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スパイダーマンはどう映画化されてきた? 今夜放送『アメイジング・スパイダーマン2』に寄せて

2016年04月29日 11:31  リアルサウンド

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 近年MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)映画をはじめとして、アメコミヒーロー映画が隆盛を極めている。その潮流に先鞭をつけたのは、2002年公開からのスパイダーマンシリーズと言って間違いない。


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 そんなシリーズのリブート版(仕切り直し)2作目『アメイジング・スパイダーマン2』が、今夜地上波放送に初登場する。これは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の上映に合わせたのは容易に予想がつく。本作の主軸であるアイアンマンやキャプテン・アメリカのシリーズを放送しないことには正直不満もあるが、スパイダーマンシリーズの日本での大ヒットを考慮したら、この状況にも少なからず納得がいく。また、「ここでスパイダーマンをクローズアップさせるということは、ピーター・パーカー=スパイダーマンの行動がキモになることの暗示ではないか」とも推測してしまう。


 今回放送される『アメイジング・スパイダーマン2』。前作にて、ピーター・パーカー=スパイダーマン(アンドリュー・ガーフィールド)は、失踪した父親が密かに遺伝子改良の研究を行っていたことを知り、その謎を探っていく中、オズコープ社の研究室に潜入。そこで遺伝子改良の実験中であったクモに噛まれたことで、スパイダーマンの能力を身につけた。スパイダーマンとして、ニューヨークの犯罪者検挙への協力、人名救出、ヴィラン(悪役)との戦いと並行し、高校の同級生グウェン・ステイシー(エマ・ストーン)との恋愛にも勤しんでいた。しかし、ヴィランとの戦いで犠牲になったジョージ・ステイシー(デニス・リアリー)の遺言で、「グウェンを戦いに巻き込まないために彼女に近づくな」と警告されたことから、ピーターは彼女と距離を置いていた。そこから本作は始まる。


 本シリーズが他のアメコミヒーローシリーズと決定的に異なるのは、過去2回、担当した監督ごとにシリーズの区切りがつけられている点である。1シリーズ目はサム・ライミ、2シリーズ目はマーク・ウェブ、そして次期シリーズはジョン・ワッツだ。


 まず、ライミのシリーズは、3のように世間的には失敗作とされる作品も存在するが、全体として高評価を受けた。ライミは元々、『死霊のはらわた』シリーズや『XYZマーダーズ』のように、おふざけの度が過ぎたスラップスティック・コメディを得意とした監督。人間の日常生活ではまずやらないような、誇張されたコミック的な動きの演出が特徴的だ。1作目の冒頭、ピーター・パーカー=スパイダーマン(トビー・マグワイア)が慌ててバスに乗り、派手にこけるシーンが印象的でライミらしさを感じる。しかし、一方で『シンプル・プラン』のように、人間の心理状況を微細かつ的確にとらえたリアルな演出もつけられる。これは、ピーターがヒロインのメアリー・ジェーン(キルステン・ダンスト)に対して、恋とヒーロー的行動との両立の難しさからくる葛藤を打ち明けるシーンなどに顕著だ。つまり、コミックの要素も踏まえた非人間的な演出、微細な心理状況を捉えた演出のハイブリットから、映画としても紛れもなく傑作と言える。


 一方、ウェブは、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズを手掛ける前は、厳密にはラブストーリーとは言えないが、男女の出会いを描いた傑作『500日のサマー』などを監督していた。リアルな青春映画をベースにした世界観や描写でストーリーが展開されつつ、何らかの高揚感とともに時折ミュージカル的な演出が施される点は共通している。ピーターがグウェンと会話をする中、ウェブシューターで彼女を引き寄せる際に、彼女が回転し、スカートをひらひらさせて近づいていく演出などにその作家性は現れている。しかし、さらに突っ込むと、ウェブの過去作から通底する「表面上の甘美さに覆われた真実や本音こそ突いていきたい」というテーマは、『アメイジング・スパイダーマン』2作を通じて気づかされる。この2作は、ピーターとグウェンのラブストーリーがウェイトを占め、そこでのたわむれぶりにムズかゆくなってくるが、2が終わった後から振り返ると微笑ましさも感じられる。こう言及すると、「ラブストーリーが前面に出過ぎた軟派なヒーロー映画」という印象を受けるかもしれない。しかし、ラストでピーターが、「自分はなぜヒーロー的行動を取るのか」にウェブ版スパイダーマンを通して最も強く感じる心理状況を見ると、強烈にヒーローの本質を突かれていることがわかる。


 そして、次期監督のジョン・ワッツ。過去作の『クラウン』や『コップ・カー』を踏まえたら、スパイダーマンシリーズのお馴染みのテーマ「大いなる力は大いなる責任を伴う」に関して、ライミ版やウェブ版以上にクローズアップされるように思われる。ワッツの過去2作には、「不相応な力や物を手にすることから起こる悲劇」がテーマとして貫かれているからだ。


 しかし、やはり原作『シビル・ウォー』でのスパイダーマンの展開、また、『SPIDER-MAN:Homecoming』にてアイアンマン=トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)の登場を考慮すると、不確定要素ももちろん見受けられる。そんな部分を元に、次回作のスパイダーマンに関して考えを巡らせることがファンの楽しみでもある。今夜放送の『アメイジング・スパイダーマン2』は、シリーズファンになるための絶好の機会と言えるだろう。(梅澤亮介)