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「ポストロック×アイドル×ジュブナイル」は何を生み出す? sora tob sakanaサウンドプロデューサー・照井順政に訊く

2016年05月05日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

sora tob sakana。

 株式会社Zi:zooが手掛けているアイドル育成プロジェクト「ふらっぺidolぷろじぇくと」。sora tob sakana(そらとぶさかな。愛称はオサカナ)は、 このプロジェクトから選出された、芸能事務所・テアトルアカデミーに所属する女子中高生4人グループだ。2014年7月に結成され、ASOBISYSTEMとアイドル横丁によって新設されたアイドルレーベル<フジヤマプロジェクトジャパン>より、2枚のシングルをリリースしている。


 サウンドプロデュースを行っているのは、ロックバンド・ハイスイノナサの照井順政。楽曲は、ハイスイノナサと同じく、ポストロックやエレクトロニカなサウンドが特徴的だ。歌詞世界は独特で、少年少女の抱える葛藤や後悔について触れられることが多く、ノスタルジックで切ない世界観が描かれている。メジャー、インディーズを問わず、アイドルシーンにおいてかなり異色かつハイレベルな楽曲クオリティーを維持できている、稀有な存在だ。


 今回はそんなsora tob sakanaのサウンドプロデューサー・照井氏に、グループのプロデュースや目標、表現したいことなどについて、話を訊いた。(岡島紳士)


・ポストロックではなく「ノスタルジーなもの」をやろうと思った


--クリエティブ面に関してはどこまで関わっているんですか?


照井:まず、ユニット名は事務所が付けたもので、僕はサウンドプロデューサーとしてお手伝いするところからスタートしました。ただ、現在は音楽だけではなく、衣装や振り付け、ミュージックビデオの制作など、クリエティブ全般にも関わっています。チームに加わったのが途中からなので、別の方が提供したオリジナル1曲目「DASH!!!!」の方向性からいきなりバキッと変えるのではなく、徐々に今の方向性にシフトチェンジしていて、今は好きにやらせて貰ってます。


--ユニットの元々のコンセプトはどういうものだったんですか?


照井:当初からはっきりしたものはなくて。「未完成が完成に向かって空に飛び立っていけるように、成長して行く姿を見て欲しい」っていう、アイドルとしてはありがちなものくらいで。僕が入った時点からユニットのカラーを固めて行こう、という方針でした。Zi:zooさんから「ポストロックアイドルをやりたい」、ということで呼ばれたんですけど、僕はtoe(2000年結成のポストロックバンド)以降のポストロックをそのままアイドルと組み合わせても単純に食い合わせが悪いだろうと思っていて。1回聴いただけで口ずさめないし、変拍子は難しいし、踊れないし。だから僕はそのままの「ポストロックアイドル」をやる気はあまりなくて。低年齢のアイドルなら「ノスタルジーなもの」をやろうと思ったんですよ。


--「ポストロック」とは具体的にどういう音楽なんでしょうか?


照井:元々はロックに対するカウンターとして始まったものです。最初のうちは「エレキギター、ドラム、ベースを使うロックバンドの形態だけど、ロックっぽい音楽をやらない音楽」のことでした。ただジャンルって、どんどん形骸化していくもので。今のポストロックは、変拍子があって、楽器が細かいフレーズを弾いていて、派手な音をあまり入れず、比較的淡々と進む、という感じが一つの主流です。インストも多くて、匿名性は高いというのも特徴かもしれません。


--そのなかでノスタルジーをどう表現しようとしましたか。


照井:よく2ちゃんねるに「ノスタルジーな画像スレ」みたいなのがあるんですよ。青空と田舎と校舎と、みたいな。イラストレーターのたかみちさんみたいな世界観。僕はそこに一定の需要があるとずっと思っていて。特にアイドル好きに対して、その世界観と低年齢のアイドルの組み合わせは響くのかもしれないと感じたし、僕自身はエレクトロニカにも影響を受けているので、どちらかというと、ポストロックよりもこの子たちにはそのほうが合うのかもと思いました。ジブリっぽいノスタルジックな感じを基本に置きつつ、尖らせているようなイメージですね。


--その他にはどういったことに関わっていますか?


照井:ミュージックビデオは事前の打ち合わせから参加します。でも映像のことは監督におまかせして、僕はアイディアを出して、話し合いながら落とし込んでいく形ですね。定期公演でバックに流している映像は、フジヤマプロジェクトジャパンから紹介して頂いたTONTONさんという方が作ってくれたものです。彼は、ファッションパーティー「GIRLS AWARD」できゃりーきゃりーぱみゅぱみゅさんやでんぱ組.incさん、乃木坂46さんのVJをしている方なんです。あと、関わっていることは、最近なくなりましたが、ずっとオサカナの現場に通って、物販を手伝ったりチェキを撮ったりしてました。


・事務所に残響レコードファンがいて、「ポストロック×アイドル」を提案された


--sora tob sakanaに関わることになった経緯を教えて貰えますか?


照井:僕はハイスイノナサというバンドをやってて、ポストロックをやっているアーティストが集まる<残響レコード>に所属しています。Zi:zooに<残響レコードファン>の方がいて、「ポストロックとアイドルを組み合わせたものをやってみたい」という構想がずっとあったそうです。Zi:zooさんと最初に仕事をしたのは4、5年前で、PIECEというグループの楽曲提供でした。ほどなくして解散してしまうんですけど、2014年3月にはミニアルバムが発売されています。PIECEはメンバーも大人だったし、歌詞も自由な感じでした。オサカナは2014年7月結成なんですけど、僕が関わったのは結成からではなく、オリジナルの2曲目「クラウチングスタート」からです。発表は2015年の1月くらいだったかと。


--ハイスイノナサとオサカナの音楽の違いって何でしょうか?


照井:ハイスイノナサはボーカルが特徴的で、感情を排除して、音楽に奉仕するというか、歌い手としての欲求や人間っぽさみたいなものは基本的には出さないで、作品としてもいいものを出す、というスタンスです。でも、僕は歌ものも大好きで、「そういうものを書いても結構いいものは作れるのにな」という気持ちがあったんですね。思いっきりそういうことをやれる場所を作りたいなとずっと思っていて。それがオサカナである程度できています。あと歌詞をもっと具体的な内容にして、「弾き語りで聴いてもいい」っていう曲を作りたかった。


--もともとアイドルに興味はあったんですか?


照井:人並ですね。日本の音楽チャートに興味がなかったので。僕は1984年生まれなんですけど、鈴木亜美くらいですね、アイドルで好きだったのは。CDを借りて聴いて、ギターでコピーしたりしてました。


--実際アルドルに関わることになり、カルチャーショックもあったのでは?


照井:とりあえずライブが多いですよね。1日で3現場あるとか。あれはバンドにはないので。特典会も長いなって。「ライブには間に合わないから、特典会から行く」とか。その考え方には驚きました。あと、お客さんとの関係も強いなと。MIX(客が曲中に入れるコールの一種)によって曲自体の盛り上がりが変わったり。


・「少年期やジュブナイル的なものを描いたら絶対負けない」という思いがあった


--歌詞についてですが、「いつかまた悲しい気持ちに なっても大丈夫 魔法の言葉 君を思い出すから」(魔法の言葉)、「正しさを計る大人を疑って 笑ってたあの子に言えなかった言葉」(My notes)など、思春期の頃の後悔や不安などについて書かれていることが多いですよね。実際、少年時代に何かあったんでしょうか?


照井:そうですね。小学校のときに何人かでいたずらをして、怒られたことがあって。僕も関わってたんですけど、当時は僕と数人だけバレておらず、怒られなかったんです。その時に名乗り出れなかった後悔もありますし、縄跳びを飛んでたときに、 縄が飛んでっちゃって、友達の目に当たっちゃって。それがそこそこの傷になっちゃって。でも彼は「自分でやったんです」って言ってて。今思えばめっちゃ男気あるやつなんですけど。でもオレは怖くて何も言えなくて。そういうすれ違いとか、あの頃はいっぱいあったと思うんです。あとは音楽性との兼ね合いが大きいですね。ポップでハッピーな曲を書いてれば、こういう歌詞にはなってないと思うんですけどね。


--少年期やジュブナイル的なものに対してすごい執着があるんでしょうか?


照井:すごい好きなんです。そこを描いたら絶対負けないぞ、という思いがあったんです。ハイスイノナサでもちょいちょいそういう曲はあったんですけど、やっぱりバンドのイメージがあって振り切れないものがあったんで。


--影響を受けた作品はありますか?


照井:大槻ケンヂさんの「グミ・チョコレート・パイン」や、マンガでいうと松本大洋さん、五十嵐大介さんの作品。音楽家でいうと高木正勝さんが扱う子供や自然といった題材も好きです。あと、建築が好き。中でも廃墟が好きなんですけど、残されたものに宿っているものとか、かつてそこに何かがあったとか。いろいろ想像できるところが好きですね。


・メンバーは音楽的な文脈を知らない。だからこそフラットに曲を聴ける


--4人のメンバーの特徴を教えて貰えますか?


照井:ショートのふうちゃん(神﨑風花。14歳・中3)は本質的には他人に無関心なんですよ。でもステージ上の表現力が高くて、歌も安定感があって。一番快活に人と話せる優等生で、全てのスペックが高いです。最年少のまなちゃん(山崎愛。12歳・中1)は頭もいいし、運動もできて、明るくって、男っぽい。常に何かを食べてます。あと本が好きで、1日1冊くらい、主に児童文学を読んでるとか。最年長のなっちゃん(寺口夏花。15歳・高1)は、一番オタク気質で、アイドルも結構好き。特にバンドじゃないもん!さん、妄想キャリブレーションさん。ネガティブで怠け者っぽいところがあるんですけど、どうしても本質的には悪い子にはなれない。最年長なのに見た目は一番幼いですが、実は色々考えている。れいちゃん(風間玲マライカ。14歳・中3)は中2病真っ盛りで、反抗期。何に対しても攻撃的だったり、「宇宙の果てはどうなってるんですか?」って聞いてきたり、アーティスティックではあります。歌が上手くて声がいい。ゲスの極み乙女。や[Alexandros]、水曜日のカンパネラといったアーティストが好きです。みんな元々、というか今も芸能事務所のテアトルアカデミーに所属しているので、アイドル志望でこの世界に入って来たわけではないのが特徴です。


--メンバーは曲に対してどういう反応を?


照井:意外と褒めてくれますね。曲が難解でイヤだっていうよりは「他のアイドルさんと違って嬉しい」とか、「そういうところがカッコイと思う」って言ってくれるんで。


--「広告の街」とか、言葉が一音一音パート分けされてる箇所があって、かなり難しそうですよね。


照井:もうメンバーは慣れちゃってますね。本人たちが音楽的な文脈を知らないからこそ、普通にそのままやってるというか、フラットに聴いてるんですよ。「ちょっと難しいけど頑張ります!」みたいなノリで。


「小さいパイを取り合っている感じがする」


--歌詞については質問されますか?
照井:思ったより触れてくれなくて寂しいですね。あっけらかんと歌う良さもあるとは思うので、今まではわりと放っておいたんですけど。ただそのギャップが売りにできるのは1年2年だと思うので。今後は細かく説明しようかなと思ってます。でも言わなくても、みんな考えてるとは思うんですけどね。


--メンバーに対して気をつけていることはありますか?


照井:すごい素朴な疑問とかを投げられたとき、適当に答えないようにすること、ですかね。自分が子どものころ、大人が表面上の態度で接して来たのが分かっていたので、「数学がなんの役に立つのか」って聞かれたら、「試験でいい点取るためだよ」ということではなく、「思考の訓練をするためだよ」みたいな感じで答えています。それと、アイドルやアニメのキャラに属性をつけて「赤の子はこう、青の子はこう」って記号化して消費するのがイヤだなと思っているので、それはしないようにと考えています。エンタメとしては必要なこととは思うんですけど、無理にキャラづけせず、ライブのMCもなるべくコントロールしないという方向です。


--グループとして今後目指すことを教えて下さい。


照井:「記号化しない」ことですね。それはもしかしたら、アイドルとして矛盾してるところもあるかもしれませんが、だからといって“アーティスト”だと位置づけるわけでもなくて。この年齢のこの4人がいて、そこに自分の音楽性を組み合わせた場合の一番いい形を探したいんです。最初のうちは「アイドル」を意識していたんですけど、そこにはこだわらなくてもいいかと思いましたし、今のアイドルシーン自体に少し閉塞感があるなと。いわゆる「楽曲派のアイドルシーン」って、もうパイの大きさが決まってて、その中でグルグル回してる感じがする。やっぱそれじゃあ面白くないし、好きであろう人にだけ見せてるだけじゃ広がらないから。売れてるアイドルとも、楽曲派といわれてるアイドルとも違うことをしたいなと。音楽的にはもっと振り幅をつけたいですね。ライブで盛り上がる曲だったり。普通に音楽シーン全体の中で評価をされたいなと思います。(岡島紳士)