VivaC 86 MC VivaC team TSUCHIYA
レースレポート
2016SUPER GT Rd.1 岡山国際サーキット
■日時
2016年4月9-10日
■車両名
VivaC 86 MC
■場所
岡山国際サーキット
■ゼッケン
25
■監督
土屋春雄
■ドライバー
土屋武士/松井孝允
■チーム
VivaC team TSUCHIYA
■リザルト
予選 1位/決勝 6位
町工場の挑戦、再び。
今シーズンはどのようなドラマが待っているか!?
昨年7年ぶりにスーパーGTのステージに復帰した「つちやエンジニアリング」。今シーズンも昨年と同じ体制で参戦できることになり、まずサポートしていただける皆様に感謝したいと思います。大好きなレースが思いっきりできることに大きな喜びを感じています。それも最高の仲間と一緒に。本当にありがとうございます!
2016年、第一回目のレポートは、昨年2015年の開幕戦のレポートの書き出しを、改めて見ていただきたいと思います。
『2008年に活動を休止した最強プライベーター「つちやエンジニアリング」職人・土屋春雄の活躍の場を復活させ、本物のレース屋が用意する環境の中で、次代を担う職人メカニック、そしてプロフェッショナルなドライバーを育てることを第一の目的に、私、土屋武士はこの6年間活動を続けてきました。そして今年、多くの素晴らしい出会いとご縁があり、2015年スーパーGT開幕戦の舞台に「VivaC team TSUCHIYA」として「つちやエンジニアリング」は復帰することが出来ました。
「人を育てる、歴史を繫ぐ」というテーマで活動を続けてきた6年間で私たちが得たものは、まさに人と人が拘わる和の力です。組織力・資本力を持つ大きな力に対抗するために、私たちのような町工場は人間力で戦うしかありません。その挑戦を再びスーパーGTの舞台で出来ることに感謝し、本当の「復活」を果たすまで、私たちチームの挑戦は続きます。
その「最強プライベーター」としての復活までのストーリーをレースレポートとしてお伝えしていきたいと思います。この活動を通して、少しでも多くの方に元気や勇気が伝染していくことを祈りつつ、ドライバーもメカニックもスタッフも、関わる全ての人間が成長していく様をお伝えできるようにチーム一丸となって頑張っていきます!』
このような始まりで昨シーズンがスタートしました。昨年は、第3戦タイラウンドでポールポジション、第6戦菅生ラウンドで優勝することができました。当初の目標はほとんど達成することができた素晴らしいシーズンだったと思います。途中、レポートの内容が「2代目の苦悩の日々」的なモノでほとんどを占めてしまいましたが(笑)、本年度もテーマは変わらず、突き進みたいと思います!
今年度は、新たに2人のレース未経験のメカニックを起用し、技術の伝承・継承に沿った活動を強化します。そして引き続きドライバーには松井タカミツ、監督にはもちろん土屋春雄。そして私、土屋武士がドライバー兼エンジニアとして戦います。とにかく技術を磨き、人間力で組織力に挑み「打倒ワークス」を意識した「町工場」の挑戦のストーリーを皆様にお届けできればと思います。本年もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!
メーカーワークスが新型車を投入
対して、手作りマシンはどこまで戦えるか?
今年の大きなトピックスは、GT300クラスの主力を務めるFIA GT3勢が新型車を投入してくることでした。メルセデス、アウディ、BMW、ポルシェ、フェラーリ、ランボルギーニといった自動車メーカーが、技術を結集し、開発してきたマシンたちが大挙して押し寄せてきます。他にも昨年のチャンピオンマシン日産GT-R、スバルワークスのBR-Z、そして新型車を投入してきたトヨタプリウスといった強豪ぞろいです。
そんな中で我々のマシンは昨年に引き続き、マザーシャシー(MC)のトヨタ86です。このMCは、GTアソシエーションの坂東代表が「日本の古き良きレース屋の技術を絶やさない為に、技術屋が腕を大いに振るえ、資金が潤沢でないプライベーターでも継続的に参戦できるように」といった趣旨で開発、産み出されたものです。
しかし、このマシンは非常に気難しい性質を持ち合わせています(笑)。優勝した時でさえ、トラブルを抱えながらの走行でした。でも問題が発生するということは、技術屋にとっては成長する機会がそれだけあるということ。技術屋というのは、そういう機会が嬉しくてたまりません。「おれの出番だ!」的な感覚です。もちろん筆頭は春雄監督。元来、レースメカニックとはそういう“変人"ばかりの集まりでした。
それが近年、レギュレーションに縛られ、メンテナンスをしっかりすればマシンはちゃんと走り、FIAGT3にいたってはマシンの改造は一切禁止という規則ですので、昔ながらのレース屋の出番が極端に減ってきています。それはつまり、イコール、若いメカニックの成長の場が無くなりつつあるということ。こんな時代なのであえて「つちやエンジニアリング」は、参戦車両にMCを選んでいます。
私がチームを運営している理由の一つには「技術とスピリットの伝承・継承」ですが、もうひとつの想いは、これまでレースの世界でたくさんのことを学び、成長させてもらってきたことへの恩返しという気持ちです。
やはりレース屋は技術屋集団であって欲しい。
もはやその想いは願いです。苦労は多いですが、そんな環境を好んで集まってくれる“変人"な仲間と共にならやれると思うし、なにより面白い!という素直な気持ちに従っています。やっぱり好きなことを仕事にしているんだから楽しまないと損ですよね!
テストでトラブルからクラッシュ!
しかし、怪我の功名で大きなヒントを掴む
という感じで、相変わらずのチームで始まったわけですが、今シーズン最初の岡山合同テストで事件が起きました。左フロントサスペンションのトラブルが、200km以上のスピードが出ている際に起きて、スポンジバリアに突っ込んでしまいました。流石に軽傷では済まず、修復に時間を要しました。もちろん修理代も……(泣)
初めてチームオーナーとして自分のマシンでドライブしている時にクラッシュをしてしまいましたが、スポンジバリアが近づいてきたときは「いったい、修理代はいくらかかるんだろう……?」ということが頭の中を駆け巡り、身体の心配なんて1mmもしていませんでした。新たな発見です……。
冗談はさておき、シーズン開幕前に2回しかない大事なテスト走行の最初のテストでクラッシュ。次の富士合同テストまでには5日間しかありません。そこからはメカニック、スタッフ、タカミツも一緒にマシン修復に全力で注ぎこみました。徹夜の連続でしたが、富士テストの最終日の朝方にマシンが完成して、その日の走行に間に合わせることができました。そして午後のセッションでは3番手のタイムをマーク!トラブルもなくポテンシャルも確認できました。大変だったと思いますが、レース屋としての仕事を、入りたての新人メカニックがいきなり“ど真ん中"で経験することができたことは、何よりの財産になると思うので良かったんじゃないかなと思います。さすがに71歳のおじいちゃん……もとい、職人メカニックの土屋春雄はしんどそうでしたが(笑)
この富士テストでは、セットアップに関して新たな発見がありました。ひょんなことから見つけられたのですが、エンジニアリング的に非常に興味を掻き立てられる内容で、そこから私の頭の中はフル回転。1秒でも早く岡山でそれを実践し走らせてみたくて仕方ありませんでした。富士を走ったことで得たヒントが、開幕戦のレースウィークに大きな影響を与えてくれました。
いよいよ開幕戦です。いつも通りフリー走行、予選Q1&Q2という1日のスケジュール。まずは走り出してバランスチェック。全く新たな試みで持ち込んだセットアップは、まぁまぁ思った通りの感触。そこから予定していたセットチェンジを施し、タイヤコンパウンドの評価をしてその時のタイムでセッション3番手を記録。なかなかライバル勢も速く、優勝するためには決勝のペースがカギになると読んだので、その後のほとんどの時間は、決勝セットに費やしました。
そしてQ1はタカミツが担当。NEWタイヤでのセットアップは手探りだったので、“こんなもんかな"という感覚的なものでQ1に挑みました。ここでちょっと昨年からの変更をお知らせします。とうとうストロークセンサーを装着しました!データロガーデビューです(笑)でもフリー走行のデータが取れてなかったので、今回は使えませんでしたが次戦以降、活用していく予定です。
――――話を予選に戻します。マシンのバランスはオーバーステアが強く、さらにクリアラップも取れなかったのでQ1突破ギリギリの13番手で通過。台数の多いQ1は運も非常に重要になってきます。タカミツも「このままじゃタイムがでません」といったコメントと、マシンのバランスを細かに教えてくれたのでQ2にはしっかりとセット変更して挑みました。
そして迎えたQ2。最初のアタックではブレーキングで不安定さがあったものの、かなりいいタイムが出て2番手に。トップとはコンマ1秒差と聞いて、1周のクールダウンを挿んだ後、今度はブレーキングに気を付けて再度アタックをかけると、自己ベストをコンマ2秒縮め逆転に成功!強豪ぞろいの中の開幕戦でポールポジションを獲得することができました!
岡山のクラッシュからみんなで一致団結し修復して、富士のテストにクルマを持ち込み、セットアップのヒントを得ることが出来ました。そしてQ1でのタカミツのコメントからマシンを仕立て上げ、再度アタックして獲得したポールです。格別なものがありました。ただ、私の場合は本音を言うと、ドライバーとしての喜びよりも、エンジニアとしての快感が大きかったです。それだけ今回発見したセットアップのヒントは、長くやってきた経験の中でも興味深いものでした。結果を出すことが出来、また更に先の領域へ向かっていくための一つの根拠にもなったことで、もっともっと試したいことが増えてきました。
こういったことがあるから面白いし、やめられないんですね!
とはいえ、決勝レースは全くの別物。特に今回は新型車のFIAGT3勢のポテンシャルが未知数でしたので、全然安心できません。決勝前のフリー走行では決勝用のセットアップを試し、レース戦略もいくつかのオプションを用意して、できることはすべて準備できた状態でスタートをむかえました。
開幕戦は、良くも悪くも実力通り
大いにヤル気を掻き立てられるシーズンが始まりました!
スタートドライバーは今回、私、土屋武士が担当しました。スタート直後からできるだけペースを上げて、エンジンパワーに勝るFIA GT3勢に抜かれないようにと考え、まずはスタートダッシュに成功。序盤からの数周で1秒~2秒ほどのギャップを広げることができました。あるところからタイヤを労わりながら2位との差をコントロールしようかと思っていたのですが、思いのほかタイヤがコンディションに合わず、ペースが落ちてきてしまいました。
20周目以降は2位#65AMGの方がペースは速く、防戦する一方で、正直、これは勝てるペースではないなと思っていました。そして31周目に#65 AMGがピットに入ったので合わせて翌周32周目にこちらもピットイン。左側のタイヤ2輪交換の作戦でタカミツに代りピットアウト。ギャップは10秒ほどあったものの、タイヤの温まりの差であっという間にその差は詰められ、すぐに抜かれて2位に落ちてしまいました。
そこで私が無線で「AMGや新型車勢には敵わないから、焦らず落ち着いてゴールまでマシンを運んで」とタカミツに伝えました。ファーストスティントで思った以上に新型FIA GT3勢との差を感じたので、まだ40周以上周回が残っているこの状況では厳しい、という判断からです。それに、トップで帰ってきて抜かれるのは第2スティントのドライバーにとって非常に辛い状況なので、とにかく「チェッカーを受けることを優先」という意識をインプットするためでした。焦りからミスをする、うってつけの環境が揃っていたので(笑)。
最終的には6位でチェッカーを受け、無事入賞で開幕戦を終えることができました。ポールからのスタートで6位は残念に思えるかもしれませんが、このレースウィークでは自分たちのやれることはしっかりやれた、悔いのない戦いができたので、すごくいい今シーズンのスタートが切れたと思っています。
それにメカニックたちにはすごく名誉な「ZF Award for Best Mechanics」を受賞することができ、何よりの賞を頂けて本当にうれしい出来事でした。頑張った甲斐があったってもんです!
そして次への課題もしっかりと見えた開幕戦でした。とりわけ、新型FIAGT3勢のポテンシャルが高いということと、ここ岡山のサーキットでは1周のスピード勝負では互角だったということが分かりました。我々MC勢&JAFGT勢が得意のサーキットで、ここまでFIAGT3勢が強いと今シーズンはかなり苦しい戦いになるかというのが想像できます。
でも相手が強いと燃えてきます! この環境の中で勝つことができたら、それは自分たちの成長の証だと思うし、それがなければ間違いなく勝てない。今回ポールを獲れたのも、富士テストで新たな発見があったからだし、まだまだ成長できる余地はあるはず。
我々プライベーターは資金力では敵わないけれど、情熱と創意工夫で対抗できると信じて戦っています。それを応援してくれるたくさんのパートナーやサポーターのみんながいてくれるから戦える。今年もそんな戦いが始まったと思うと血が騒ぎます。
今シーズンの目標はチャンピオン獲得です。我々プライベーターはこのステージにいられることだけでも奇跡だと思います。人と人との繋がりが紡いでくれた奇跡。でも技術に奇跡はない。積み重ねた上にしか、技術は応えてくれません。技術は必然です。この奇跡と必然の調和の中で、人は成長していくのだと思います。
また泥臭い、面倒くさい大人たちの戦いが始まりました。こんな素晴らしい環境で、大好きな仕事を思いっきり、いい仲間と一緒にやれることに感謝して、思う存分レースしたいと思います!
今シーズンも応援よろしくお願いいたします。
【松井孝允コメント】
まずこの開幕戦に再びこのチームで戻ってくることができて本当に嬉しく思います。開幕前の岡山テストでクラッシュしてからチームのスタッフの全員が開幕に向けて車を直すのに徹夜をし、ただ治すだけではなく速い車を仕上げてくれていい状態で岡山に乗り込めました。
フリー走行からセットアップもタイヤも含めていい方向に仕上がっていて、エンジニアリングの部分でも車を速くしてもらいこれなら勝てるかもしれないと思いました。
いざ予選に行くと思っていたような結果が得られず自分のふがいなさに腹が立ちましたが、そこで車の状態を正しく伝えられたことは富士の合同テストから考えると正しいコメントができたと思います。またその中で武士さんが、ポールポジションを取ってくれたことは本当によかったです。
決勝は武士さんがトップのままピットに戻ってきて、ピットの作業は他車より早いのはわかったのでこのまま勝ちたいと思いましたがペースを上げられず後退していく一方のレースで正直苦しいレースでした。その中で武士さんが無線でレース展開を伝えてくれたので少し気が楽になり無理なことはせず自分のベストを尽くそうと思い走りました。
結果は6位と悔しいですが、それ以上に自分の走りを何とかしないと今後のレースで勝てないと思うのでしっかりと反省し次回の富士では課題をクリアして乗り込みます。
今回、岡山で遠い中現地で応援して下さった皆様や遠くからの応援ありがとうございました。次回の富士も応援よろしくお願いいたします。