バーレーンと中国では2位にも届かず、ハーフスピンやオーバーランが目立っていたチャンピオンのルイス・ハミルトン。フリー走行2回目のベストタイム1分37秒583は、2位セバスチャン・ベッテルを0.652秒、3位ニコ・ロズベルグを0.867秒リード。そのあとのラップで、さらにセクター1・2と短縮していたがセクター3でロス。1分37秒台の前半も見えていた。
第3回ロシアGPは春のソチ、午後には気温16度、青空が広がり、路面温度も39度まで上がった。タイヤへの熱入れが難しく微妙なコースに、やや攻撃的に行ったハミルトン。本来の突っ込みスタイルで何度かブレーキングでラインを外れても、彼にすれば想定内で即座にリアクション。一見派手でもギクシャクせず、ちらからない。これがハミルトンのリズムで独特のアグレッシブさ。一度4コーナーで前輪タイヤをロックアップ、逆の見方をすれば、これで限界域を把握したと言える。フリー走行中に、どこかでこういうプレーを試みる。36点ビハインドで追う王者が、いよいよ<攻めモード>にスイッチオン。
ソチは低中速コーナーが多く、アップ&ダウンがないようでいてアンジュレーション(うねり)があり、逆バンク風のブラインドカーブが続く。ビッグ・ブレーキング・ポイントは少ないが、旋回姿勢のまま減速するエリアでマシンのリヤが踊りだす。フリー走行1回目で、まるでウエットレースみたいなスピンが見られたのは、そのせいだ。しかし徐々にライン上にタイヤ・ラバーが付着、グリップレベルが刻々と変わっていくのをハミルトンは感じとっていた。
巻き返しにきている相手を、ポイントリーダーのロズベルグは強く意識したはずだ。土曜からは“6連勝”中であることを忘れ、自意識をリセットしなおす必要がある。ポイントになるのは、低中速ストップ&ゴーでマシンの回頭性(切れ味)を保ちつつ、長いU字の3コーナーで、どうバランスをとるか。スローVTRに映ったように、3コーナーではマシンが大きく傾いてロール、車体底からスパークが飛び散っていた。リヤタイヤのキャンバー角や車高調整など、研究熱心なロズベルグは金曜夜、担当エンジニアとのミーティングで空力よりもメカニカル・グリップの“完全調和”を探ったことだろう。<コース外で速さを見つける>──それが、ニコの持ち味だ。
挑戦するフェラーリは、いまはトラブルを怖れず、刃向かっていくしかないのだ。ベッテルがフリー走行2回目で2位タイムを出しながら、10周で電気系トラブル。このありさまを見てミハエル・シューマッハー以前の、かつての姿、マクラーレン・ホンダやウイリアムズ・ルノーに立ち向かう80年代~90年代スクーデリアが、だぶって見えた。攻めるべきスピードと守るべき信頼性、二律背反の狭間から解決策を見出せるかどうか──。勝てそうで勝てない3ゲームが過ぎ、この4戦目が今シーズン最初の大きな“分岐点”となるような気がしてならない。新パワーユニット投入、ここで3トークン使用、残る開発点数は「6」しかないフェラーリだから、そう思う。
2強から視点を変えると、3番手にいるレッドブルに対してウイリアムズが迫ってきた。メルセデス・パワーユニットのアップデートを含め、コース特性に見合う戦力アップが見えている。コーナリング・サーキットではないソチだから、レッドブルに反撃するチャンスあり。ロングランペースは互角、今季ベストまだ5位しかないウイリアムズ陣営が狙っている。4戦目の春に移ったロシアGP、また勢力構図が変わるのか。