モーターファンフェスタに登場した「ロータス88B」は1981年F1世界選手権に参戦するべく、チーム・ロータスのコリン・チャップマンがデザインしたマシン。ツインシャシー構造を持ち、そのアイデアがレギュレーション違反と判断されたため実戦を走ることができず、幻のF1マシンと言われる1台だ。
英AUTOSPORTで技術記事を執筆している、かつてジョーダンやジャガーF1チームでテクニカルディレクターを務めたゲイリー・アンダーソンは「ロータス88」を、どう見ているのか聞いた。
もし、ツインシャシーが合法と認められ、十分な時間と予算をかけて開発すれば、期待どおりの性能を発揮したのだろうか……?
「あのクルマの開発には相当なコストがかかったに違いない。それ以前の問題として、恐ろしく複雑で厄介な仕事になっただろう。
ツインシャシーのアイデアは、スライディングスカートの禁止に対応すべく考え出されたものだ。私の記憶によれば、スライディングスカートから、スライドしないフレキシブルスカートになったことで、ほとんどのチームではアンダーフロアで発生するダウンフォースを40%ほど失った。これは誰にとってもハッピーなことではなく、全チームそれぞれの方法で失われたぶんの少なくとも一部を取り戻そうとした。
「当時、私にはブラバムのシステムが最も実用的で、複雑さを最小限に抑えた良いアイデアのように思えた。彼らはダブルスプリングシステムを選択していた。これは第1段階のスプリングとして、きわめて柔らかいバネに大きなプリロードをかけたものを使っていた。車速が上がってダウンフォースが増え、このスプリングのプリロードを超える荷重がかかると、1段目のスプリングが縮みきって車高が下がり、フレキシブルスカートが路面に接触するという仕組みだ。
これによってアンダーフロアはある程度まで密閉され、規定の車高を保った状態よりも大きなダウンフォースを発生したのだ。このアイデアの最大の弱点は、フレキシブルスカートがすぐに摩耗して、発生するダウンフォース量が不安定になることだった。
その問題は、フレキシブルスカートを外側ではなく、内側に折れ曲がるようにすることで解決された。アンダーフロアで負圧が発生してダウンフォースを生み出すと、スカートと路面の隙間を通って外側から内側へ空気が流れ込む。この空気の流れでスカートの下端がわずかに浮き上がり、路面との接触による摩耗が劇的に減少したのだ。アンダーフロアに空気が流れ込むことで、ダウンフォースの絶対量は少し減ってしまうものの、安定したダウンフォースを得られるメリットのほうが、ずっと大きかった」
ブラバムのアイデアに対して、「ロータス88」はグラウンドエフェクトを発生するサイドポンツーンと上部カウル(プライマリシャシー)を、ドライバーが乗るモノコック(セカンダリシャシー)と分離し、スプリングでフローティング・マウントするという構造。有効なスピードに達するとプライマリシャシーがダウンフォースを得て下方へと沈み、セカンダリシャシーのアップライトに荷重がかかる。セカンダリシャシーのサスペンションは通常のセッティングにできるため、ドライバーの乗りやすさや安全性と性能の両立を狙ったアイデアだ。
しかし「ロータス88」は登場に先立ち、新たに追加された「空力に関連するボディワークは完全に固定されなければならない」というレギュレーションに抵触し、実際のレースへと出走することは叶わなかった。
4月24日に富士スピードウェイで開催されたモーターファンフェスタでは、日本国内で保存されている「ロータス88B」が登場し、わずかな時間ではあったがコースを走行。トークイベントで、ロータス88について解説したレーシングカーデザイナーの森脇基恭氏は「当時はグランプリを走ることができなかったから、クルマが走りたがっているんでしょう」と語っていた。