ロングビーチで5位フィニッシュ、ランキング6位につけてアラバマ州バーミンガムへと乗り込んだ佐藤琢磨(AJフォイト)は、プラクティス1日目に最速ラップをマーク。チームメイトのジャック・ホークスワースも2番手につけ、チームとして幸先の良い週末のスタートを切った。
しかし、翌土曜日になって状況が一変。気温上昇によるコンディション変化のためか、プラクティス3でのマシンは安定感を失っており、修正を加えて臨んだ予選で、まさかのQ1敗退を喫した。ソフトコンパウンドのレッドタイヤを2セット投入してまでQ2進出を目指したルカ・フィリッピ(デイル・コイン・レーシング)が6番手に滑り込んだことにより、琢磨とホークスワースは0.015秒以下という超僅差でQ2進出を逃したのだった。
ツィスティでアップダウンの多いバーバー・モータースポーツパークというコースでは、オーバーテイクが非常に難しい。佐藤は16番グリッドからレッドタイヤの新品を装着してレースに臨んだ。スタート直後に少しでも順位を上げたいという気持ちが現れていた。ところが、得意のスタートでポジションを上げることはできなかった。隊列が整ってグリーンフラッグが振られよう……という瞬間、彼の目の前の列でアクシデントが発生し、スタートはやり直しに。
ここで接触などのあった3台、カルロス・ムニョス(アンドレッティ・オートスポート)、ミカイル・アレシン(シュミット・ピーターソン)、ホークスワースが最後尾に下がったことで、琢磨は3つのポジションアップを達成した。
次のスタートでメインストレートから左、右と続く高速コーナーへ琢磨はスムーズにアプローチしたが、集団の背後に迫ったターン2で、他車との接触を避けようとアウトにラインを採った琢磨のマシンはバランスを崩して芝生まで飛び出す。
コースの汚れた部分にリヤタイヤが乗ってグリップが失われた彼の右側を8台ものマシンがすり抜けていった。スピンこそ逃れはしたが、琢磨はこの時のミスで最下位まで転落してしまったのだ。
大きく遅れてターン5に到着すると、セバスチャン・ブルデー(KVSHレーシング)にヒットされてスピンし、ストップしていたスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)がおり、そこからは彼を従えての追い上げにかかった。
琢磨陣営のピットストップは素晴らしく、同じタイミングでピットしたディクソンを先行させることなくコースに戻り続けた。チームメイトのホークスワースら、スタート時に接触を起こした3人の前に出て、ピットをドライブスルーするペナルティで後退したブルデーにも先行し、レッド2セット使用で琢磨のQ2進出を阻んだフィリッピと彼のチームメイトのコナー・デイリー(デイル・コイン・レーシング)も抜いた琢磨は順位の挽回に成功した。
スタートに投入したレッドタイヤは無駄になってしまったが、早目のピットストップで投入したもう1セットの新品レッドではペースアップを果たしていたのだ。決勝に向けて施した新セッティングによってマシンは予選時より確実に良いハンドリングになっており、ルーキーのアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)やマックス・チルトン(チップ・ガナッシ・レーシング・チームズ)の前に出ることにも成功した。
しかし、コース上でのオーバーテイクはやはり非常に難しく、イエローなしではリスタートというチャンスも産まれない。結局は、スタート直後のターン2でアウトにはらんでしまったミスが最後まで影響していた。後半の2スティントでの琢磨にはハードタイヤと、耐久性に心配の残るユーズドのレッドタイヤしか残っておらず、最後のピットストップの後に新品のレッドを履いたディクソンが、琢磨をパスしていった。その後も粘り強く走り続けた琢磨だったが、とうとうスタート直後に先行させてしまったマルコ・アンドレッティとライアン・ハンター-レイ、ふたりのアンドレッティ・オートスポートのドライバーたちを最後まで攻略できなかった。結果は彼らに続く13位でゴール。ポイントランキングは下がったものの、9番手に踏みとどまっている。
「スタートの後のターン2で順位を大きく落とし、少し早めのピットストップを行う作戦に出ることになりました。そこからは燃費との戦いにもなっていた。ピットストップは今回も本当に素晴らしく、ディクソンの前に出続けることができました。チームの頑張りもあって、自分はモチベーションを高く保ったまま戦い続けられましたね」
「ソフト2セットでの序盤、遅いマックス・チルトン(チップ・ガナッシ)の後ろに列ができてしまうなど、タイヤのアドバンテージが使えない面もありましたが、今回はソフトとハードでラップタイムが同じぐらいになっていました。レッドには瞬発力があり、最初の5周とかでは威力を発揮していたが、ロングランになると終盤にペースは落ちていました。ブラックはスティントを通して安定していましたね」
「スタートで厳しい状況に置かれ、そこからはやれるべきことをすべてやった。そういうレースになっていたと思う。今回もイエローなしで、体力的にキツいレースでもありました」と琢磨はレースを振り返った。
Report by Masahiko Amano / Amano e Associati