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嵐・松本潤主演『99.9』は法廷ドラマの名作となるか? 好調な滑り出しの第1話を検証

2016年04月24日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 先週から始まったTBS日曜劇場『99.9 刑事専門弁護士』。前回の同枠だった『家族ノカタチ』が初回から10%を下回り、さらに同じ時間帯のフジテレビにドラマ枠が復活したこともあって、それほど数字は伸びないだろうと思っていたが、結果的にここ2年の同枠のドラマでは『下町ロケット』に次ぐ15.5%と、好調な滑り出しを見せた。同じ松本潤主演だった月9ドラマ『失恋ショコラティエ』をも上回っていて、これはなかなかのヒット作となるのではないだろうか。


参考:デヴィッド・フィンチャーのターニングポイント、『ハウス・オブ・カード』の画期性について


 松本潤が演じる深山大翔というキャラクターは、刑事事件の弁護にこだわり、金にはまったく興味がない。彼のモットーは、依頼人の利益よりも真実を追求すること。タイトルにもなっているように、刑事事件は起訴されれば99.9%が有罪となり、裁判所も検察側の敷いたシナリオの確認するに留まるのであって、弁護士の仕事といえば少しでも酌量の余地を探して、刑罰を軽くすることを狙うのがほとんどである。それを踏まえると、全然弁護士らしくなのだけれど、どことなくドラマ的な設定で、一般層が思い描く弁護士の理想像なのかもしれない。


 一方で彼の上司となる、香川照之演じるヤメ検(検事を辞めて弁護士に転身)の弁護士・佐田は、勝つためには手段を選ばない企業法務のスペシャリストから刑事事件担当に転じる。夜道を安心して歩けないほど敵が多く、オフィスには自己所有の競走馬のゼッケンなどが掲げられているのである。実際JRAの馬主になるには1700万円以上の所得と7500万円以上の資産が必要なので、彼はかなり儲けていることが伺える。なんだか深山と佐田それぞれ両極端な印象である。


 物語の冒頭では、深山が片桐仁演じるパラリーガルと共に、研究データ窃盗事件の捜査をしているところから始まる。被告人の自宅から現場までの所要時間を調べ、検察側の証拠で提示されていた20分という時間内には実現不可能であることを明らかにし、無罪を勝ち取るのである。正直、それだけで検察側の証拠を覆すだけの根拠に成り得るのか、ということに若干の疑問を感じたが、この深山大翔というキャラクターの特徴を表すための導入としては問題ないだろう。


 真実を追求するためにあらゆる方法を使って疑問点を潰していく。以前このドラマを紹介した記事でも触れているように、そういった部分では検察を描いていた木村拓哉の『HERO』の久利生公平を彷彿とさせるのである(参考:嵐・松本潤は弁護士役をどう演じる? 『HERO』木村拓哉に匹敵できるか)。さらに、この深山という男の飄々とした雰囲気もなかなか面白く、難しい話になりやすいリーガルドラマを、ユーモラスな掛け合いでくだけさせる。肝心のところで寒々しいギャグを繰り出すのはどうかと思うが、最初に登場するギャグが、嵐の「a day in our life」の歌詞を思い起こさせる「時計は、ほっとけー」と来られたら、掴みとしては充分だ。


 第1話のメインセンテンスとなっているのは、ある大手企業の社長が殺害されるという事件である。被疑者は、その被害者の会社との契約を打ち切られた小さな運送業者の社長。罪名は住居侵入と殺人、ならびに銃刀法違反である。赤井英和演じる被疑者の男性は、容疑を否認しているという。接見に行った深山は、男性に事件の概要を訊くよりも先に、生い立ちを訊いて距離を縮めようとする。ほぼ起訴は確実となっており、その重要な証拠が被疑者の事務所で指紋のついた凶器のナイフ等が発見されており、防犯カメラの映像のみである。


 “おでかけ捜査”を始めた深山が疑問に思った点は、まず防犯カメラに全く顔が映っていないということ。事務所内に現場を再現し、実証した結果、カメラの位置をすべて知っていないと不可能であると明らかにする。また、事件当日近隣で火災があって、消防車が来たことに気付かないほどに眠っているということにも疑問を抱く。被疑者は几帳面にもピルケースに入れた高血圧の薬を飲んでいるということから、なんらかの形で睡眠薬を飲まされていたのではないかと勘ぐるのである。


 さらに、被害者の妻が事件の直後に被疑者を目撃したという証言が登場し、動機と物的証拠、状況証拠のすべてが揃うわけで、完全に不利な立場となるのだ。もちろん佐田は本来の刑事事件弁護の方法論である、「契約打ち切りの不当性を説いて情状酌量を狙う」策を提案するが、深山は受け入れようとせずに、事実の追求に努める。この時点でも、被疑者(すでに起訴されていたから被告人になったのだが)は否認しているということが、弁護側からしてみれば大きな救いである。起訴された刑事事件は99.9%有罪ではあるが、否認事件に絞ると有罪率は99.5%に下がるので、深山が求めるものは0.1%の中ではなく、0.5%の中にあるのだ。


 ここまでが第1話の起承転結の「承」の部分であるが、その後に待ち受ける解決編までの繋ぎに、松本潤が料理をするという場面が登場する。前述のユーモラスな掛け合いに加えて、松本潤の料理、あとは榮倉奈々演じる立花のプロレスネタと、少しばかり緩めすぎとも思えるほど、頻繁に小ネタを挟んでくるのだ。立花が嫌味な同僚弁護士に対して「レインメーカーしてやりたい」と言うのに対して、「映画? コッポラの」と返す辺りは、リーガルネタとプロレスネタを掛け合わせたジョークとして、この立花のプロレスオタクという設定が活かされているように思える。


 しかしながら、ドラマの要となるはずの法廷シーンには疑問を抱かざるをえない。被害者の妻の目撃証言を覆すための証拠の提示や陳述のテクニックは悪くないし、証言台に立つ被害者の妻が次第に感情的になっていく様はいかにもドラマらしい。しかし、この法廷で反証されるのは目撃証言だけで、他の物的証拠に関して覆るだけの反証が描かれていない。もちろんそれだけで無罪判決が出されるなどということはないのだけれど、その代わり突然真犯人を暴き出してしまうのである。


 あくまでも裁判は、被告人が有罪か無罪かを決める場所である。事実を明らかにすることがドラマとして必要であれば、裁判の後にすればいいことである。すべてを覆すための証拠を提示して、無罪を勝ち取るというほうが、多少非現実的であっても痛快であって、真犯人を大々的に発表して、被告人の無罪を証明するというやり口は、法廷劇としては非現実的ではないか。


 ただ、クライマックスで奥田瑛二演じる検事正と、深山との確執があることが匂わされ、今後この二人の過去が描き出されたり、弁護士と検察のバトルが展開するのであれば、よりリーガルドラマらしくなってくるという期待は残っている。次回は風間俊介演じる青年の起こした殺人事件について、正当防衛か否かを証明する物語のようで、これは非常に興味深いエピソードになるのではないだろうか。(久保田和馬)