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松田翔太、父・松田優作の“ハードボイルド”を継承するか? 『探偵物語』から『ディアスポリス』へ

2016年04月20日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)リチャード・ウー,すぎむらしんいち・講談社/「ディアスポリス」製作委員会/ (c)すぎむらしんいち/リチャード・ウー/講談社

 ハードボイルド漫画『ディアスポリス-異邦警察-』が、松田翔太主演によりTBS系で連続ドラマ化された。夏には映画化も決定している本作は、松田優作主演のドラマ『探偵物語』を彷彿とさせ、いまでは希少な存在となったハードボイルドの雰囲気が漂う世界を描いている。


参考:チャラン・ポ・ランタン、松田翔太主演ドラマ『ディアスポリス‐異邦警察‐』主題歌に


 昨今の男の代名詞となるキーワードは「草食系」や「塩顔男子」など、積極的でなかったり、中性的で美しい男子であったりと、「男臭くなく、優しくていい人」がトレンドで、かつては憧れの対象だったはずの「ハードボイルド」な男というのは、現実世界だけでなく、ドラマや映画の世界でも絶滅危惧種になりつつある。だがしかし、ハードボイルドのアイコン的役者である松田優作の息子・松田翔太が、現代にそれを蘇らせるというのだからとても興味深い。


 名優・松田優作と言えば、「なんじゃこりゃ! 」の殉職シーンで有名な『太陽にほえろ! 』のジーパン刑事が真っ先に思い浮かぶ。しかし、そのほかにもハードボイルドの代表作と呼ばれる遊戯シリーズや『蘇える金狼』などに出演し、感情に流されず目的達成のためならば女性にも暴力を辞さない冷酷非情さを持つキャラクターとして一世を風靡した。


 腕っ節は強いが内面にはナイーブな感情が流れ、狂気と正気が同居するニヒルさを持っている役柄が男心をくすぐり、なにより正義のためだけに動いているわけではないアウトロー感が当時男達の憧れを加速させた。現在も語り草になっている私生活での武勇伝や、映画『野獣死すべし』の役作りで奥歯を4本抜き、身長を低くしようと足を切ろうか悩んだという驚きの逸話があるなど、その公私の境目がはっきりしないところもまた、世が彼に抱く幻想を色濃くしたのである。


 さて、各方面に影響を与えた名作『探偵物語』について触れよう。松田優作扮する私立探偵の工藤俊作は、かつてのハードボイルドキャラに比べ、軟派な感じがあり、特徴的なパーマに個性的なサングラスをあわせてスーツ姿でベスパに乗るなど、ビジュアル的にもコミカルな要素が目立つ。しかし、その強がりの裏側にはこだわりと、人の弱さや悲しみを抱えた美学が裏打ちされ、ハードなところはとことんハードに振る舞い、しっかりとメリハリをつけている。特に、最終回に向けての工藤がいる世界の破滅っぷりはまさにハードボイルドそのもの。それまでになかった新しいハードボイルド像を作り上げた作品だからこそ、いまだにリスペクトを集め、熱狂的なファンが存在するのだろう。


 一方、松田優作の次男である松田翔太は、ドラマ『花より男子』(TBS系)や『LIAR GAME』など、デビューの頃からクールだけど実はやさしいという役柄が多く、松田家の中では品の良さと清潔感があるイメージで、優作のようなハードボイルドとは少し違うクールさを持っていた。そのイメージが変わってきたのは、2011年のドラマ『ドン★キホーテ』(日本テレビ)からだろう。武闘派ヤクザの親分(高橋克実)と心が入れ替わるひ弱な児童相談所職員の役を演じ、怒鳴って凄むところやなにげない仕草などが、『探偵物語』の松田優作と重なって見えた。その後、2012年にはよりコメディ色を強めた『アフロ田中』に出演するなど、松田翔太の演技の幅もますます広がりをみせていく。そのほか、ドラマ出演だけでなく、マンダム「ギャツビーシリーズ」やau「三太郎シリーズ」のCMなど、松田優作とは路線が違うスタイルで着々とキャリアを積んで行き、「2014年度CM好感度ランキング」の男性部門で第1位を獲得するなど名実共に現代を代表する役者の一人となった。


 そんな松田翔太が30歳という節目に、もし映像化することがあれば自分が主人公を演じたいと熱望していた『ディアスポリス-異邦警察-』を演じることになった。東京にいる密入国外国人が、自分たちを守るために秘密組織「異邦都庁(通称:裏都庁)」を作り上げ、そこにある異邦警察「ディアスポリス」に所属するただ一人の警察官・久保塚早紀の活躍を描いた物語だ。久保田は原作者が松田優作をイメージして作ったキャラクターだそうで、無国籍でアンダーグラウンド、雑踏な街、雑居ビルの屋上、オシャレなファッションと部屋の小物、そして無法感……ビジュアル的にも完全に『探偵物語』に寄せていっていると言って間違いないだろう。


 ドラマを見る限り松田翔太演じる久保塚のキャラは、世界十数ヶ国の言葉を話し、警察の質問には歌でとぼけ、たばこがよく似合うクールでつかみどころがない男。まだ物語は序章にすぎず、キャラもどう転がるか分からないが、原作を知る限り腎臓売買や整形など、ハードでグロい展開になると予想される。助手となる浜田謙太とのコミカルなやりとりには、松田翔太が今まで培ってきたコミカルな要素も充分に活かされており、今のところそのノリは、松田翔太が高校生頃に好きだった言う永瀬正敏主演の『私立探偵 濱マイク』に近いのかも知れない。


 『探偵物語』を始めた松田優作の年齢も同じ30歳、何かと運命を感じるこの作品。新しいハードボイルド像を松田翔太がどう描いてくれるのか。これを機に、松田優作の過去作を見てハードボイルドとは何かを学べば、きっと『ディアスポリス』がより楽しめるはずだ。(文=本 手)