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相対性理論が過去のパブリックイメージを刷新! サウンドの新モードを読み解く

2016年04月25日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

相対性理論『天声ジングル』

 2010年代に入ったあたりから、音楽的に相対性理論の影響下にあると思われるバンドやシンガー・ソングライターが次々に登場するようになった印象がある。また、2011年に亡くなったポエトリー・ラッパーの不可思議/wonderboyが相対性理論の「バーモント・キッス」に乗せてラップした「世界征服やめた」を発表したり、SIMI LABのOMSBのソロにも参加している野崎りこんが、相対性理論 の歌詞の一節をラップに織り込んだりもしている。最近では、ラブリーサマーちゃんがシングル「LOVE▽でしょ?(Pro. by 無敵DEAD SNAKE)」のジャケットで、相対性理論の『シフォン主義』を模したことも記憶に新しい。彼らの後続への影響力の大きさは明白と言えるだろう。そんな状況にあってリリースされる新作『天声ジングル』は、フォロアーを生み出した過去のパブリックイメージを刷新し、新たなフェイズへ足を踏み入れている。


 まず注目したいのが、バンドとしての結束感と一体感。2012年に加入した吉田匡(ベース)、山口元輝(ドラム)、itoken(キーボード)を含む編成によるアンサンブルが成熟し、いよいよひとつの完成形を見たのではないか、という気がする。そもそも、吉田や山口やitokenはやくしまるえつこのソロ作でも演奏に参加しており、曲によっては山口は共同編曲者としてクレジットされている。バンドを離れてもなお、やくしまるが彼らを信頼に足るプレイヤーとして起用してきたことは、このメンバーの代替不可能性を示している。しかも、ジェフ・ミルズとコラボレーションしたシングル「スペクトル」を除き、相対性理論はゲスト・ミュージシャンを迎えることがない。『正しい相対性理論』のように他者にリコンストラクトを委ねる一方で、実はバンド内での化学反応を強く信じているのではないかと思わされるのだ。


 また、前作『TOWN AGE』はシンガー・ソングライター的な曲も収められていたが、『天声ジングル』はバンド・サウンドの強靭さが前面で主張している。特にリズム隊の醸し出す骨太なグルーヴは特筆ものだ。自在なランニングと分厚い低音が特徴の吉田匡のベース、楽曲を立体的に見せることに長けた山口元輝のドラムが、アルバムに深みと奥行きをもたらしている。


 特に山口のブレイクビーツのニュアンスを含んだグルーヴ感は過去のメンバーにはなかったもので、初期のトレードマークだったディスコ的意匠を更新することに成功している。思えば、筆者がはじめて山口のドラムを見たのもShing02のバンドで叩いていた時だったし、ヒップホップ調の「FLASHBACK」でのプレイはさすがに見事なハマり具合だ。更に、山口は11曲中5曲でティカ・α(やくしまるが作詞/作曲を行う際の名義)と共同で作曲者としてクレジットされている。おそらくリズム面での設計や構築に尽力したのだろうが、その貢献度の高さは明白である。


 そんな山口が作曲に関わった中でも特に耳を惹くのが、「弁天様はスピリチュア」だ。マーク・ジュリアナのビート・ミュージックを想わせる鮮烈な曲で、相対性理論のアナザー・サイドを開拓したと言える。山口はmolt beatsという名義でも音源をリリースしており、やくしまるが作詞・作曲した花澤香菜「アブラカタブラ片思い」のリミックスも手掛けている。ビートのプログラミングが出来て「音楽をアンサンブルとして捉えられる点が優れている」(過去に筆者が行ったやくしまるへのメール・インタビューより)という山口は、本作においてかなり重要な存在だったのだろう。


 それにしても、7月に相対性理論が日本武道館でワンマンライブを行うというニュースには、驚いた人も多かったのではないか。というのも彼らは昨今、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、サーストン・ムーア、フアナ・モリーナ、マシュー・ハーバート、ペンギン・カフェなど、カッティング・エッジな外国のミュージシャンと共演を重ねてきており、独自の美学に基づいた活動を展開していたからだ。先出のジェフ・ミルズとライブでセッションも行ったのも(素晴らしかった!)、そうした活動の延長にあったものだろう。


 しかし、クラムボンやエゴ・ラッピンなど、マイペースに自分の居場所を作ってきたアーティストも今年武道館公演を敢行/予定している。そうした流れを考えると相対性理論が武道館というのも決して不思議ではない。そもそも、武道館は演出に凝ろうと思えば意外に凝ることのできる会場だ。きっと彼らのことだから、一筋縄ではいかない仕掛けを見せてくれるのではないだろうか。実際、オフィシャルHPを見ると、各地から武道館へのバスツアーが企画されており、相対性理論らしい趣向が期待できる。グレードアップしたバンドのパフォーマンスが『天声ジングル』の曲をどう具現化してくれるかも、もちろん楽しみでならない。(土佐有明)