の効力がなくなります。
今回のケースでは、仮に「売買の一方の予約」にあたるとしても、化粧品店がトピ主さんに対して、「○月×日までに買い取るかどうか返事をしてください」と連絡することで、在庫をかかえてしまうリスクを回避することができ、他の人に販売することもできたわけです。
したがって、化粧品店が損害発生リスクを回避することができたのにしなかったわけですから、トピ主さんには賠償責任もないと思われます。
【取材協力弁護士】
中村 弘毅(なかむら・ひろき)弁護士
つきのみや法律事務所所長 埼玉弁護士会所属
平成27年度埼玉弁護士会消費者問題対策委員会委員長
得意分野は、消費者事件・不動産事件・家事事件(相続・離婚等)全般
事務所名:つきのみや法律事務所
事務所URL:http://tsukinomiya-law.jp/