現チャンピオンのルイス・ハミルトンにとって、中国GPは相性の良いサーキットだった。F1にデビューした2007年から2015年まで9回のレースで4勝を挙げ、2013年から3年連続でポールポジションを獲得していた。
ところが今年の中国GPは、呪われたかのような週末となった。まずグランプリが始まる前に、ギヤボックスを交換することが決定。これは前戦バーレーンGPのスタート直後にバルテリ・ボッタスと接触した際に、目に見えないダメージを負っている可能性を考慮したリスク回避の選択だった。現在ギヤボックスは6戦連続での使用が義務づけられており、違反した場合はグリッド5番手降格となる。もし今後6戦連続で使用できなくなる可能性があるのなら、5番手降格のペナルティを受けても影響が少ない、オーバーテイク可能な場所で交換しておこうという作戦だった。
だが、ハミルトンに新たな不運が襲いかかる。予選Q1でのMGU-Hトラブルだ。パワーユニットのダメージを最小限にとどめるため、ハミルトンはアタックを完了することなく、ただちにピットイン。ノータイムに終わり、2014年ハンガリーGP以来の予選Q1落ちとなった。
メルセデスはハミルトンのパワーユニットを土曜日の夜に、ESとCEを除くユニットごと2基目に交換。イギリスのメルセデスHPPに送って、トラブルが起きたMGU-H以外にダメージがないかどうかを調査中だ。
パワーユニットを交換したハミルトンには、マシンのセッティングを変更し、スタート直後の1コーナーでの混乱を避けて、ピットレーンからスタートするという選択肢もあった。だが、ハミルトンは「8秒のロス」を嫌って、最後尾からスタート。それが3度目の悲劇を生む。1コーナーまでに4台をパスしたハミルトンだったが、前方で発生したクラッシュのあおりを受けて、後方集団も大混乱。コースに復帰しようとしたキミ・ライコネンを避けるために急な進路変更を行ったフェリペ・ナッセと衝突したハミルトンは、フロントウイングが完全に脱落するダメージを受けて1周目にピットインを余儀なくされ、再び20番手へと脱落する。
レースは4周目にセーフティカーが導入され、後方集団のハミルトンにも上位に進出するチャンスは残されていた。ところが、フロントウイングが脱落した際に、フロアにダメージを与えていたため、ハミルトンのマシンはダウンフォースを大きく失っていたのだ。
「マシンの感触としては(ボッタスと接触した)バーレーンのときと似たような感じだった」と、ハミルトン。バーレーンGPでは1周につき約1秒ロスするほどペースダウンしていたが、バーレーンに比べて高速コーナーが多い上海では、ダウンフォース不足による影響が大きかった。レース後半にウイリアムズ勢を抜きあぐねていたのは、そのためだ。
「フロアにダメージを負っていなければ、もっとポジションを挽回できていた。おそらく4位は可能だった」とメルセデスのトト・ウォルフは言う。結局7位、6点に終わったハミルトンは、4位で得られる12点と比べると半分のポイントを失ったことになる。レース後の会見に現れたハミルトンは、最初かなり落ち込んでいた。ところが、記者たちとポイントをめぐるやりとりをしているうちに笑顔が戻ってきた。
「たくさんオーバーテイクもしたし、まあ今日は良しとしよう。でも、これで(ロズベルグとの)差は50点ぐらい開いたかな?」
記者たちは「いやいや、36点差だよ」と訂正する。
「えっ、36点差? だったら、そんなに悪くないな。安心したよ。てっきり50点ぐらい開いたと思っていたから。うれしい誤算だ(笑)」
ロズベルグに開幕3連勝を許したハミルトンだが、実際の点差を聞いて笑顔が戻ってきた。「まだ3戦が終わっただけ。あと18戦も残っているよ」と、中国GPの週末を締めくくった。