トヨタ・グランプリ・オブ・ロングビーチは、佐藤琢磨が2013年に日本人ドライバーとして初のインディカー・シリーズでの優勝を飾ったレースだ。琢磨とAJフォイト・レーシングは、そのゲンがいいコースで今季初となるトップ5フィニッシュを達成した。
予選順位は8番手だった。プラクティスは金曜に45分間が2回と、土曜日の予選前に同じく45分間で一度行われたが、琢磨はセッティングを変更してもクルマが思ったようなものに仕上がっていかず、ストレスを募らせていた。
こういう状況でも琢磨は徹底的に粘る。プラクティス3回で得られた彼と、チームメイトのジャック・ホークスワースのデータをすべて見直し、エンジニア集団と新セッティングを考案したのだ。当然、そのセッティングでの実走行はなしに、予選でブッツケ本番となるワケだが、プラクティスまでの走行で得た情報を基に、理論的な対策を施した新セッティングは思惑通りにマシンのフィーリングを向上させた。
水を得た魚のように、琢磨は予選第1セグメントのグループ1を走行。開幕戦では果たせなかったセグメント2進出を果たした。勢いに乗ってセグメント2も乗り切りたいところだったが、琢磨の今シーズン初のファイアストン・ファストシックス進出はならなかった。
セグメント2ではインディカーの計時システムにトラブルが発生。全員が2周ほどを走った後にラップタイムをリアルタイムで知ることができなくなった。12人のドライバーたちに残された道は、休むことなくアタックを続けることだけだった。
10分間の予選が終わると、ようやくタイムモニターが息を吹き返した。そして、琢磨は8番手にランクされていた。コースを走っていたドライバーだけでなく、ピットにいるエンジニアたちも途中からは誰がどれだけのラップタイムで走っているのかがわからかった。琢磨はベストとなるはずだった最終ラップで、「前につっかえて少しだがアクセルを緩めた」と悔しがっていた。
決勝日もロングビーチは快晴。朝のウォームアップで琢磨は、マシンが予選の時以上に好感触になっていることを知った。予選時にはブラックタイヤ(ハードコンパウンド)でのパフォーマンスに難があったが、その点が改善されたのだった。
午後2時、摂氏28度という暑さの中で1.968マイルのコースを80周するレースにグリーンフラッグが振り下ろされた。スタートを得意とする琢磨だが、混雑したターン1での無理強いは控え、8番手のポジションをキープした。
今回はチーム・ペンスキーの4人全員が珍しく新品のレッドタイヤ(ソフトコンパウンド)でスタート。トニー・カナーン(チップ・ガナッシ)もそうしていた。温まりの速いタイヤを使ってでも序盤の順位キープに拘りたかったということだろう。
琢磨は従来からのセオリー通りであるユーズド・レッドでスタート。予選7番手だったジェイムズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン)もユーズドレッドでスタート。琢磨は彼の後ろにピタリとつけて1回目のピットストップまでを走った。
最初の順位変動がここで起きた。AJフォイト・レーシングのクルーたちが迅速かつ確実なピット作業を施し、琢磨をヒンチクリフの前へとピットアウトさせたのだ。
この先もレースはこう着状態が続いた。琢磨の前を走る6人も大きなポジションの変動のないまま周回を重ねていった。アクシデントがなく、トラブルでストップするマシンもなかったことからフルコースコーションが出ず、ハイペースでレースは進んでいった。燃費のセーブが必要なレース展開となったのだ。
そんな状況でも敢えてピットタイミングを微妙にずらし、アドバンテージを得ようとトライするチームもあった。琢磨は53周目に2回目のピットストップを行った。最初のスティントより3周ほど引っ張ることができていた。そして、ここではウィル・パワー(チーム・ペンスキー)の前へと、ひとつポジションを上げてレースに復帰。常にトップレベルのスピードでピット作業を行うペンスキー勢に勝った。これはクルーたちの奮闘が讃えられるべきだろう。
とうとうフルコースコーションが一度も出されないまま、レースは終盤戦に突入。燃費を常に気にしながらのバトルが熱さを増していった。10回の使用が許されているプッシュトゥパスだが、それらを全部使えたドライバーはいなかったのではないだろうか。
琢磨が最後のピットで装着したのは新品のレッドタイヤ。当然、そのパフォーマンスをフルに活かして順位を上げていきたいと考えていた。ユーズドレッド装着で琢磨の後ろにピットアウトしたパワーは、もはや琢磨のポジションを脅かせる存在ではなかった。
残り23周、琢磨は前を走るベテラン、カナーンをパスした。「TKがヘアピンで一瞬リヤを滑らせた。それを見てすぐにプッシュトゥパスを押した」と琢磨。厳しい状況でも琢磨はコース上でのオーバーテイクをやってのけた。
これで順位は5位。前は開幕戦ウイナーのファン・パブロ・モントーヤ(チーム・ペンスキー)だ。琢磨はカナーンを抜いた直後、すぐさまモントーヤとの差を一気に縮めてみせた。
そして、ゴール前の10周、琢磨は4位を狙うアタックを続けた。しかし、巧妙なライン取りでモントーヤはパスのチャンスを与えず、ふたりはテール・トゥ・ノーズでゴールラインを横切った。
「今週末は良い戦いができたと思います。プラクティスで僕たちが置かれていたポジションを考えれば、予選で8位になるだけのカムバックを果たせたことがまず良かったですし、レースでは2周目から燃費セーブを始めて、結局は一度もフルコースコーションが出ず、難しいレースになっていました」
「自分たちは冷静にゴールまで戦い抜けました。小さなミスひとつ許されない緊迫した戦いが全行程で続く中、プッシュすべきところでプッシュをしてトニー・カナーンをパスし、ファン・パブロ・モントーヤにアタックすることができました。ピットタイミングなどの作戦面も良かったし、クルーたちのピットストップも素晴らしかった。マシンもレースを通して、どちらのタイヤでも高いパフォーマンスを発揮し続けていました」と、琢磨はホンダ勢トップとなる5位という好成績と、チームの実力アップを喜んでいた。
Report by Masahiko Amano / Amano e Associati