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シリーズ最高のヒットに向けて『名探偵コナン』ロケットスタート 実は支持層は20代の大人?

2016年04月21日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 人気シリーズ『名探偵コナン』の劇場版20作目『名探偵コナン 純黒の悪夢〈ナイトメア〉』が348スクリーンで公開されて、先週末の土日2日間で動員93万3781人、興収12億915万8900円というとんでもない数字を記録した。シリーズ過去最高の初動であることは言うまでもなく、動員、興収ともに今年に入ってから全作品の中で圧倒的にナンバーワン。昨年末に『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』と同日公開されて、動員ランキングで1位を制した『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』の公開週の土日2日間が動員97万4557人、興収10億5780万8800円を記録だといえば、この数字のすごさがわかるだろう。そして、動員でそれより4万人以上少ないものの、興収では1億5000万以上高いことが、この作品の本当の支持層がどこにいるのかを示している。


参考:デヴィッド・フィンチャーのターニングポイント、『ハウス・オブ・カード』の画期性について


 1997年4月に劇場版第1作『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』(累計興収約11億)が公開されてから19年。以来、毎年1本のペースでコンスタントに制作されて(コラボ作『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』が公開された2013年のみ年2本公開)、時代によって多少の上下があったものの基本右肩上がりで興収をアップさせてきた同シリーズ。これまでの最高興収は昨年4月に公開された前作『名探偵コナン 業火の向日葵』の44.8億。今回の『純黒の悪夢〈ナイトメア〉』は、実にその前作の初動興収の138.2%。シリーズ作品の興収が全般的に「初動型」となっているのがここ1、2年の傾向ではあるが、それにしても驚異的な数字である。


 そして、観客の中心層となっているのは、まさにその19年間、「コナンとともに育ってきた」20代の観客なのである(調査結果によると約40%)。筆者は連日の試写室通いのほかに、週に1回は劇場で映画を観るようにしているが、ここ数ヶ月、シネコンで映画を観ると必ずといっていいほど『名探偵コナン』の予告が流れていた。ご存知の人もいると思うが、シネコンにおいて流す予告というのは、その観客層を綿密に想定して作品が選ばれている。実際、基本大人向けの作品を観る自分は、『妖怪ウォッチ』や『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』などの予告にはそれほどの頻度では出くわさなかった。『名探偵コナン』シリーズは、今や「大人が観ても楽しめるアニメシリーズ」ではなく、「子供が観ても楽しめるアニメシリーズ」なのだ。


 『名探偵コナン 純黒の悪夢』の脚本は、かつて『相棒』シリーズの脚本家の中でもエース級の活躍をしていて、現在も『科捜研の女』シリーズの脚本家の中で中心的な役割を果たしている櫻井武晴。特に刑事モノや法廷モノにおける専門的な描写に定評のある櫻井武晴が『名探偵コナン』の脚本を手掛けるのは、2013年の『名探偵コナン 絶海の探偵』以来これで3本目となる。映画的な興奮やスペクタクルは別にして、少なくとも物語の精度という点では、もともと完全に「大人向け」と言っていい作品なのである。人が「日本映画はアニメばかり」と言う時、そこには言外に「日本映画は子供向けの作品ばかり」というニュアンスが入り込むことが多い。しかし、そろそろその認識は改めた方がいいのかもしれない。(宇野維正)