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CONNECTONEレーベルヘッド 高木亮氏インタビュー「“音楽の匂いが濃い”人に集まってほしい」

2016年05月05日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

CONNECTONEレーベルヘッド 高木亮氏(撮影=竹内洋平)

 音楽文化を取り巻く環境の変化をテーマに、キーパーソンに今後のあり方を聞くインタビューシリーズ。第6回目に登場するのは、ビクターエンタテインメント・CONNECTONEレーベルヘッドの高木亮氏。昨年の立ち上げ以来、同レーベルはRHYMESTERを筆頭に、Awesome City Club、SANABAGUN.、sympathy、ぼくのりりっくのぼうよみと、革新的なアーティストの作品を次々と世に送ってきた。所属アーティスト一同が会する「CONNECTONE NIGHT VOL.1」の開催を5月6日に控える中、レーベル発足からの1年の歩みを振り返ると同時に、ローリング・ストーンズやスマッシング・パンプキンズを手掛けるなど洋楽ディレクターとしても数々の実績を持つ高木氏に、現在の音楽シーンをどう捉え、CONNECTONEをいかに成長させていくかを語ってもらった。(編集部)


(参考:ぼくのりりっくのぼうよみが語る、ネットと音楽のリアル「僕自身すぐにコロコロ変わっちゃう」


・「とにかく新しくて面白いものを」


ーー高木さんがCONNECTONEを立ち上げて1年が経とうとしています。レーベルからRHYMESTER、Awesome City Club、SANABAGUN.、sympathy、ぼくのりりっくのぼうよみがリリース、デビューを果たしましたが、手応えはいかがですか。


高木亮(以下、高木):この1年の自己採点は、50点だなと考えています。少し高めの目標を掲げてはいましたが、数字がそれに達しなかったので。ただ、レーベルイメージをうまく浸透させることができたのは、プラス要素だと思います。メディアでも、CDショップの店頭でも、最近になって“CONNECTONEくくり”みたいなものが成立するようになってきた。まだ入り口ではありますが、ブランディングは強く意識して運営してきたので、レーベルの方向性自体は間違っていないのかなと。


――CONNECTONEの方向性とは。


高木:とにかく新しくて面白いものをやっているレーベルだ、というワクワク感にこだわっています。そういう意味では、Awesome City Club、SANABAGUN.、sympathy、ぼくのりりっくのぼうよみと、音楽的には雑多なんだけれど、いずれも「面白そうだ」という期待感を持たせられる新人が集まってきているのかなと。


――冒頭の“自己採点”に関して、「数字」の部分を厳しく評価されていますね。


高木:CONNECTONEには、CDだけではなくライブやグッズ、ファンクラブなどオールライツにかかわっていくというコンセプトがあります。ただ、そのマネタイズには少し時間がかかる。1年目はどうしても、今のマーケットの中でCDだけのセールスで戦わなければいけなかったので、難しいところはありました。ただ、Awesome City Clubなどは着実にライブの動員も増えてきています。2年目に向けて非常に楽しみなところまでは来ているのかなと思いますね。


――Awesome City Clubは自主企画ライブやクラウドファンディングを使ったCDのリリースを行っており、ぼくりり(ぼくのりりっくのぼうよみ)は地上波のテレビ出演を重ねるなど、さまざまな経路で世の中との接地面を作っているように感じます。プロモーションにおける多チャネル化は、レーベルの方針でもあるのでしょうか。


高木:まずプロモーションにおけるメディア露出への考え方として、レコード会社にいると、どうしてもリリースのタイミングに偏るじゃないですか。これがそもそもの間違いだったと思うんです。リリースを主軸として考えつつも、リリースの間のライブも同等に重要なものとして考え、露出ポイントを出し続けていく――ぼくりりがいい例ですが、昨年12月にリリースしたアルバムが、今もそんなに下がらずに動いていて。先日も『ZIP!』(日本テレビ)に出たんですけど、iTunesの週間アルバムチャートで、また10位まで上がったんです。こういうことをずっと続けていくのが大事なんだなと、あらためて思いますね。


――これまでの一般的な音楽業界の活動サイクルとは異なると?


高木:例えば1年で「2シングル/1アルバム」という典型的なサイクルがあったとすると、12ヵ月のうち6ヵ月だけ働いていればよかったんですよね(笑)。でも僕は、12ヵ月をトータルでしっかり考えていかなければいけないと思う。


――レーベルとしてアーティストにコミットしていく時間も、より長くなりますね。


高木:そうです。事務所さんと同じ目線で考えているつもりだし、そういう体制をより強化していかなければと考えています。


・「レーベルはセクシーでなければいけない」


――今回は高木さんご自身のキャリアも含め、業界の動向について伺っていきたいと思います。私が高木さんと初めてお会いした90年代後半はヴァージン・レコードのご担当で、まだ洋楽も元気な時代でした。


高木:いま振り返ると、CONNECTONEのブランディングの源泉は、ヴァージンから来ている部分が大きいと思います。創業者のリチャード・ブランソンという天才がいて、ヴァージンに対してものすごいプライドを持っている。そのスピリッツを受け継いで、常に尖っていないといけない、と思ってきたんです。国際会議に出ると、真顔で「レーベルというものはセクシーでなければいけない」なんて演説する幹部もいて、それがすごくカッコよかった。だから、自分でレーベルをやるときには、そういうものを大事にしたいなと。


―― 邦楽に移られたときも、ヴァージンのあり方を意識したと。


高木:そうですね。邦楽はあらためて勉強しなければならなかったので、自分のカラーを出すにはちょっと時間がかかりましたが、僕らは音楽を発信するうえで、いちばん川上にいるわけじゃないですか。そこがホットポイントになっていないと、世の中にワクワク感が伝わるわけがない。今回の新レーベルでも、それは最も大事にしたところですね。


――その“ワクワク感”というものを、もう少し掘り下げると?


高木:アーティストもスタッフも熱くて、「お前ら、これを聴けよ!」とシンプルに断言したものが広がっていく……というのが、音楽のいちばん幸せな伝わり方だと思うんですよ。特にレコード会社は、“仕掛けて売る”ということを覚えちゃったから、熱の部分が薄れていたかもしれない。いまはそういう売り方もなかなか通用しなくなってきていて、なおさら源流が強かったり、熱かったりしないと、伝わっていかないだろうという思いはありますね。


――特に2000年代に入ってから、“源流”はメジャーレーベルだけでなく、ネットも含め点在するようになります。それに伴い、どこに熱があるのかを見定めるのが難しい状況も生じました。


高木:メジャーとは何なのか、という問いは本当に難しいですね。小さいインディーレーベルも含めて、僕個人は本当に変わらなくなっているなと思います。物理的には、全員が同じことができるようになっている。メジャーは図体がデカいぶん、資金力やスタッフ力は多少大きいと思うけれど、それがそのままメジャーのメリットとは言いがたくて。僕はインディーズでもいいかな、くらいに思っているし、先ほどから申し上げているスピリットだったり、音源のクオリティだったりがあれば、何とか世の中に発信できると考えています。


――その中で、CONNECTONEはメジャーレーベルとしてスタートしました。スピリットやクオリティを維持しつつ、いかにビジネスとしても成立させるかという課題もあるのでは。


高木:答えになるかわからないですけど、僕がレーベルの立ち上げに際してスタッフに声をかける上で、“レコード会社の人間として優秀じゃなくてもいいや”と考えたんですよ(笑)。ある種、デタラメなヤツでいいから、本当に音楽に対するパッションやセンスを持っていることを重視したんです。協力していただく外部の方も含めて、いわば“音楽の匂いが濃い”人を集めていて。イメージとしては、音楽が本当に好きな若いヤツらが常に10人、20人とウロチョロしているサロンというか、そういう場が作れたら最高だろうなと思っています。


――そういう場を作り、発展させていくというお立場ですね。


高木:僕もいい年になってきたし、音楽業界全体にもすごく関心を持っていて。やっぱり、自分は音楽で人生を変えられたし、それが実りの多いものになっているという実感もあるんです。だから、音楽そのものだったり、音楽業界に夢を持てるような環境にはしたいですよね。その一助になりたいし、CONNECTONEがそういう音楽のメッカみたいなところを打ち出せたらいいのかなと思います。ビジネスとしては、新しい時代の正しいモデルを誰も発明できていないし、試行錯誤の連続だとは思いますけど、硬直化しているより、こういう時代のほうが面白いですね。


――高木さんは、音楽産業にとって1950年代から2000年代くらいが幸福な時期だったと発言されていますが、それが変わりつつあると感じたのはいつごろですか?


高木:数字的には98年がピークだと言われますよね。でも、本格的に“音源が売れなくなった”と実感したのって、この3年くらいなんですよ。“ああ、本当に音楽を買わない文化ができているな”と。ただ、この50年、60年というのがバブルだったんだ、と考えたほうがヘルシーだし、そういう前提に立つと焦るようなことでもなんでもなくて。そもそも、音楽って宙を舞っている空気の振動なわけだし、それを無理やりパッケージとして固定する文化自体が、ある種フリーキーなことだったと思えば、悲観する要素はない(笑)。音楽の楽しみ方がライブに立ち返ったと考えたほうが健全かもしれないな、と思ったんです。もっと言うと、“完パケってなんだろう?”と。納期だったりバジェットだったり、リミットがあるなかでできたものが完パケで、奇跡的に100点満点以上だと思えるような原盤もあるとは思うけれど、100点をつけられる人って意外と少ないと思うんですよ。


――ちょっと心残りがあるかもしれないですね。


高木:そうなんですよ。楽曲って、5年10年かけて練り上げられていく側面もあるわけじゃないですか。そういう意味では、音源が売れなくなって、音楽の送り出し方をいろいろと考える必要性が出てきたのが、かえって面白いなと。それに、これまでの音源文化はハードに引っ張られていて、例えば“尺”の制約があったりしました。そこから自由になっていいんだし、Awesome City Clubなんかはシングルとアルバムに分けないで、ミニアルバムサイズのものを年に2枚、という形でやっていて。クラウドファンディングというまた別のコンテンツの出し方もあるし、もっとワクワクする方法を試していきたいですね。


――海外、とりわけ英語圏のマーケットへの進出については、どうお考えでしょうか。


高木:僕は前の会社でMIYAVIを一生懸命やっていたんですけど、やっぱり日本のミュージックマンとしては、海外で大儲けできるアーティストを作りたい、という思いはありますね。実際、10年前に比べてリアリティが出てきているところもあって。当時からMIYAVIも海外でコンスタントに利益を出していたし、デビュー間もないぼくりりに早くも中国からライブのオファーがあったり。うちで言ったらSANABAGUN.なんか、言葉の壁を飛び越えて、演奏力だけでアピールできるところもありそうです。ただ“英語で歌いましょう”というところではなくて、まずは日本人を熱くしなければいけないですけどね。グラミーを獲るレベルまでいくには時間も運も必要ですが、いろいろとトライはしていきたいなと。


・「CONNECTONEという言葉を広げていきたい」


――ここ数年、実際にいろいろな形でチャレンジされていますね。ビクターに移籍されてしばらく経ちますが、外から見ていたイメージと、今のイメージは変わりましたか?


高木:もともと音楽好きの多い会社だと思っていて、そのイメージはそんなにずれていなかったですね。そういう意味では、僕が長年いた東芝EMIに近いと思う。すごく音楽の臭いがする会社だし、今の環境はありがたいなと思っています。チャレンジという意味では、うちの経営者の斉藤(正明)が、やっぱり攻めの人なんですよ。新しいことをガンガンやっていくために僕が呼ばれたというのもあるだろうし、このご時世に、まだアーティストを増やせ増やせと言いますから。スタッフは大変だけれど、今年も2アーティスト、3アーティストくらいは増やそうと思っています。


――高木さんのEMI時代のお仕事で言えば「EMI ROCKS」があり、つまりレーベルのフェスの先駆けとなりました。5月6日に「CONNECTONE NIGHT VOL.1」が開催されますが、当時の経験はやはり生きていますか。


高木:そうですね。ブランディングという意味で、「EMI ROCKS」は大正解だったし、当時ロックにおいてはソニーやビクターと団子状態だったなかで、いろいろな付加価値ができたと思うんです。そういうお祭りの空気感を伝えていくことは大事ですからね。ビクターはビクターで、会社として「ビクターロック祭り」をやっているので、そことの棲み分けも考えつつ、毎年やれる形にしていきたいなと思います。


――日本の音楽シーンを考えると、一定のファンはつかむものの、そこから先の大ブレイクが少ないというのが、ここ数年の傾向だと思います。シーンがタコツボ化しているという点についてはいかがでしょうか。


高木:タコツボ的に3万枚が300作品できたら、それはそれで幸せだし、もちろん最初は小さい数字から始まると思います。それでも我々としては最終的にメガセールスを目指したいと思っていますよ。そのためには、すごく逆張りというか、いまのシーンにない何かを強く提案できなければいけない。そういう意味では、僕らみたいに新しいことをやろうとしているチームが、本当に新しい音楽を提案できたら、ブレイクスルーできるチャンスはあると思う。例えばぼくりりなんかは、本当にすごい才能と出会えたと思っているし、今年、来年で音楽シーンをちょっと変えてやるぜ、くらいのことは思っています。


――最後にあらためて、今後はレーベルとしてどんなところに力を入れていきますか。


高木:RHYMESTERを含めて5アーティスト、すごく面白い才能と出会えたので、まずはそれぞれをいまのステージよりひとつ上のステージに上げることが大事だと思います。そして、新人アーティストも増やして、CONNECTONEという言葉を広げていきたい。1年目にやってきたこととそんなに変わらないですね。最終的には自分たちでライブスペースを持つとか、もう少し大きなステップに進むために、着実にスケールアップさせる、というのが等身大のところでしょうか。CONNECTONE NIGHTはわりと胸を張って「面白いから遊びに来てよ」と言えるし、どんどん、どんどん、次の才能や面白い業界人が集まってくれたらいいですね。(取材=神谷弘一/構成=橋川良寛)