マクラーレンMP4-31のリヤセクションが、すごいことになっている。空力的に、いじりたおしたような状態だ(まだ進化していくのだろうが)。リヤウイング翼端板ひとつをとっても凝りに凝っている。翼端板は定規で線を引っ張ったような長方形が基本形だが、MP4-31の場合、下部は不均一な間隔と長さでスリットが入っているし、そもそも平面ではなく、微妙かつ複雑な三次元形状となっている。
フロア上面を流れてきた空気はフロア後端で跳ね上げられるが、そのあたりの空気を制御する狙いだろう。翼端板のフロアまで伸びた部位は、複雑にねじれている。湾曲したリヤウイングに呼応するように四角い穴が複数開いているし、その下方にも、跳ね上がる空気の流れに沿うようにして、細いフィンが取り付けられている。
フロア後端上部に極薄のフィンを2枚重ねにするのは近年のトレンドで、クラッシャブルストラクチャーの下部を埋めるようにパネルを配する手法も、いまとなっては珍しくはない。
凝っているなぁと感心するのはリヤタイヤの内側だ。このエリアに小さなフィンを積層してダウンフォースを稼ごうとするのは、何年も前から一般的となっている。だが、ねじれた翼端板側、フロアに接するあたりの枝分かれした処理は「ここまでやる?」と唸りたくなるような凝りようだ。
空力開発にはパラメトリック法といって、基準となる状態をもとにサイズや角度、屈曲点などを微妙に変えて性能の高いバリエーションを選び、選んだバリエーションを基準にして再度パラメーターを振り──という作業を繰り返していく開発手法がある。どんどん形状が細かくなっていくのは、このためだ。これだけ細かいと、新しいバリエーションを投入することによるゲインは、ほんのわずかだろうが、その積み重ねが大きなゲインに結びつく。それにしても凝り過ぎ(凝った代償としてドラッグも大きそう)に見えるが……。
翼端板やフロア、リヤタイヤの内側における凝り具合に目を奪われがちだが、マクラーレンMP4-31のリヤセクションにおけるハイライトは、サスペンションの処理だ。2014年にビームウイングが廃止されて以来、リヤサスペンションのアームをビームウイング代わりに利用する(整流効果を持たせてディフューザーの機能を高める)のがトレンドで、そのマクラーレン的解釈が見られる。
ロワ側はドライブシャフトとアームを偏平なフェアリングで覆っているのだろうか。2014年のMP4-29は上下の後側アームを衝立状に成形したが、あれは、いかにもドラッグ(空気抵抗)が大きそうだった。今回のソリューションは、いかにもスマートで、その周囲が凝りに凝っているだけに際立って見えてしまう。