ロシアGPの予選で、メルセデスはルイス・ハミルトンのパワーユニットにトラブルを発生させてしまった。ロシアGPから投入したトークンを使用した燃料システムはスペアがなかったため、通常のパワーユニット交換をすると、ハミルトンのマシンは予選と別スペックとなり、ピットレーンからのスタートとなってしまう。
チームはハミルトンを10番手からスタートさせるため、イギリスのファクトリーから新しい燃料システムを空輸する決断を下した。イギリスとソチを結ぶ一般の航空路線はなく、すでにロンドンからソチにチャーター機を飛ばす予定となっている企業にコンタクトを取り、空いている席を買ったという。その額は一説によると片道43000ドル(約460万円)だったと言われている。メルセデスだからこそ、できた決断だった。
前述のとおり、イギリスとソチを結ぶ航空路線はない。一般の航空会社を利用してソチへ向かうには、イスタンブール発ソチ行きのトルコ航空に乗るか、モスクワ経由でアエロフロート、またはS7航空でソチ入りするしかない。それで乗り継いで行くと最短でも約8時間、接続便によっては12時間、丸一日かかるようなスケジュールとなることもある。ソチ到着が深夜になる場合もあり、体力的につらい。イギリスには多くのファクトリーがあり、大勢のメカニックやエンジニアが移動するには一般のフライトは不便なのだ。そのためイギリスにはF1を専門とする旅行代理店があり、いくつかのグランプリではチャーター機を飛ばしている。今回のロシアGPも、そうだった。
トラベルプレイスと呼ばれる旅行代理店がロシアGPのためにチャーターした飛行機は全部で4機。ガレージなどを設営する前入り部隊用に1機、マシンを組み立てるメカニックなどレース部隊用に2機、グランプリ前々日に現地入りするエンジニア用に1機という具合だった。このチャーター機は基本的にF1チーム専用だが、空きがあれば、イギリスのメディアも利用できる。あるイギリス人カメラマンによれば、費用は約700ポンド(約10万円)というから、一般の航空券(約400ポンド)と比べて、法外に高くはない。
レース翌日の月曜日、午前9時ソチ発のチャーター機を利用したウイリアムズの白幡勝広メカニックによれば、飛行機はロシアに本社を置くバーゼル・エアロ社のチャーター機で、キャビンアテンダントも同乗、機内食もあり、ほとんど一般の飛行機と同じ雰囲気だという。唯一違うのは乗客が全員F1関係者で、乗った瞬間にコンピュータを開くか、熟睡ムードになって、まったく旅行気分が漂っていないことだとか。
以下は、白幡メカニック撮影の写真を提供いただいた。