2016年05月04日 08:51 弁護士ドットコム
「いきなりセクハラされてかなり憂鬱な社会生活を送りそうな予感」。新入社員とみられる女性が投稿した、「セクハラと女性差別だらけ」の新入社員歓迎会がネットで話題になっている。
【関連記事:ビジネスホテルの「1人部屋」を「ラブホ」代わりに――カップルが使うのは違法?】
記事は4月7日にはてな匿名ダイアリーに投稿された。これによると、女性は先輩社員に「女の子たちはこっちこっち」と呼ばれ、「腹がキツそうな」専務の前の席に座らされ、焼酎を作るよう指示されたという。また、集合写真を撮る際も「女性はこっち」と、専務の側に近寄るよう言われたそうだ。
女性はこのときの気分を「なんで自分がオッサンに酒作ってやんなきゃならんの?」「ジジイどもが会社の金でキャバクラ気分味わってるだけじゃね?」と表現し、「同じことされたらセクハラで訴えて辞めたい」とつづっている。
ネットでは、「普通じゃん」「仕事だと思ってあきらめな」という声がある一方、「こういう職場まだあるのか。昭和かよ」と批判する意見もある。今回のような体験談は、セクハラに該当するのだろうか。古金千明弁護士に聞いた。
職場で行われる、労働者の意に反した「性的な言動」に起因するものはセクハラになります。不必要かつ過度な身体への接触や性的関係の強要などは、原則セクハラです。性的な冗談、食事やデートに執拗に誘うといった、言葉によるセクハラもあります。
会社には職場環境配慮義務の一環として、セクハラを予防し、セクハラが発生した場合には適切に対応する義務があります。また、男女雇用機会均等法や「セクハラ指針」によって、セクハラ問題に対応すべき法律上の義務も負っています。
ただし、実際にセクハラに該当するか否かの判断は、ケースバイケースです。平均的な労働者の感じ方(主観)を踏まえ、一定の客観的な事実関係に基づいて判断されます。たとえば、意に反する性的な苦痛を伴う身体的接触の場合は、1回でもセクハラになる場合が多いでしょう。食事に誘うことは、1回だけではなかなか該当しないと思われますが、何度も断られているのにしつこく誘うとセクハラになり得ます。
セクハラによって労働者の人格権が侵害されたといえる場合、そのセクハラは民事上の「不法行為」となり、「損害賠償義務」が発生することになります。また、内容によっては「強制わいせつ罪」などの犯罪になる場合もあります。
今回の事案では、新入社員歓迎会でお酒をつがせたり、集合写真の際、役員の近くに来させたりしたことが問題とされています。確かに、女性の新入社員にとって「おじさん」の役員にお酒をついだり、そばに行ったりすることは、「キモい」と感じることもあるかもしれません。
しかし、飲み会の都度、同じ役員にお酌を強要されるなどの事情があったわけではありません。今回はたまたま、その席上だけで頼まれたにすぎません。そうなると、労働者の意に反する「性的な言動」とは言いがたく、セクハラとまでは言えないと判断される可能性が高いでしょう。
他方で、女性社員が明確に「拒否」しているにもかかわらず、役員へのお酌を無理強いしたり、嫌がる女性社員の手を引っ張って役員の隣に連れて行ったりすれば、1回だけでもセクハラになる可能性があるでしょう。
また、仮にこの役員が女性社員の腰に手を回していたり、キスしたりしていたら、原則としてセクハラになります。この場合、民事上の「不法行為」になる可能性が高いでしょう。
さらに、嫌がる女性社員に無理矢理キスした場合は、「強制わいせつ罪」が成立することもありえます。不法行為や刑事事件が成立するような職場のセクハラ事案では、セクハラをした本人のみならず、使用者である会社も責任を負うことがあります。
セクハラに対する世間の目は非常に厳しくなってきています。労働局に寄せられたセクハラの相談件数も、この9年間は、年間1万件前後と高い水準にあります。セクハラが原因で懲戒解雇される、場合によっては刑事事件となり報道されるということも少なくありません。
セクハラは、被害者に多大な精神的苦痛を与えてしまうものです。また、加害者も懲戒の対象となったり、民事・刑事の責任を負ったりすることもあります。お酒の場であっても、勢いに任せてセクハラをしてしまうと、自分の会社員人生を棒に振ることにもなりかねませんので、くれぐれも注意された方がよいでしょう。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
「天水綜合法律事務所」代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は、企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。
事務所名:天水綜合法律事務所