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黒瀬圭亮と上木彩矢が語る、UROBOROSが目指すもの「ワクワク感がエンタテインメントの真髄」

2016年04月20日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

UROBOROS【左から黒瀬圭亮、上木彩矢】(写真=外林健太)

 黒瀬圭亮(Composer, Manipulate)を中心に、上木彩矢(Vo)、大村孝佳(G)、中村泰造(B)、笹渕啓史(Dr)というさまざまなジャンルで活躍する凄腕ミュージシャンたちによって結成されたプロジェクト・UROBOROS(ウロボロス)。2015年9月に発表した1st EP『ANOTHER ARK』に続く待望の新作『ZODIAC』が、4月20日ついにリリースとなった。ダークファンタジーをテーマに展開される楽曲の世界観は、前作以上に攻撃的なヘヴィサウンドで表現。特に今作ではヴィジュアル面からも大きなこだわりが感じられ、アートディレクションにDIR EN GREYやthe GazettEなどで知られる依田耕治、リードトラック「ZODIAC」のMV監督にBABYMETALやkalafinaなどを手がける多田卓也を起用するなど、コンセプチュアルな作品に仕上がっている。


 リアルサウンド初登場となる今回のインタビューでは、メンバーの黒瀬圭亮と上木彩矢に結成から現在に至るまでの経緯、そしてこだわり抜いた『ZODIAC』の魅力、4月29日に控えた初のワンマンライブ『THE ARK OF ZODIAC』についてじっくり話を聞いた。(西廣智一)


(関連:Mardelasが示したヘヴィメタルとバンドの未来 キネマ倶楽部ワンマンをレポート


■「まだ作り終えてない、作り足りてない」(黒瀬)


──最初に、UROBOROS結成の経緯を改めて聞かせてください。


黒瀬圭亮(以下、黒瀬):僕が前にやっていた音楽プロジェクトが終了して、自分が作りたい音楽はもう作り終わったのかなと自問自答したときに、「まだ作り終えてない、作り足りてない」と再確認できたので、それを作るためにUROBOROSを結成しました。で、ダークファンタジーというテーマを決めて、それに沿った世界観の作品作り、アーティスト活動をしていけたらなと思ったんです。


──そこから、そのテーマに合ったメンバーを探していこうと。


黒瀬:はい。まず笹渕(啓史)さんに声をかけて。もともと知り合いだったんですけど、酒の席で「こういう音楽をやりたいんです、こういうサウンドでこういうものを作りたんです、どうかドラムを叩いてくれないですか?」とお願いしたら、ちょっと悩んでましたけど「いいよ」と言ってくれました。で、グルーヴ感をすごく大切にしたいので、笹渕さんとリズム隊として一番合う人をと考えて(中村)泰造さんにお願いして。もうこの2人が揃った時点でバンドとしては相当強力なので、そこに乗る上モノ……ギタリストやボーカリストをどうしようかと考えたときに、まず大村くんを思いついて。以前、大村(孝佳)くんがLIV MOONでギターを弾いていたのをライブで観たことがあって、そのときから強烈な印象があって、いつか一緒に音楽制作をできたらいいなと一方的に片思いしていたんです。そこでぜひ力を貸してほしいとお願いしたら快諾していただいて。さらにボーカルに関しては最初から女性ボーカルにしようと考えていて、このメンバーに引けを取らずに中心に立って表現できるディーヴァとなる人って一体どんな人がいるんだろうと悩んでいたら、たまたまポニーキャニオンのディレクターさんから上木彩矢という逸材がいると聞きまして。


上木彩矢(以下、上木):ふふふ(笑)。とんでもないです。


黒瀬:ホントにホントに。もちろん僕も上木彩矢というアーティストの存在は知ってましたし、どういうサウンドをやっているのかも知ってました。そこでいろんなタイミングが重なって、一緒に活動することができたんです。


上木:私はちょうど3年ぐらい音楽活動を休止しているときで、その間ミュージカルとか舞台をやらせていただいてたんです。で、そろそろ音楽をやりたいなぁと思っていたときに声をかけていただいたので、ちょっと運命的なものを感じまして。サウンド的にもこれから挑戦してみたいと思っていたようなものだったので、これはもうぜひともとすぐにお返事をしました。


■「ワクワクを感じる瞬間がエンタテインメントの真髄」(黒瀬)


──皆さんそれぞれいろんなプロジェクトやバンドに参加している、忙しい方々ばかりじゃないですか。そういう人たちのタイミングが合うというのもまた奇跡ですよね。


上木:そうですよね。


黒瀬:合うというか、合わせるしかない感じなんですよね(笑)。


──それにしても最初にこのメンバーでUROBOROSを始めると知ったとき、正直僕はそのサウンドが想像できなかったんですよ。


黒瀬:そうだと思います(笑)。なんだかんだいって、それぞれジャンルがちょっとずつ違いますから。


──さらにダークファンタジーというコンセプトを聞いて、どういうものが出来上がるのかとワクワク感は強まりました。


黒瀬:そのワクワクを感じる瞬間というのが、エンタテインメントの真髄というか。好きなマンガや映画、ゲームの発売日を待つじゃないけど、そのワクワク感みたいなものを少しでも味わってもらえたら、それは作り手として嬉しいですよね。


──UROBOROSの楽曲はシンフォニックメタル寄りのサウンドですけど、メロディ含めてとっつきやすさ、聴きやすさが強くて。


黒瀬:それは本当に細かいところにまでみんなが気を遣ってくれてるからこそで。音作りやアレンジ、演奏もそうですし、歌ってもらうときもサビに入るまでのワンワードまで考えて歌詞を書いてもらっているので、そこらへんも相まって、いい意味でキャッチーさとマニアックさが混在できてるんじゃないかなと思います。


──おっしゃるように、一聴してマニアックなサウンドなのに実はポピュラリティもしっかり存在する、幅広い層の音楽ファンが楽しめる作品になってますよね。歌詞の話題が出ましたけど、上木さんは作詞の際に歌詞のテーマや内容について黒瀬さんと共有しているんですか?


上木:黒瀬さんとは曲をいただいた段階で全体のイメージをやり取りするんですけど、そこから先は私のフィルターを通して物語を作らせてもらってます。


──UROBOROSの楽曲は英詞と日本語詞が混在していますが、そこは意図的なんですか?


上木:はい。日本語って素晴らしいじゃないですか。ひとつの単語にいろんな意味があるし響きも美しいと思うんですけど、それとはまた逆に、表現のうえでは英語にも英語の良さもあって。なので曲によって両方を使いこなせるほうがもっといいものが作れるんじゃないかと思うんです。UROBOROSではそういった使い分けをして、サウンド的にも歌詞の世界観的にもよりいいものを追求していきたいということが一番の理由ですかね。もちろんそこには、海外の方にも聴いてもらいたいという意味も込められているんですけど。


──英詞で歌っている中に急に日本語詞が入ってくると、ハッとさせられるんですよね。


上木:そうですよね。でもレコーディングは大変なんですよ。英語と日本語って口の開け方とかアゴの使い方とかがまったく違うので、今もこの前のレコーディングで噛んだ舌が治ってなくて(笑)。しかもネイティブに近づけるために英語の発音を頑張りすぎたために、「FROM HELL」のレコーディングでは「日本語の発音がおかしいんだけど?」って言われてしまいましたから(笑)。


■「機械で作ったメロディを私の喉でどう表現するか」(上木)


──いよいよ2nd EP『ZODIAC』がリリースになりました。前作『ANOTHER ARK』以上に濃い内容に仕上がりましたね。


黒瀬:そうですね。最初に『ANOTHER ARK』を作ったときは、どこまで振り切ったらいいのかという若干の迷いが僕の中にあって。そこの迷いがあったからこそ、『ZODIAC』ではちょうど真ん中じゃないけど、振り幅としての中心点、基本となるものを作ろうと。実際、その狙いどおりの作品ができたと思ってます。それと、『ANOTHER ARK』と『ZODIAC』はストーリーがつながっているんですけど、『ZODIAC』は起承転結の「承」と「転」の間にある作品なんです。映画でいったらこれからどんどんドラマチックな場面へと向かっていく、その入口かな。そこをパワーで攻めつつ表現できたかなと思います。


──オープニングの「FROM HELL」からかなり攻めてますものね。


上木:攻め攻めですよね。今回はバラードらしいバラードもなく、唯一最後の「Lunar eclipse」がミディアムで聴かせる感じってだけですし。


──今作は特に、メロディアスだけど歌うのがかなり難しそうな曲ばかりですね。


上木:大変ですよ(笑)。これはよく言うんですけど、「黒瀬さん、一回歌ってみよっか?」ってくらい、メロディが高くなったと思ったら急に低くなったりするし、流れも複雑で。黒瀬さんが機械で作ったメロディを私の喉でどう表現するかというところは、ちょっと職人的な感じでもあるので楽しくもありました。


──そうか、専任で歌っている人の発想ではないメロディばかりってことですもんね。


上木:そうなんです。でも、だからこそ黒瀬さんのクセやセンスが散りばめられたこのメロディの魅力を、自分がボーカルとして最大限に引き出せたらなと思うんです。


──実際、これだけ自然に聴かせてしまうわけですから。


黒瀬:本当にすごいなと思います。今、僕がUROBOROSのために楽曲を書くと、頭の中で流れている歌メロはもう完全に上木が歌っているんですよ。


上木:なのに、なんでどんどん難しくなってるの(笑)?


黒瀬:うん、できるんじゃないかなと思って。


上木:ビックリするわ(笑)!  次の作品ではどうなっちゃうの!


黒瀬:(笑)。曲を書くうえではすごく無機質なものを作っているものの、歌が入るときっとこういう感じに命が宿るんだろうなってイメージできるから、僕の中では歌メロがだんだんと上木彩矢仕様になってきてるんですよ。


上木:そのぶんやりがいは大きいですし、音楽を本当に作っているなと実感できます。私はソロシンガーとして活動してきたので、今まで音楽を作るというよりは歌うという感覚のほうが強くて。でも今はこのプロジェクトの一員として音楽制作に参加できてるなと充実感があるんです。


──そんなUROBOROSの楽曲ですが、全体的にヨーロッパ調のゴシックな香りがしつつ、メロディや演奏、アレンジの作り込みという部分からは日本人じゃなきゃ作り得ない要素が感じられるんですよ。


上木:確かにそうですね。


黒瀬:いろんな性格の人がいるんですけども、このプロジェクトに関しては一貫して雑な人は誰ひとりいないんですよ。すごくはっちゃけてる人もいれば、お酒が入ったらダランダランになっちゃう人もいるんですけど、ことさら音楽になると誰ひとり妥協しない。それだけ音楽が好きで、真面目なんですよね。その真面目さという部分が日本人らしさとして表出してるのかもしれないですね。


■「少数派意見の中にある、もっとも重要なことを伝えたい」(上木)


──歌詞は上木さんがすべて手がけています。UROBOROSで作詞するうえで心がけていることは?


上木: 今作ではUROBOROSが音楽を通して何を伝えたいのかということを改めて考えて。少数派意見の中にある、もっとも重要なこと……憤りとか葛藤とかに立ち向かっていく姿勢を伝えていきたいと私自身は思うんです。そこは黒瀬さんが持つUROBOROSの世界観にも合うと思いますし。今作の全楽曲に関して一貫してるところはそこですね。


──最大公約数が共感できる歌詞を書くよりは、その中のひとりでもふたりでも響くものを書く。だけどそれって、本当はみんなが持ってる感情なんだよと。


上木:まさにそのとおりです。私自身、今年で30歳になるんですけど、人生の半分音楽をやらせていただいていて、自分が感じた悔しかったこととか自分自身の生きざまとか、そういうものを歌詞で伝えていきたいし歌っていきたいので、そのリアルさは大事にしたいなと思います。


──「FROM HELL」は仮名遣いが独特ですよね。カタカタを多用することでいろんな解釈ができるし、イマジネーションを掻き立てられるんです。


上木:特に「FROM HELL」では人ではない生き物をイメージしたので、文字を視覚として見る上で楽しんでもらうためにも、途中でカタカナ表記を入れようと。これもひとつの表現方法として工夫してみました。


──その歌詞を、この難しいメロディで表現していくと。


上木:いいんです、次は黒瀬さんに歌ってもらうんで(笑)。


黒瀬:……だんだん現実味を帯びてきてますが(笑)。


──次の作品でメロディがどう変わっているかで、そのへんの影響を察することができそうですが(笑)。


上木:どうしよう、すごいシンプルになってたら(笑)。


■「細かいところにまでこだわって作ってるからこそ、ちゃんと聴いてもらいたい」(黒瀬)


──今作はヴィジュアル面からも前作以上のこだわりが感じられます。


黒瀬:そうですね。今回のヴィジュアルをどうしようかと考えたときに、僕の中ではもっと激しいものをやりたいという思いが最初からあって。ただ、果たしてそれをみんなが受け入れてくれるのだろうかという葛藤もあったんですけど、逆に上木のほうからもっと強烈なことをやろうと話を振ってくれたんです。


上木:今回のこの感じがずっと続くわけではなくて、『ZODIAC』という作品の世界観がこうだねってことで。


黒瀬:「人間やめよう」ってね。


上木:はい、「UROBOROS、人間やめました」って(笑)。


──ジャケットのみならず、アー写やMVも含めて、統一感があってめちゃめちゃカッコイイと思いましたよ。


2人:ありがとうございます!


上木:本当に攻めましたからね、今回は。


──ジャケットも初回盤と通常盤でここまで変えるんだ! とビックリしましたし。


上木:通常盤、すごいですよね。さすが依田さんですね。めちゃくちゃ大好きです。


黒瀬:今回依田さんにお願いしたのにも僕なりに思いがあって。ダークファンタジーを作るというところで、「ファンタジー」ということは要するに現実にないものを作りたい、現実にないものをどうやったら作れるかというとイラストかコラージュになるんです。その中でコラージュアーティストの一面を持つ依田さんに思いきって「こういうものを作りたいんです」と伝えたら、わりとイメージしやすいとおっしゃってくださったので、だったら依田さんにお願いしようと決めました。出来上がった作品は本当に素晴らしかったですね。


──作品の持つダークさ、凶暴さがこのアートワークを見た瞬間に想像できますし。


黒瀬:絶対にショッキングなものが入ってるんだろうなっていうのは、想像できますよね。


──あと今作ではもうひとつ、初回盤のみ高音質CD「UHQCD」を導入したり、映像作品をBlu-rayに収録したりと、音質や映像に対するこだわりも感じられます。


黒瀬:こだわりを持って作ってるからこそ、細かいところまで楽しんでもらいたくて。UROBOROSの音は広がりや深みがあるので、どこよりもいい音で聴いてもらいたいという思いもあって高音質盤を導入してみました。


──UROBOROSのサウンドには低音の効いたバンドサウンドと同時に、ストリングスのように繊細な音も入っているから、そのレンジはめちゃめちゃ広いですものね。


黒瀬:人間の耳ではきっと聞こえないであろう音まで含め、できるかぎり広いレンジで聴いてもらいたいです。


■「体感型のアトラクションに乗るような感覚のライブに」(黒瀬)


──そして4月29日には初のワンマンライブ『THE ARK OF ZODIAC』も行われます。


黒瀬:ライブで表現したいことが僕の中には2つあって。『ZODIAC』には太陽の通る道を超えていく、その先にあるものを見つけにいくというテーマがあるんですけど、そのためには『ANOTHER ARK』に出てくる箱舟に乗っていくという、2つの作品にはそういうつながりがあるので、そこをうまく表現したセットリストを作るのがひとつ。あとは、単純に体感型のアトラクションに乗るような感覚のライブにしたいなと。サウンドが命ではあるんですけど、会場全体の揺れだとか音の広がりだとか雰囲気だとか、そういうのも含めトータルでダークファンタジーの世界観を楽しんでもらえるような仕掛けを作りたいと思っています。


上木:なにせ今回はサポートでLedaさんにも入っていただいて花形ギタリストが2人になるので、そこもひとつ見どころじゃないかなと思います。


──今回は1本のみですが、ライブは今後も機会があるごとに積極的にやっていってほしいですね。


上木:イベントや対バンもそうですし、後々にはツアーも想定して、曲をたくさん作っていきたいです。


──ちょっと気が早い話ですが、次の作品がどうなるのか楽しみです。


上木:実はもう作り始めていて(笑)。


──えっ、そうなんですね。


黒瀬:『ANOTHER ARK』でこうきて、『ZODIAC』でこうきた、じゃあ次はどうなるんだ? とワクワクして待っていてほしいですね。


上木:『ANOTHER ARK』や『ZODIAC』のイングリッシュバージョンを、海外に配信しようという話もありますし。


黒瀬:ようやく体制が整ってきて、お互いのこともよくわかってきた。それならもっと曲を増やして、より洗練されたものを作っていったら、行けるところまで行けるんじゃないかと思うんです。でも、まずはこの『ZODIAC』をより多くの人に聴いてほしい。ヘヴィな作品だけどメロディアスですし、今までメタルを聴いたことがなかった人にも歌モノとして楽しんでもらえたら嬉しいです。