トップへ

BiSH、図抜けた快進撃の理由ーー柴那典が“楽器を持たないパンクバンド”の音楽性を紐解く

2016年05月04日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BiSH。

 「楽器を持たないパンクバンド」BiSHが、5月4日にシングル「DEADMAN」でメジャーデビューを果たす。


 正直、彼女たちを巡る状況は予想以上のものだ。昨年5月にインディーズからリリースされた1stアルバム『Brand-new idol SHiT』はオリコン20位。1stシングル『OTNK』はオリコン10位。ツアーはすべて即日完売。今年初頭に行われたリキッドルームのワンマンライブでメジャーデビューを発表した後も動員を倍々ゲームで増やしてきている。多様化と細分化が進む今のアイドルシーンの中でも図抜けた快進撃だ。


 なぜBiSHはここまで着実なステップアップを果たしているのだろうか?


 もちろん当初から注目は高かった。渡辺淳之介(マネージャー)と松隈ケンタ(サウンドプロデューサー)の二人が、数々の破天荒な伝説を残して解散したアイドルグループBiSを「もう一度始める」とスタートしたプロジェクトである。ただ、フタを開けてみたら、明らかに違うのはメンバーの歌唱力だった。ハスキーで力のこもった歌声を持つアイナ・ジ・エンドを筆頭に、歌にエモーションを乗せて伝えることのできる面々が揃っていた。だからこそ、楽曲の持つ情熱がストレートに広がっていったのだろう。スキャンダラスな話題性が先行していたBiSに対し、音楽そのものの魅力が伝播力を持って広まっていったのだ。


 そして『DEADMAN』は、そんなBiSHの状況をさらに推し進めるだろう“本気”の一枚だ。表題曲は99秒で駆け抜けるパンクナンバー。それも、70年代UKのオリジナル・パンクを彷彿とさせる曲調である。


 2ビートの前のめりなリズムに乗せて、「ピストルなんかいらない 感情だけで揺らしたい」と歪んだシャウトが繰り出される。サビも1回であっという間に終わってしまう。


 マスタリングにセックス・ピストルズ『勝手にしやがれ』のリマスタリングや、ザ・クラッシュ『ロンドン・コーリング』を手掛けたエンジニア、ティム・ヤングを起用したことからも、サウンドのイメージに70年代UKパンクがあることは明らかだ。が、個人的に感じたのは、ピストルズの無頼さやクラッシュの実直さよりも、ダムドのスピード感。パブ・ロックの性急さに通じるところもある。


 カップリングの「earth」もかなり衝撃的だ。作曲は小室哲哉。しかし彼の代名詞でもあるシンセサウンドは一切使われていない。やはり疾走感あるパンク・ロック。アレンジは松隈ケンタ率いるSCRAMBLESが手掛け、松隈自身のギターサウンドが全面的にフィーチャーされている。その上で〈朝が来ても 昼が来ても 私 夜が来ても 夜中来ても震える〉と、焦燥の塊のようなメロディをひたすら繰り返す。かなりの切迫感に満ちた楽曲になっている。


 シングルの初回限定盤には前述のリキッドルームでのライブ映像を収録したDVDも同梱される。それを観ても改めて感じるのは、BiSHの楽曲の魅力の根源には、やはり「切迫感」と「エモさ」があるということだ。


 90年代のオルタナティヴ・ロックを基盤に、メロコアやメタルなど様々なフレーバーを加えた幅広い曲調を歌いこなしてきた彼女たち。そして、多くの曲でポイントになってきたのは、胸をかきむしるようなメロディラインだった。


 その象徴となったのが代表曲「BiSH –星が瞬く夜に-」。オーバードライブ・ギターを重ねた分厚いサウンドに、シンガロングできるフックの強い歌が乗る。強い推進力を持ったナンバーだ。


 ギターサウンドということで言えば「スパーク」もBiSHの個性を象徴する一曲になっている。BPMは速くないが、むしろ抑えたテンポだからこそ叙情性が伝わってくる一曲。初期スーパーカー、つまりはジーザス・アンド・メリーチェーンやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインあたりを彷彿とさせるギターサウンドの壁がある。


 「デパーチャーズ」も見逃せない。この曲が匂わせるのはミッシェル・ガン・エレファント。ガレージやパブ・ロックを下敷きにしたであろうこの曲は『チキン・ゾンビーズ』や『ギヤ・ブルーズ』のあたりの彼らに通じる刹那的で乾いた悲しみを感じさせる。


 一方「MONSTERS」はメタルコア。プログラミングされたビートの上でレイヴ・シンセとハイゲインなギターが扇情的に鳴り響く。


 ミドルテンポの抑えたテンションからスピードアップして情熱的に終わる「ALL YOU NEED IS LOVE」もいい。この曲が踏まえているのはメロコアだが、西海岸のカラッとしたサウンドではなく、日本らしいウェットな情緒が宿っている。筆者が思い起こしたのはハスキング・ビーあたりの感じ。


 こうして楽曲を分析していくと改めて気付くのだが、「楽器を持たないパンクバンド」を標榜しながら、BiSHはあえてガールズパンクの文脈には乗っていない。少年ナイフやロリータ18号のあっけらかんとした骨太さの系譜に通じるものは感じとれない。そこもポイントだと思う。


 パンクが持っている刹那的なロマンティシズムと、その裏側にある「悲しみ」。そういうものを抽出する松隈ケンタのソングライティングと、それを解像度高く表現するメンバーの歌声。それがBiSHの魅力の本質的なところにあるのだと思う。


 この先が楽しみだ。(柴 那典)