2016年04月28日 09:22 弁護士ドットコム
甥から「母親の旧姓を名乗りたい」と相談された方が、Yomiuri Onlineの「発言小町」(法律相談コーナー)に、「どうすれば良いのかわからず、こちらに相談させていただきました」と、投稿しました。
甥の「母親」とは、トピ主さんの姉のこと。彼が母親の姓に目をつけた理由ですが、「義兄の苗字がとても多い名前ベスト3に入っているもので、母親の旧姓の方がユニークであるそうです」と、ちょっと拍子抜けするものでした。
トピ主さんは現在独身で、今後も結婚の予定はないそうです。そこで、甥を養子にする問題はないどころか、珍しい家名を残せることにも魅力を感じているようです。そこで「養子縁組」か「家庭裁判所への申し立て」を視野に入れています。
レスには「常、甥や姪が子供のいないおじや叔母に近づくときは、財産目当てしかありません」などと厳しいコメントもつきました。
甥の「母の旧姓を名乗りたい」という願いは叶うのでしょうか。下出太平弁護士に話を聞きました。
(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「母親の旧姓を名乗りたい」はこちらhttp://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/0331/757021.htm?g=15)
●Q.トピ主さんと養子縁組することが一番簡単
甥が「母親の旧姓を名乗る」と考える場合、「養子縁組」、そして「家庭裁判所の許可(氏の変更許可申立)」の2つが選択肢として考えられます。
今回の場合、母親の旧姓を名乗るという目的を達するのに一番簡便な方法は、甥の方がトピ主さんと養子縁組をすることかと思います。養子縁組は、成人同士であれば、家庭裁判所の許可は必要ありません。
養子縁組の手続きについては、甥の方が独身であれば基本的に、当事者と証人2名が「養子縁組届」に署名して、市区町村に提出することで完了します。甥の方に配偶者がいる場合は、さらに配偶者の同意が必要になります。
なお、「養子縁組」をした場合でも甥と実の両親との親族関係がなくなるわけではありません(「特別養子縁組」とは異なります)。実の両親との関係性は、法的に変わりません。
養子縁組をすることで、2つの変化があります。1つは、甥の方はトピ主さんと同じ「氏(姓)」を名乗ること。そして、もう1つが、トピ主さんが亡くなった場合、甥の方が相続人として遺産(マイナスの場合も含めて)を相続することです。
養子縁組は、このように簡単な手続で完了しまう反面、養子縁組を解消することは簡単ではありません。養子縁組後に人間関係が変化し、トピ主さんが甥に遺産を一切あげたくないと考えた場合には、「離縁」の手続をする必要があります。しかし、甥が同意しなければ、調停・裁判手続を経ることになります。
養子縁組をすることについては、慎重に検討すべきでしょう。
●「氏の変更許可申立」とは?
甥がトピ主さんの「姓」を名乗るためのもう1つの方法が、「家庭裁判所の許可」です。正確には「氏の変更許可申立」といいます。
しかし、今回の場合、結論から言えば、「母親の旧姓がユニークだから」「珍しい家名を残したい」という理由では家庭裁判所の許可は出ないと思われます。
まず、そもそも、この手続は「戸籍の筆頭者」か「配偶者」でなければできません。質問の内容からは、甥の方が両親の戸籍に入っているのかどうかは分かりませんが、まず戸籍が独立している必要があります。
また、その点をクリアしたとして、家庭裁判所に対し氏の変更許可を申し立てる場合、これが認められるには「やむを得ない事由」が必要とされています。「やむを得ない事由」とは、「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合をいう」と考えられています。
具体的にいえば、「難し過ぎて全然読めず、社会生活上著しい不便がある」とか、「珍奇な氏で、他人から嘲笑、軽蔑されるような意味を帯びる」場合、「長年、内縁の配偶者の氏を通称として用いていた」ような場合です。
判例では「通姓に対する愛着や内縁関係の暴露を嫌うというような主観的事情を意味するのではなく、呼称秩序の不変性確保という国家的・社会的利益を犠牲にするに値するほどの高度の客観的必要性を意味すると解すべきである」と判断されています(札幌高裁昭和41年10月18日)。
いずれにしても、今回のケースで氏の変更が認められるのは難しいでしょう。
最後に、甥の方の両親が離婚をして、母親が旧姓に戻り、甥の方がその母と同じ氏を名乗るべく、「子の氏の変更許可申立」を行うというのがやや技巧的な方法として考えられます。
ただし、自分の氏の変更のために両親の離婚が必要になるわけですから、あまりお勧めできる方法とはいえません。
【取材協力弁護士】
下出 太平(しもいで・たいへい)弁護士
2008年弁護士登録 愛知県弁護士会所属
都立戸山高校、早稲田大学社会科学部出身
離婚、交通事故、破産、相続、労働、中小企業法務、難民事件など幅広く取り扱う。
離婚、交通事故は電話相談を含め、数多くの相談を受けている。
趣味はバスケットボールで、現在も実業団でプレイ。NBAマニア。
事務所名:西山法律事務所
事務所URL:http://www.lwo.jp