2016年05月01日 08:11 弁護士ドットコム
著作権者の許可なしにアップロードされたアニメや映画などの動画を紹介する「リーチサイト」を排除するため、政府が著作権法の見直しを検討する方針を固めたと報じられた。
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読売新聞によると、リーチサイトの取り締まり基準を設け、悪質な運営業者の摘発のほか、サイトの強制閉鎖や、検索エンジンの表示停止を行いやすくする方針だという。具体的には「営利目的で大量の違法コピーにリンクを張っている」「警告しても違法コピーの紹介をやめない」などの条件を定め、悪質と判断されればサイトを取り締まれるようにするという。
リーチサイトとは、どのようなサイトなのか。これまでの法律では、リーチサイトを取り締まることは困難だったのだろうか。著作権の問題に詳しい井奈波朋子弁護士に聞いた。
「リーチサイトの特徴は、主に次の3点です。
(1)消費者を違法コンテンツに誘導するサイトである
(2)そのために別のサイトにアップロードされた違法コンテンツのリンクを集めて掲載している
(3)リーチサイト自体には違法コンテンツを掲載していない」
井奈波弁護士はこのように述べる。では、現在の著作権法でリーチサイトを取り締まることは困難なのか。
「違法コンテンツにアクセスしたいと考える消費者は、リーチサイトにアクセスし、リーチサイトからのリンクによって、目的とするコンテンツを違法に保存した別のサイトから、コンテンツをダウンロードしたり、ストリーミングによって視聴することができます。その意味では、明らかに著作権侵害を助長しているといえます。
しかし、リーチサイトは、違法コンテンツを保存しているのではなく、また、違法コンテンツの送信もしていません。単に、リンクを張ってコンテンツのある場所を示しているだけです。
つまり、リーチサイトは直接、複製権侵害や公衆送信権、送信可能化権侵害を行っているわけではありません。現行法では、このような場合、著作権法違反として差し止めの対象になるかどうかが明確に規定されていないのです。そこで、リーチサイトを取り締まることに対して困難が生じているのです」
「これまで判例は、著作権を直接侵害するのではなく、著作権侵害を幇助(ほうじょ)する者に対しても、その者を規範的に『侵害行為者』ととらえて差し止め請求を認めたり、幇助者の侵害行為に対する管理支配性と利益性に着目して、差し止め請求を認めるなどの工夫をしてきました。
そこで、リーチサイトにこのような判例理論を適用するという考えもあり得ます。しかし、リーチサイト運営者を侵害行為者と捉えたり、侵害行為を管理支配していると考えて、判例理論でカバーするには、やや無理があるように思います。
このような判例理論を立法化することを目指し、これまで文化庁著作権審議会でも議論が積み重ねられていますが、未だ実現していません。また、判例理論をそのまま立法化しても、リーチサイト全てに対応できるか疑問です。そのほか、リーチサイトを、著作権法の『みなし侵害(著作権法上の権利の侵害にはあたらなくても、権利者の利益を実質的に害する行為を侵害と認めるルール)』の一態様として、規定を新設する改正も提唱されています」
まだ議論の余地があるということか。
「著作権法改正の必要性は高いと思います。しかし、違法コンテンツは、著作権侵害コンテンツに限らず、児童ポルノなどもありえます。
また、著作権法による対処のほか、リーチサイトの主要な収入源は広告収入なので、オンライン広告を停止する措置もありえることで、そのような検討もされています。
プロバイダが閲覧を遮断するサイトブロッキングや検索結果に表示させないことも有効な手段と考えられています。
リーチサイトに対する取り締まりの必要性は認識されていますが、取り締まりの対象とすべきリーチサイトを判別することも容易ではありません。このような状況を考えると、著作権法改正だけに問題が限定されるのか、個人的には疑問に感じます。リーチサイト取り締まりの具体的方策はこれからの課題といえます」
井奈波弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
井奈波 朋子(いなば・ともこ)弁護士
著作権・商標権をはじめとする知的財産権、労働問題等の企業法務、家事事件を主に扱い、これらの分野でフランス語と英語に対応しています。ご相談者のご事情とご希望を丁寧にお伺いし、問題の解決に向けたベストな提案ができるよう心がけております。
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