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HER NAME IN BLOODは「野生化」に向かう? 怒涛の快進撃の行方を分析

2016年04月28日 00:01  リアルサウンド

リアルサウンド

HER NAME IN BLOOD

 2016年も活気付いている国内ラウドロック/メタルシーン。ひとつのムーブメントとしてはピークを過ぎたのかと思いきや、まだまだ勢いの良い若手たちが次々と登場し、それを迎え撃つ中堅・大御所たちも重ねた歳月と進化を感じさせる作品を続出させている。そんな中、昨年9月にメジャーデビューを果たしたHER NAME IN BLOODが、非常に面白い進化を遂げている。いや、これは見方を変えたら進化というよりも“野生化”と呼んだほうがより正確かもしれない。


 HER NAME IN BLOODは海外でメタルコアが盛り上がっていた2007年に結成。2010年に1stアルバム『DECADENCE』をリリースして以降、国内のみならず海外でも精力的なライブ活動を展開している。中でも昨年10月にスリップノット主催フェス『KNOTFEST 2015』のアメリカ・カリフォルニア公演に出演し、多くのラウドロックファン、メタルファンを驚かせたことも記憶に新しい。


 彼らが1stアルバムを発表した2010年というと、前年に初のアルバム『The Artificial theory for the Dramatic』をリリースしたCrossfaithが徐々に知名度を高め、coldrainは『PUNKSPRING』や『京都大作戦』、『SUMMER SONIC』などの大型フェスに次々出演、SiMは前年に現在のメンバー4人が揃った快進撃前夜というタイミング。そんな時期にドロップされたHER NAME IN BLOODのアルバムは、現在の彼らと比べるとまだまだ大人しい印象がある。いや、メタルコアやデスコアの作品としては水準もかなり高いし、海外バンドからの影響が色濃く表れた良作と言えるだろう。しかし、あの時点では期待されるバンドの「One of Them」だったと思う。


 その後、HER NAME IN BLOODが新作を発表するまでに3年もの月日を要することになる。この3年間に経験した良いことも悪いことも、すべて音の塊としてぶつけたのが2013年発売のEP『THE BEAST EP』だ。私自身もこの作品で初めて彼らの音に触れたのだが、とにかく圧倒的な音圧と凶暴なサウンドにノックアウトされたのを今でも覚えている。すべてを解放させたこのEPをもって、彼らはようやく「HER NAME IN BLOODらしさ」の片鱗を見せることができた。そして続く2014年発売のセルフタイトルアルバムで、その「HER NAME IN BLOODらしさ」はついに確立。よりエグみを増したブルータルな楽曲のみならず、本作ではメロウな要素やバラードと呼べるような泣きの楽曲まで存在し、非常にバラエティに富んだ1枚に仕上がっている。個人的には、ここでようやく先に挙げたようなラウドロックシーンの同胞たちに追いつき、またヘヴィメタル界においても新たなヒーローが生まれた……それくらいの“進化”が感じられたのだ。


 そして、このタイミングでのメジャー移籍。前作でみせた「HER NAME IN BLOODらしさ」をより追求した作品を聴かせてくれることだろう……そう思っていたところに届けられたのが、昨年(2015年)9月発売のEP『BEAST MODE』だった。全9曲、トータル29分という、ひと昔前だったらフルアルバムと呼ばれていただろうこの作品で、彼らは“進化”どころか“野生化”していた。いや、“野生化”というとネガティブに捉えられてしまうかもしれないが、この場合は「よりケモノ的」になったと言ったほうが正しいのかもしれない。メジャーならではの整理されたサウンドではなく、ただひたすら暴力的にメタルナンバーを繰り出し続ける。シンガロングできるような楽曲でも、生々しさ、凶暴さはより強まっており、個人的には「拘束具が外された猛獣が都会で野放しにされた」ような、そんな恐怖心を植え付ける1枚にすら思えてくる。


 その『BEAST MODE』から約7ヶ月、HER NAME IN BLOODは4月27日にメジャー移籍第2弾EP『Evolution From Apes』をリリースした。「類人猿からの進化」というタイトル、左から右へ、猿がIkepy(Vo)へと進化していくアルバムジャケットからもわかるように、今作はバンドの過去と現在をつなぐ1枚。「LAST DAY」「DOWN」の新曲2曲に加え、インディーズ時代に発表したアルバム/EPから各1曲ずつセレクトし、再レコーディングした3曲の合計5曲が収録されている。再録曲は2010年発売の1stアルバム『DECADENCE』から「REVOLVER」、2013年発売のEP『THE BEAST EP』から「GASOLINES」、そして2014年発売の2ndアルバム『HER NAME IN BLOOD』から「HALO」と、どれもライブには欠かせない楽曲ばかりだ。過去の楽曲と最新の楽曲を横並びで収録するという意味では、タイトルにふさわしい内容だが、問題はこれらを2016年の今のテンションでレコーディングし直しているということ。演奏力や表現力は初収録時より高まっているものの「野放し感」は当時以上……このエグさが“野生化”につながってくるのだ。


 『Evolution From Apes』からのリードトラック「LAST DAY」のミュージックビデオを未見の人がいたら、ぜひ今すぐ観ていただきたい。これらの凶暴な楽曲を、あの筋肉の塊のようなフロントマン・Ikepyが歌っているのだから……そりゃあ「拘束具が外された猛獣が都会で野放しにされた」ような感覚を受けるわけだ。また、この曲がテレビ朝日 『ワールドプロレスリング』の4・5月度のエンディングテーマに採用されたというのも、なんだか納得してしまうというか、笑ってしまうというか。


 バンドとしては確実に猿から人間へと進化しているはずなのに、なぜかアルバムジャケットとは逆に野生を取り戻しつつある今のHER NAME IN BLOOD。この先彼らがどこまで“野生化”していくのか……そして他のラウドロックバンド、ヘヴィメタルバンドと並んだときにどう見える/聞こえるのか。その“野生化”が行く着くところまで行き着いたとき、彼らは国内のみならず海外でも唯一無二の存在になれるのかもしれない。その日がいつ訪れるのか、今は怖くもあり、楽しみでもある。(文=西廣智一)