就活生への指導として「企業が求める人物像をよく理解し、自分がそれに適していることをアピールせよ!」というアプローチをよく見かけます。私はこれを見るたびに「採用現場を全く知らないんだろうなぁ」と思ってしまいます。
なぜなら、サイトに書かれている内容は「嘘ではないけど、本音でもない」からです。一度冷静に、採用サイトを読んでみてください。そこには非現実的とも思える「求める人物像」が書かれていることでしょう。
「発想力が豊かで、責任感が強い人物。目標達成能力が高く、コミュニケーション能力があって、チャレンジを恐れず、志を高く持ち…」
社会人だって「そんな人はいない」と苦笑している
これらの言葉を前にして「自分はそんなスゴイ人間ではないから就職できないかも…」と思い悩む就活生がいるかもしれません。でもご安心ください。企業側の本音は「ま、こんな人材は滅多に存在しないのは分かってるんだけどね」というものですから。
実際、社会人の先輩たちが「求める人物像」を読むと、「そんな会社員はそうそう存在しないよ」と苦笑するのではないでしょうか。社内の人間ですら、自社のサイトを眺めてみると苦笑いしてしまうかもしれません。
では、なぜこのような内容がずっと掲げられているのでしょうか。主な理由は3つあります。最も分かりやすい理由は「ナビサイトに入力欄が用意されているから」です。欄が用意されているからとりあえず何か埋めておこうとして、書いているだけであることも決して少なくありません。
2つめは、「採用したい人物像を明確にすることで採用がうまくいく」と言い続けている採用コンサルがいるからです。「社内で活躍する人物の行動を分析し、その特徴に合致する人材を採用しましょう」というのは、よく聞く話です。
このこと自体には一理あるとは思いますが、それをサイトやパンフレットに掲げればいいというのは、あまりにも短絡的です。
同じ演出をする学生が増えれば、個性は消えていく一方
3つめの理由は、学生を集める求人広告のキャッチコピーとして考えているからです。「そんなスゴイ社会人に囲まれて仕事をしたい!」と思ってくれたら十分に効果をなしてくれています。
あとは、説明会や面談で、社内で業績・人間性ともに高い評価を得ている社員と会わせる場を用意して、内定までの道筋を作るのです。もちろん職務と必要なスキルが明確な中途採用の場合には、「求める人材」はある程度意味があります。しかしその場合にも「人物像」という聞き方はしません。
このような背景から生まれてくる「求める人物像」に対して、就活生が自分を似せて演出したところで、内定の確率が上がることはありません。むしろ、同じような演出をする学生がたくさんいるので、個性は消えていく一方でしょう。
個性が滲み出てくるのは、学生さんが「過去に何に興味関心を持って、どんなことをしたのか?」という実体験の話や、「入社後に自分はどんな仕事で志望企業の力になりたいのか?」を話してくれている時なのです。相手へのすり寄り方や媚び方を指導する人には、気を付けた方がいいかもしれません。(文:河合浩司)
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