開幕3連勝を飾ったメルセデスとニコ・ロズベルグ。スタートでダニエル・リカルドに先行されて2番手に後退したとき、多くのファンは、もう少し混戦になることを予想していたに違いない。
しかし、まもなくリカルドの左リヤタイヤがバースト。レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「デブリ(破片)を踏んだようだ」と語っており、スタート直後の1コーナーから2コーナーにかけてのフェラーリどうしの接触をはじめとする多重クラッシュが招いた不運だったようだ。
つまり2列目からスタートしたフェラーリ勢が同士討ちしていなければ、リカルドのタイヤがバーストすることもなかったはずだ。
メルセデスのチームマネージャーを務めるロン・メドウは「たとえリカルドのタイヤがバーストしていなくても、フェラーリが同士討ちしていなくても、ニコ(ロズベルグ)は高い確率で優勝していた」と断言する。
「なぜなら、スタートでニコはソフトを履いていたからだ。まわりのドライバーは1ランク軟らかいスーパーソフトでスタートするから、スタート直後にポジションを失うことは、ある程度は想定していた」
予選でQ3へ進出したドライバーは、予選Q2でベストタイムを出したときに装着していたタイヤでスタートしなければならない。通常はQ2でベストタイムをマークするのは、グランプリに持ち込まれるタイヤのうち、最も軟らかいコンパウンドとなる。中国GPにはスーパーソフト、ソフト、ミディアムが持ち込まれていたから、Q2に進出したドライバーはスーパーソフトでタイムアタックに出ていた。
しかし、そこでロズベルグだけがソフトを選択。その理由をメドウは次のように説明する。
「ピレリがタイヤを供給するようになってから、上海でスーパーソフトが投入されることはなかった。なぜならデグラデーションが大きいからだ。しかし今年はタイヤに関するレギュレーションが変更されて、スーパーソフトが投入された。確かにスーパーソフトは一発の速さはあるが、レースでは使えない。しかし、レースのスタート時はQ2でベストタイムをマークしたときのタイヤとなる。そもそもQ2ではQ3へ進出するためにトップ10に入ればいいので、最速タイムを刻む必要はない。そこで我々は、Q2を突破するタイムをソフトで出すという道を探ったんだ」
Q2でトップ10に入ったドライバーでは、ただひとりソフトを履いてアタックしたロズベルグは1分36秒240を記録。スーパーソフトを履いたフェラーリ勢からコンマ1秒ほど離されただけで、3番手に入り、Q3へと進出した。
「かなりチャレンジングな作戦だったけど、いいアタックができてホッとしている」と、ロズベルグは語っている。この作戦で行くことは、いつ決まったのだろうか。
「もちろん上海へ行く前、ファクトリーにいる段階から、オプションのひとつに挙がっていた。ただし最終的に決めたのは、中国GPの金曜日のフリー走行のデータを見てからだ」
つまり中国GPのレースに向けた準備は、土曜日の予選Q2から始められており、その勝負をメルセデスは制していたのである。
ただし不安もあった。それはスーパーソフト勢が1回目のピットインをするタイミングでセーフティカーが導入されることだった。果たしてレースでは、そのタイミングでセーフティカーが入った。それでもロズベルグは3周目にトップに立つと、その座を一度も譲ることなく、ポール・トゥ・ウインを飾った。それはレース再開後、ソフトを履いているロズベルグのペースが、スーパーソフトを装着したドライバーよりも速く、しかもタイヤを長持ちさせることができたからだ。
「フェラーリがミディアムタイヤの使い方に問題を抱えていることはテストのときからわかっていた。だからスーパーソフトが使いものにならない中国GPで、我々にアドバンテージがあることはわかっていた」と、メドウは言う。
セーフティカーが出なかった前戦バーレーンで、優勝したロズベルグと2位のキミ・ライコネンの差は10.282秒だった。中国GPではセーフティカーが導入されたにもかかわらず、ロズベルグが2位のセバスチャン・ベッテルにつけた差は37.776秒。王者メルセデスと他チームとのギャップは、数字以上に大きいのかもしれない。