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女性アイドルはなぜ“走る”のか? AKB48、ももクロらの楽曲から考察

2016年04月19日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

AKB48『大声ダイヤモンド』

 近年は、数え切れないほどの女性アイドルたちが活躍しているが、人気アイドルの“楽曲”を聴き続けると浮かび上がってくる、ひとつの疑問がある。それは、「アイドルたちはなぜ走るのか」ということだ。楽曲によりその目的は様々だが、彼女たちはとにかく走る。本稿では「アイドル戦国時代」が叫ばれ始めた2010年前後から現在までを区切りとし、時系列をたどりながら、その意義を考察してみたい。


 今日に至るアイドルブームの象徴的な存在として、目立つのはやはりAKB48である。結成こそ2005年12月8日までさかのぼるが、ブレイクのきっかけとされるのは2008年10月22日発売の『大声ダイヤモンド』だ。まさに“青春まっただ中”というイメージの疾走感溢れるメロディに乗せて歌われるのは、プロデューサー・秋元康ならではの特徴ともいえる一人称の“君”と“僕”が歌詞の中に共存する世界観。サビのフレーズを思い起こせばわかるように、この曲も主人公が“走る”楽曲のひとつである。


 片想いというシチュエーションを連想させるこの曲の主人公は、伝えたくても伝えられない、もどかしい恋心を届けたい一心で、相手の元へと全力で走る。辿り着いた先で叫ぼうとする自身の気持ちこそがタイトルの通り「大声ダイヤモンド」となるが、この曲で走ろうとするのは純粋かつ素朴な理由だ。つまり、溢れ出る気持ちを抑えきれない衝動から“走る”に至っている。


 それは、いわゆるアイドルソングないし女性ボーカルの楽曲において、王道ともいえるテーマ“恋愛”をストレートに想起させるものである。しかし、その後リリースされたいくつかの“走る”楽曲をたどってみると、次第にその意義が新たに広がっていくさまが垣間見える。


 大きな節目として目立つのは、ももいろクローバーZの前身、早見あかり在籍時のももいろクローバーによる「走れ!」である。2010年5月5日に発売した『行くぜっ!怪盗少女』のカップリングとして収録されたこの曲も、タイトルから分かる通り“走る”ことをテーマに据えた楽曲のひとつだ。


 歌詞の世界観はAKB48の「大声ダイヤモンド」と同様、恋愛を歌ったものである。表記こそ多少の違いはあるが“僕”と“キミ”の世界観の中で、伝えたくても伝えられないもどかしさが歌われる点においてもイメージは重なる。ただ、目標を掲げて有言実行していくももクロのサクセスストーリーと共に、受け手の解釈も多様化をみせはじめた。


 やがては国立競技場でのライブを実現するに至ったももクロの軌跡をたどると、次第にこの曲の意義は「ファンと共に走る」というテーマへ置き換えられていった。次に目指す場所を公言し、ファンと一体となり目標へ向かって進んでいく。そのスタイルは「アイドル戦国時代」のさなかにおいてはひとつのモデルとして確立されたが、局面ごとにある種のアンセムとして歌われる「走れ!」は、いわばグループとしての、そしてグループを見守り続けるファンにとっての“決意表明”ともとれる楽曲へと昇華されていった。


 以降、女性アイドルたちの楽曲においては、テーマを“走る”としながらも、主語がグループそのものを連想させるものが目立つようになった。例えば、ももクロと同系列であるスターダストのグループでは、私立恵比寿中学の「もっと走れ!!」やチームしゃちほこの「もーちょっと走れ!」へ、そのスタンスが受け継がれている。


 多数のグループがしのぎを削る女性アイドル界。今この瞬間にも、彼女たちはより大きなステージへ羽ばたこうと奮闘している。MVを観ても“走る”場面がとりわけ印象に残ることには、きっと疾走感や躍動感を表現する以上の意味がある。彼女たちの明日を支えようとするファンと思いを重ね、ともに走り続けるんだという“決意”の表明――それが、ファンとのさらなる一体感を醸成する要因のひとつになっているに違いない。(カネコシュウヘイ)