2016年04月28日 10:21 弁護士ドットコム
東京都は4月中旬、都内の認可外保育施設で、うつぶせの状態で寝ていた1歳男児が死亡する事故が起きていたことを発表した。
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報道によると、東京都中央区の複数企業向けの保育施設で3月11日午後、うつぶせの姿勢で寝ていた男児の顔が変色していることを職員が発見。病院に運んだが、その後死亡が確認された。施設には、当時、保育士ら6人がいて、0歳から4歳までの20人をみていた。
保育施設側は、「泣いている子に人手が割かれていた」と説明しているという。都は、保育施設の対応が、都の定める基準(「子どもをあおむけに寝かせる」「睡眠中に呼吸や顔色をきめ細かくチェックする」など)に反しているとして、運営会社に行政指導をした。
今回のような事故で、保育施設はどんな法的責任を問われることになるのだろうか。大井琢弁護士にきいた。
「保育事故と呼ばれる、このような事故の場合、保育施設の経営者などが民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります。また、民事上の責任とともに、保育施設の保育者(保育事故の現場で保育にあたっていた者)が刑事上の責任を問われる可能性もあります」
大井弁護士はこのように述べる。具体的には、どんな責任なのか。
「民事上の責任としては、保育をする契約に基づく債務不履行責任(民法415条)や、保育事故を起こしたことの不法行為責任(民法709条以下)が考えられます。
保育施設の経営者については、現場での保育にあたっていなくとも、保育者を使用することによって利益を得ているとして、使用者等の責任(民法715条)を負うことがありえます。
刑事上の責任としては、実際に保育にあたっていた保育者が業務上過失致死罪(刑法211条)などの罪に問われることがありえます」
こうした責任を考える上で、どんな点がポイントになってくるのか。
「重要な考慮要素となるのは、うつぶせ寝と死亡との因果関係です。特に、刑事上の責任が認められるかどうかについては、この因果関係が高いハードルとなります。
ちなみに、この施設が東京都の定める基準をみたしていなかったからといって、直ちに民事上、刑事上の責任が認められることにはなりません」
「個別の責任を問うことも重要ですが、一定の基準をみたしていない、保育の質の低い施設を保護者が利用せざるをえない状況が放置されていることを見逃してはなりません。
今年に入って、『保育園落ちた日本死ね』のブログが話題になり、待機児童の問題がクローズアップされました。保育事故の問題は、待機児童の問題と無縁ではなく、むしろ、深くかかわっていると言ってよいでしょう。
個別の責任を問うだけではなく、一定の基準をみたしていない、保育の質の低い施設を利用せざるをえない状況を放置してきた国や自治体の責任も問われるべきだと考えます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大井 琢(おおい・たく)弁護士
そよかぜ法律事務所(沖縄弁護士会)弁護士、沖縄弁護士会貧困問題対策委員会委員長。保育を中心とした0~5歳児への早期支援によって子どもの貧困を解消できるとの信念のもと、保育や待機児童などの問題に取り組んでいる。
事務所名:そよかぜ法律事務所