今や大学生の2人に1人が奨学金を利用している。だが、返還の際にその負担に悩む人も多いのが現実だ。労働者福祉中央協議会が2月に発表した調査結果によれば、奨学金の借入総額は平均312.9万円。39%の人が返還の負担について「苦しい」と回答したという。
現役の大学生も卒業と同時に多額の借金を背負うと思えば気も重くなりそうだ。そうした中、企業が社員の奨学金の肩代わりし、人材獲得に繋げようとする動きが出てきている。
肩代わり制度で「人を大切にしている」と感じて入社する人も
ブライダル事業を展開するノバレーゼは、2012年から「奨学金返済支援制度」を設けている。奨学金を借りている正社員の勤続年数が5年と10年になった際、未返還分に対しそれぞれ100万円を上限に支給するというもので、2回あわせて最大200万円となる。
導入のきっかけは、社員の約3割が奨学金を受給していることが分かったこと。自身も奨学金を受けていた当時5年目の社員が、「新制度導入で優秀な学生の採用確保と社員のモチベーションアップにつながる」と役員会に提案し、実現に至ったのだという。
「奨学金の負担に困っている社員がいるなら、その問題をなんとかクリアにしたいなという思いもありました」(同社広報)
制度の導入が決まったことで、社員からは「嬉しい」「会社が社員のことを見てくれていることがありがたい」という声があがったそうだ。制度については、就職活動の説明会で必ず触れるようにしているという。
「この制度を含め、『人を大切にしている』と魅力を感じて入社された方もいます」(同)
2012年7月1日を勤続年数の開始基準日としているので、初支給となるのは2017年。区切りで支給する形にしたのは、「ある程度会社に対して社員が貢献し、そのタイミングで会社も還元する」という考えからだそうだ。現在、正社員は627人。そのうち48人が対象になる見込みだ。
ノバレーゼ以外にも、メガネの製造販売を手掛けるオンデーズや、WEB制作会社のGOSPA、 ソフトウェア開発を行うクロスキャット(2017年入社から)でも奨学金を肩代わりする制度が導入されている。
地方自治体もUIターン就職を後押しするべく肩代わり、鳥取県は180人募集
また、奨学金を肩代わりする動きは民間企業だけでなく、地方自治体でも進んでいる。総務省も奨学金を活用し、大学生が地方で就職して定着することを促している。
富山県の「富山県奨学金返還助成制度」は、理工系の大学院生・薬学部生のUIターン就職を図るために創設。同県に定住し、制度に賛同する県内の企業で10年間就業した場合、大学院の学費、または薬学部5・6年分の奨学金を全額肩代わりする。対象人数は30人程度。山口県の「山口県高度産業人材奨学金返還補助制度」も理系学生20人を対象に同じような助成を行っている。
理系学生で対象人数も少ないとなると、壁が高く感じそうだが、もっと間口を広げている自治体もある。鳥取県の「鳥取県未来人材育成奨学金支援助成金」は、県に就職を希望する学生や35歳未満の卒業生180人を対象に無利子の奨学金の場合は返還総額の2分の1、有利子の場合は4分の1を助成する。
業種は「製造業、情報通信業、薬剤師の職域、建設業、建設コンサルタント業、旅館・ホテル業」とある程度絞られているものの、学部の制限などはない。県の就業支援課の担当者は「この規模で助成を行っているのは他にないのでは」と話す。
同助成金制度は昨年度から始まり、昨年の認定者数は約100人。認定者には就職後、交付申請等を経てから助成金の支給が開始する。昨年の認定者からは「鳥取に帰ることは検討していたものの、今回の助成が後押しになった」「負担を助成してもらえるのがありがたい。鳥取のために頑張る」といった声が出ていたという。
現在、2015年度の認定対象者の募集を行っており、20人程度の応募が来ているという。8年間継続して勤務することが条件になっているが、奨学金の返還に悩んでいる人は一考の価値があるかもしれない。
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