毎年のように就活生から受ける相談の一つが「ビジネスマナー」です。就活セミナーで講師から「正しいマナーを覚えておかないと内定が出ないぞ!」とばかりに教え込まれますから、社会経験のない就活生が不安に思うのは致し方ありません。
これまでの学校教育で「正解」を求められる訓練を積んでいる彼らは、自分が正しいマナーを実践できているかどうか不安を覚えているのだとは思いますが……。その内容は、こちらが脱力してしまうようなものなのです。
「面接会場への入室の際、ノックは何回したらいいですか?」
「椅子に座るときは、右からか左からかどちらが正しいですか?」
「お辞儀の角度をうまく使い分けるには、どう練習したらいいですか?」
マナーにこだわり過ぎて会話が不自然になる愚
この質問に対する答えは「そこまで気にする必要はない」の一言で終わりです。もちろんこちらの質問に対して「さあ」「別に?」「よく分かんないっス」などと乱暴に答えるのは論外ですが、普通のていねいな表現を心がければ十分です。
仕事に不可欠なマナーは会社に入ってから教えますし、仕事しながら覚えればいい話。採用の合否において、マナーの重要度は極めて低いのです。こんなことで合否を決めていては、まともな採用などできません。もしもそんな会社があったとしたら、不採用にしてもらった方がいいくらいに思っておいてください。
これほど重要度が低いにもかかわらず、マナー講座は就職支援のカリキュラムに必ずといっていいほど存在します。しかし、就活生を不必要に硬くさせるだけのマナーは、支援どころかむしろ悪影響にもなりかねません。
面接を進めていても、マナーを意識して硬くなりすぎることで人柄がよくわからなくなることもあります。面接でやたらと、お辞儀の角度や手を置く位置、言葉遣いなどが不自然であり続けると、会話がしにくくて仕方がないのです。
「キチョハナ」はむしろ印象が悪くなる
マナーを意識しすぎることの弊害を指摘すると、就活業界からこんな文句が出ます。
「マナーが不自然になるのは、練習が足りないからだ」
「合否のボーダーラインにいる人は、マナーで決まるかもしれない」
「もしも合否に関係ないとしても、守っておくに越したことはない」
しかし、マナーの習得に時間をかけるくらいなら、明らかに企業研究に時間を注いだ方がよいのです。特に就活の前倒しなどに影響で短期化する傾向にある状況において、マナーに時間をかける必要性は極めて低いと言わざるをえません。
マナー講師からすると、この事実を受け入れるわけにはいかないでしょう。むしろ内定のためにマナーが有効であることを証明するために「採用担当者に印象付ける方法」として指導している場合もあります。その典型的な手法が「キチョハナ」です。
「〇〇大学△△学部の××です。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございます」
毎年繰り返されるこの前置きに対し、採用担当者の本音は「名前を言うと印象に残るから内定につながりやすいなどという効果は全くありません」ということ。考えてみれば姑息な方法ですが、「簡潔に質問だけしてくださいね」とアナウンスしたのにキチョハナをされると、むしろ印象が悪くなるだけです。
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