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PLASTICS、藤原ヒロシからcero、ACCへ……「東京発」先鋭的音楽の系譜を辿る

2016年04月25日 22:31  リアルサウンド

リアルサウンド

PLASTICS

 1970年代後半のニューウェイブ・シーンとリンクしながら、ワールドワイドな活動を展開したPLASTICS。そして、1990年代の中盤からハウスミュージック、ヒップホップ、ダブといったクラブミュージックをいち早く取り入れ、エヴァーグリーンな作品を発表してきた藤原ヒロシ。“東京発”の音楽を体現してきたこの2組のアーティストの代表作が次々とデラックス盤としてリリースされている。


 これらの作品がリリースされているのは、ビクターエンタテインメントの「デラックス・エディション・シリーズ」の第1シリーズ「TOKYO LOCAL CLASSICS」。1980年代以降に東京で生まれた優れた作品の魅力を改めてアピールすることを目的としたこのプロジェクトは、現在の東京ローカルシーンの礎となるアーティストの再発見につながると同時に、現在の東京で活動しているアーティストとの興味深い関わりも示唆している。


 PLASTICSは1970年代後半、中西俊夫、立花ハジメ、佐藤チカを中心に結成されたバンド(伝説的モデル、山口小夜子も時折参加していたという)。その後、佐久間正英、島武実が加わり、当時の最先端の音楽だったニューウェイブ、テクノポップへとシフト、1979年にUKの名門レーベル・ラフトレードからデビューを果たした。その後、B-52’s、ラモーンズ、トーキングヘッズといった、当時の先鋭的な海外バンドと共演、アメリカ、ヨーロッパでのツアーを重ねるなど、“東京発のニューウェイブバンド”として世界的な知名度を得た。


 1970年代後半から1980年代前半は、ポスト・パンク、ニューウェイブのシーンを中心に、それまでのロックのスタイルを破壊、再構築するようなバンドが数多く登場した刺激的な時代。アート、デザインにも鋭利なセンスを持っていたPLASTICSのメンバーは、この新しい潮流に敏感に反応し、自らの個性を加えながら独創的なロックミュージックを創造してみせた。PLASTICSが体現したスタンスは、Buffalo Daughter、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERなどのオルタナ系のバンドにも繋がっていった。


 今回デラックス盤としてリリースされたのは『WELCOME PLASTICS』(1980年)『ORIGATO PLASTICO』(1980年)『WELCOME BACK』(1981年)の3作。『WELCOME PLASTICS』には1976年に行われた原宿シネマクラブでのDAVID BOWIEやTHE VELVET UNDERGROUND等のカバー曲ばかりを披露したライブ、1980年のラジオの公開収録が収められたライブ音源、『ORIGATO PLASTICO』には1981年のアメリカツアーのライブDVD、『WELCOME BACK』には1988年にインクスティック芝浦ファクトリーで開催された再結成ライブの映像と、初CD化、初DVD化となる内容も数多くパッケージ。結成から再結成まで、PLASTICSのキャリアを網羅した内容に仕上がっている。


 藤原ヒロシ作品のデラックス盤としては、1stソロアルバム『Nothing Much Better To Do』(1994年)に続き、2nd『HIROSHI FUJIWARA in DUB CONFERENCE』(1995年)、3rdアルバム『“Yuri” Original Soundtrack』(1996年)もラインナップ。1980年代中頃からDJとしてキャリアをスタートさせた藤原ヒロシは、海外のヒップホップ、ハウスミュージック、ダブなどをいち早くプレイするなど、日本のクラブカルチャーの黎明期の最重要人物のひとり。テリー・ホール(ザ・スペシャルズ)、ネナ・チェリー、キャシー・スレッジといったニューウェイブ、アバンギャルド系のボーカリストを起用した『Nothing Much Better To Do』(デラックス盤には、いとうせいこう、UA、小泉今日子、スチャダラパーなどが参加した未発表音源を収録)、ピアノのクラシカルな旋律と最新鋭のダブミュージックを融合させたアンビエントアルバム『HIROSHI FUJIWARA in DUB CONFERENCE』、映画「ユーリ」(坂元裕二監督)のサウンドトラックとして制作され、ジャニス・イアン、中西俊夫、UA、小山田圭吾らが参加した『“Yuri”Original Soundtrack』の3作は、1990年代中盤の東京の音楽シーンにおける、最も良質な成果と言えるだろう。海外のクラブミュージックとリアルタイムで重なったサウンドメイク、そして、国内外のアーティストとのコラボレーションを加えた“東京発のクロスオーバー・ミュージック”と呼ぶべきスタイルは、ファッション、音楽、ライフスタイルが一体となった90年代のカルチャー全体にも大きな影響を与えた。


 P-MODEL、ヒカシュー、ハルメンズと言ったバンドともに東京のニューウェイブシーンの中心的存在だったPLASTICS、そして、ピチカート・ファイヴ、フリッパーズ・ギターなど渋谷系と呼ばれたムーブメントともリンクしていた藤原ヒロシ。両者に共通するのは音楽のプロフェッショナルでもありながら、サイドワークも持ち、いわゆるメインストリーム、メジャーとは異なるセンスとスタンスで海外とも繋がりながらたくさんの扉を開いてきたフロンティアスピリットだ。彼らのクリエイティビティと活動方針は2016年現在、活動するアーティストにも確実に受け継がれている。cero、Awesome City Club、Yogee New Waves。現在の東京のシーンを象徴するこれらのバンドは(もちろん音楽性はまったく異なるが)、膨大な都市の情報を独自のセンスで取捨選択しながら、さまざまな地域、さまざまな時代の音楽をエディットした“東京発”の新しいポップミュージックを発信し続けている。音楽とファッション、都市の雰囲気がナチュラルに混ざり合っていることも興味深い共通点のひとつだろう。


 ニューヨーク、シカゴ、ロンドン、マンチェスター、バンコク、大阪など、都市と音楽には密接な関係性がある。なかでも東京はジャンルの多様性、優れたファッション性を含め、きわめて独自の発展を続けていると言っていい。「TOKYO LOCAL CLASSICS」シリーズ、そして、2016年の東京で活動しているアーティストの優れた作品によって、東京発の音楽に改めて注目が集まることになりそうだ。(文=森朋之)