2016年04月24日 10:31 弁護士ドットコム
選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることに伴い、新たに認められた高校生の政治活動参加について、愛媛県の県立高校全59校が2016年度から校則を見直し、事前の届出を義務づけた。文部科学省によると、学校外での政治活動について、都道府県内のすべての公立高校が事前の届け出を義務づけるケースは愛媛県が初めてだという。
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報道によると、愛媛県教委は2015年12月、県立高校の教頭などを対象にした研修会で、生徒の政治活動に関する校則を見直す場合の例を示した文書を配布。その中で、1週間前までに届け出る事項の中に「選挙運動や政治的活動への参加」を追加する変更例を示していたという。
県教委の担当者は弁護士ドットコムニュースの取材に、「県教委としては、事前の届け出を義務づけるよう指示したわけではなく、あくまでも各学校の判断に任せている」と話した。
このニュースについてネット上では、「18歳の選挙権は認めるようになったのに政治活動は制限するとか、アホくさ」「明らかに憲法違反」といった意見も見られた。高校生の政治活動参加の届出を義務づけることについて、どのように評価すればいいのか。春田久美子弁護士に聞いた。
率直に言って、ナンセンスだと思います。
総務省や文部科学省は何百億円もかけて、政治や選挙などに関する副教材を作成し、全国の高校生に配布しました。また、学校現場・教員に対しても、これからは「主権者教育」をしっかり行うように!と指導が始まるなど新しい動きが起こっています。こうした中で、今回、届け出の義務化がなされたということには、本気で主権者教育をしようと思っているのかしら?と疑わざるを得ません。
愛媛県は、届け出義務化を導入した理由を「安全管理のために必要」などと説明しているようです。しかし、そもそも生徒が校外でする活動についてまで、本当に先生方が「心配」したり、「安全を守ってあげたいから」と考えて義務化しようとしているのかな?と思いますし、余計なお節介とも思えます。
あえてポジティブな面を挙げるとすれば、皮肉的ですが、「危ないから行かない方がいいよ」と、「(生徒の)安全を守ってあげる」ために必要な情報を学校側が把握できることでしょう。
いずれにしても、届け出の義務化をするということは、結局のところ、生徒の政治信条や活動状況を学校側が情報として把握できることになるわけです。
そうやって把握した情報(デモに参加していた、とか、○○党の応援演説に行ったことがあるなど)を、もしかすると大学入試の際の内申書に記載したり、推薦をするかしないかの判断材料に使うかもしれない…。そういう怖さも払拭できません。
何よりも懸念するのは、「先生に届けないといけないのだったら、もう参加はしないでおこう…」「届け出た内容次第で、先生からどのように思われるかな?進学や就職などで何か不利益に扱われたりしないかな?」と生徒を萎縮させてしまうことです。
せっかく政治について興味・関心を持ち、主体的に社会・世の中に関わっていこう、という生徒の主権者としての真っ当な目覚めを一気に冷まし、事なかれ主義や政治的無関心の状態に引き戻してしまうのではないでしょうか。
届け出の義務化を校則にすることは、高校生にとって事実上の許可制につながりますから、主権者に認められるべき政治的活動の自由や思想・信条の自由、果ては内心の自由さえも脅かすものとして、違憲であると判断される可能性は相当程度高いと考えます。
高校生であっても18歳以上の国民として1人の主権者と認める以上、それを制限する高校側の根拠は、相当程度高い必要性と合理性がなければならないはずです。愛媛県の説明で果たして十分なのか?と疑問に思います。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
春田 久美子(はるた・くみこ)弁護士
OLから裁判官に転身し、弁護士を開業(福岡県弁護士会)。本業の傍ら、小中高校生や大学生などの教室に出向いて行う〈法教育〉の実践&普及に魅力を感じている。2010年、法務省・法教育懸賞論文で優秀賞、2011年は「法教育推進協議会賞」受賞。NHK福岡のTV番組(法律コーナー)のレギュラーを担当。
事務所名:福岡エクレール法律事務所